2012年4月23日 from 出張
但馬の一泊二日の慌ただしい旅の中で、僕が牛として最も関心を寄せたのはこの子だ。もちろん純粋な但馬牛の血統。
のちに詳しく書くけれども、このこの肉がすごい評価を呼ぶもの、と思う。ただし、二年後にならないと肉を食べることはできない。この子の肉を食べることができるようになるのは今年の9月だそうだ。そう聞くと、牛のことを少しでも識っているひとは驚く。だって、痩せてるんだもの!まるで繁殖用のメス牛のようにスリムな体型。それは、この子が草しか食べていないからだ。
肉牛の世界では「肥育」と書くように、牛にカロリーの高いえさを与えて太らせる。結果サシがはいる。いつのまにか、農家の手取りが最適になるくらいの期間(20~30ヶ月程度)で牛を出荷できるように、餌を与えるようになった。けれど、それは肉が美味しくなる基準とはあまり関係がない、と僕は思う。
ゆっくり時間をかけて牛を育てると、内部で熟するというか、味わいも増すのではないか、という仮定を持っていても、それを肉牛肥育農家に話してみると「そんなの素人考えだ」と笑われることもあった。でも、本当にじっくり、粗飼料だけで放牧にして育てた黒毛和牛はどうなるのか、いつかそんな肉を食べてみたいと思っていた。
それをやろうとしているのが田中一馬君だ。彼は黒毛和牛の本場中の本場である但馬の地で農家になり、いままでにない牛を育てようとしている。そこにはいろんな困難があって、いま彼は往生している部分もある。
現状の但馬牛界にはない周年放牧。どうなんだろうかと思いながら足を運び、僕は確信した。あいつの取り組みは正しい。正しき牛の味がする肉を、あいつはつくっている。そう思ったのである。
この写真の肉は、子供を産んだ繁殖母牛を林間に放牧し、笹などの草を食べさせて肉にしたものだ。と畜後一週間で冷凍したのを解凍して焼いてくれた。冷凍肉なのは仕方がないとして、一週間しか寝かせていないんじゃ、旨味もうすいだろう。そう思いながら、焼いてくれたのを一口食べて、目を見張った。
これこそが「香りのする肉」なんじゃないのか?
このこと、後日(島根編が終わってからね)ゆっくり書く。楽しみにしていて欲しい。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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