2012年7月27日 from 食材
今日の読売新聞朝刊に、三重大学の勝川先生がウナギについて書いている記事が、じつに正論だ。ここのところ、くだらないテレビ番組のウナギ誘導報道に辟易していた身にはじつに小気味よく、読売の良心を感じた。冒頭に書いてあった、水産資源の利用について日本は国際的な批判を浴びている、ということをもっと一般の人が認識すべきだと思う。
ウナギは、絶滅が危惧されるほどにその資源が減ってるんだから、管理をしていかなければならない。だれがみたって当たり前のそのことを、日本の多くのメディアはきちんと表明しない。
「リアルスコープ」とか「スッキリ」とか、テレビをつけるとウナギ高騰についてのミスリードを誘う内容で本当に観ていて腹が立つ。やれ「ビカーラビカーラという品種が日本のウナギに近い風味だ」とか「アフリカからウナギを輸入」といったことを報道しているけれども、それはヨーロッパ種やジャポニカ種を枯渇させている張本人としての日本人の責任を問うことなく、他の品種に転換すればいいのダという安易で無責任な発想である。
それを公共の電波で流しているということは「資源が枯渇しそうだけども、ウナギを食べるのは立派な文化なんだから仕方がない」と肯定しているも同然だ、とまで僕は思う。ウナギ資源の減少の原因はまだ未解明とはいえ、最も疑われているのが「日本市場にむけた乱獲のせい」なのだから、その部分を反省することをきちんと流すべきだ。
その点、NHKの「サキどり」では、近大の有路准教授が「資源をきちんと管理しないと」ということをきっちり言っていたので、好感が持てた。
それにしては、僕は最近もウナギを食べている。資源の枯渇に手を貸しているじゃないか!と言う向きもあるかもしれない。はい、ウナギは大好きだし、食べます。ただし、高嶺の花として大枚払って、年に数回。それによってウナギの食文化も守られるし、養鰻場や専門店も最低ラインとして生き残っていけると思うから。
問題は、スーパーやコンビニ、牛丼チェーンなどで売られる安価なウナギ製品だ。実は日本のウナギ市場のなかで、鰻屋さんで販売されているウナギは全体の2割程度に過ぎない(!)。残り8割は、スーパーなどで販売されているものとなっているのだ。けっこうビックリするでしょ?
今、ウナギを養殖する養鰻業者という人たちが、自前で加工施設をもったりして、蒲焼き加工をしている。しかも冷凍技術が進んだため、作り貯めすることができるようになった。だから、まさにいま迎えた土用の丑の日が終わって、ウナギの相場がガクンと下がる時期に、翌年の土用に向けてせっせと蒲焼きを作り貯めするようになったという。それがスーパーやコンビニ、牛丼チェーンとかに流れている。
この分は、思い切ってざっくり減らしていいんじゃないでしょうか。なんて書くとかならず「庶民の楽しみを奪うのか!」的なことを言うヤツが出てくるだろうけれども、その庶民が安く楽しみすぎたせいでウナギが世界から減ってるんでしょうが、と返したい。減ったモノは元に戻すという責任をとらなきゃダメでしょう。養鰻業者さんもやっていけなくなるところは当然でてくるだろうが、総量規制することで市場原理的に価格は高どまりするわけで、そこでなんとか生き残ってもらうしかないのではないか。
前にも書いたけれども、日本では一度減少した水産資源を復活させるという誇らしいことを実現した県がある。それは秋田県だ。
秋田県民が大好きな魚と言えばハタハタ。あまりに好きすぎたのか、平成に入って漁獲が激減する。しかし秋田県民は偉かった。3年もの間、全面的に禁漁して「食べずに我慢する」という手段をとったのだ。結果、めでたく漁獲は回復。いまはまたふんだんに食べることができている。禁漁中に秋田に行った時、接待で20センチ程度のハタハタが一匹2500円くらいの値段だ、といって食べさせてもらったことがある。秋田県側の人たちは押し頂くようにしてそれを食べていた。
日本人はやればできる民族だ、と思いたい。とりあえず俺はもうスーパー店頭ではウナギを買わないよ。高い金を出して「あー 本当にご馳走なんだなぁ」と惜しみながら食べたいと思う。
ちなみに僕の会社は日本橋の小舟町というところにある、というのは一つ前のエントリでも書いたけれども、ここから歩いて行ける距離に、ウナギの名店が2店もあって本当に困る。そのひとつは以前にも書いた「いづもや」で、もう一店が「大江戸」だ。
今、出ている「きょうの料理」テキストの連載用の撮影に「大江戸」にお邪魔した。名店のウナギを割くところから逐一、蒲焼きになるまでを見せていただいたのでここにドアップ!今日はどこも檄混みだとおもうから、この写真を見てウナギを食った気になろうと思う。
うなぎにも規格があって、大きさというかグラム数で用途が分かれている。これは通常の蒲焼き用に使用される、いま最も価格の高いクラスのウナギだ。
これに目釘を打って、、、
一気にピーッと包丁を入れていく。この動作がかっこいいんだよネ!
内臓を綺麗にとって、、、
ヒレなどもとって整形。
これを、串に刺す大きさにカット。
これに串を打っていく。
プロはいともかんたんに、波を打つように竹串をいれていくが、素人にはできない技だ。
このプロセス、ビュッビュッと超高速で終了!
これを焼き場に持って行き、いよいよ白焼きです。
意外に近い火で焼くんだね!これも一歩間違えると大変なことになるから、素人にはできそうにないね、、、
じゅくじゅくと脂がしみ出てきて、その脂によってまた身肉がほっくりと焼けていく。
白焼きがあがったら、蒸し器に投入。
実は僕は、この蒸しの段階は5分程度で終わるんだろうと思っていたら、なんと20分も蒸すという!だから適度に脂が抜けて、柔らかくなるわけですな、、、
そうして、蒸し上がったウナギに蒲焼きのタレを三度つけて、仕上げだ!
このタレを分けてもらって、ご飯にかけて食いてぇ!
はい、完成!
こうしてありがたい鰻重が完成するのでした。おいしいとかそれどころじゃない、ありがたいお味です。ありがたすぎるのでもう一回ドアップで。
大学の先輩(学部は違うが)でもある涌井さんにいろいろお話を伺う。
「この相場が来年も続いたら、鰻専門店の多くが潰れますね。いまは、これまでの蓄財をはき出しながら営業しています。仕入れ価格を全部反映して値上げしたら、お客さんに食べていただける金額になりません。だからどこも、逆ざやを出しながら営業しています。」
来年以降もずっと美味しいウナギを食べるために、そろそろ日本人はスーパーのウナギを我慢をしてもいいんじゃないだろうか。どっかの番組で、中国で機械生産するスーパー向けウナギの報道をしていたが、蒲焼きを作ることができる機械の礼賛をするより、人が手で串を打って焼く文化を守ることの方がはるかに大事だと思うのだけれども。
ということで、腹が減った。むー。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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