2012年9月26日 from
鹿ヶ谷かぼちゃはひょうたん型なのが特徴だが、この形状でタネが詰まっているのは下部。しもぶくれになっていることもあり、ここにタネがびっしりとできる。安楽寺でご住職に話を訊くと、昔の人はこのタネの周りの濃厚な味のする部分が好きだったそうで、上の部分はわりと好まれていなかったのだそうだ。
「でも、上の部分も十分美味しそうですよねぇ。ちょっと生で味見してみましょか」
と杉本さんが刻んでくれたのを口にする。
「!」
ビックリだ、これはまさに瓜の味。どうも西洋かぼちゃの圧倒的なでん粉質を前にすると、かぼちゃがウリ科作物であることを忘れてしまうのだけれども、日本かぼちゃはやっぱり瓜なのだと言うことを思い出させてもらった。
薄刃でかぼちゃを綺麗に、鹿の子に皮をそいでいく。
前編に書いたように、鹿ヶ谷かぼちゃ、いや「おかぼ」を炊く時は、水と煮干し。これだけでまずは炊いていく。煮干しは小さめのものだった。もちろんこの煮干しも皿にそのまま盛っていただくのである。
火にかけて煮立てていく間に、杉本さんがひょうたんの上の部分を刻み出す。
「ここの部分もしっかりとした味わいがありますから、バター炒めにしようかとおもって、、、」
実はネ、と杉本さん、驚くことを話し始めた。
「わたし、おばんざい専門と思われてますけど、本当はフレンチの勉強してたんです。料理雑誌の仕事をしてた時もあるんですけど、その時もフランス料理の世界でしたし。だからホントはね、バタ臭い仕事をしたんです。」
そうだったのかぁ~! けどね、重要文化財の町屋の守り人であり、こんなにも和服の似合う京美人を、メディアが「西洋料理家」として扱うわけがない(笑) でも俺はそういうのは関係ないので、ぜひぜひバター炒めして下さ~い!
じゅわじゅわじゅわ~ と、鹿ヶ谷かぼちゃに火が入る。焼き目をしっかりつける焼き方をしていた。そうだよ、この焼き目が旨さになるんだ。
日本かぼちゃはデンプンがそれほど含まれていないから、火の通りもとても早い。バター炒めは存外なはやさでいい焼き目がついた。
「どうでしょう、、、うん、やっぱり美味しいわ」
ホントに旨い!
ホクホクとした食感とはまったくちがう、元もとしゃっきりとしていた食感が加熱によって少し柔らかくなった、でもみずみずしさが残っているという感じの絶妙な歯触り。果肉は端麗だけれども瓜らしい香りがほんのり、その淡さをバターの香ばしさと油分が補って、とっても美味しいのだ!
「粉チーズかけようかとも思ったんですけど、バターと塩だけで十分おいしいですねぇ」
本当に。いや、ラッキーにも計画外の一品をいただきました。
一方で、おかぼを炊いている鍋でもくつくつといい感じに煮干しの香りがたちのぼってきた。
柔らかくなってきたら、お酒や砂糖、淡口醤油で味付け。
先に書いたように「美味しすぎない」味付けを目指しているわけだけれども、、、でもネ、すんごく美味しそうな香りが漂ってるよ!?
完成です!
うーむ素晴らしい!さっさと食べたかったけれども我慢して20カットほど手を変え品を変えて撮影。
待ちに待った実食の時。おかぼの一切れを口に運ぶ。とろんと溶けかけた表面から歯を入れていくと、柔らかな、けれども細胞組織がそれぞれまだつながり合ったところをずり、ずり、ずりと歯が通っていく。なんとも絶妙な食感の後、染みこんだ煮干しの出汁と甘っぽい醤油の塩気と香りが舌に浸透していく。
美味しい、、、
「その食感をね、京都のひとは『みんずり』っていうんですよ。」
ええええええええええええええっ みんずり!? って実はこのとき僕の耳は「にんずり」と認識してしまっていて、原稿にもそう書いてしまって、校正の時に杉本さんから「ちがいますよ『みんずり』なんです」と直していただいた(涙) しかしこれ、国語辞書にも載ってる言葉なのだ!ぜひ皆さんひいてみてください。
それにしても驚きましたね。てのは、本当に心の底から美味しいから。 われわれ、というかなんというか、野菜の業界にいる人間はけっこう、「日本かぼちゃはなぁ、美味しくないしなぁ」といってしまいがちだ。鹿ヶ谷かぼちゃも、当の京都の市場人が「あれは飾りでね、おいしくはないよ」と言うくらいだ。
けど、けど、、、 すんげー美味しいじゃん! じつに風味も豊かで、味わい深い。鹿ヶ谷かぼちゃは美味しいかぼちゃなのであった。しかも和にも洋にもどちらにも寄り添うお味。大反省な発見でありました。
まーしかし、この取材ではとにかく杉本節子さんとお会いできたことが大収穫!こんな美しい人を撮ることができて、俺のカメラも幸せだ。
しかも場所はこの杉本住宅。
ほんとうの歴史のなかで、京都の伝統野菜を伝統的な料理でいただくことができた。幸せだねぇ。
最後、この暖簾のなかから人を見送るような感じで顔出してもらえますか?といったら、本当に偶然に、風がさぁっと拭いて暖簾がたなびいた。
鹿ヶ谷かぼちゃの本質をみせていただいた安楽寺のご住職、そして杉本節子さんに感謝!ちなみにこの取材の、鹿ヶ谷かぼちゃの来歴などのもっと詳細については、絶賛発売中の「やさい畑」本誌をご覧いただきたい。
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