ゲストも集合して会の始まり、荒井さんの挨拶のあとに僕から強力・優男の説明をさせてもらった。そして、強力と優男を育てた高知県畜産試験場の尾石さん。
実は尾石さん、この4月1日付けで異動になってしまった。でも、はからずも強力・優男を出荷するとことまで関わっていただいたと言うこと、本当によかったと思う。
「本当は、育成の段階(生まれてから肥育段階に入る前の8ヶ月くらい)から私が手がけたかった。そうしたら、結果がまた違ったかも知れません。これは私のライフワークにしていきたいと思っています」
と、話しておられた。ゲストの方達も、土佐あかうしのことをよーく識っているひとから全く識らない人までいろいろいたけど、じっと聞き入ってくれていた。
さあて、まずは熟成肉の食べ比べだ。
1.通常の土佐あかうし (グレイン(穀物)飼料を多給したもの) 6週間熟成
2.強力(ごうりき) (グラス(粗飼料)を多給したもの) 10週間熟成
3.優男(やさおとこ) (強力と同じ給餌内容) 6週間熟成
この三種を焼いたものを食べ比べる。
左から1、2、3と並んでいる。 このカットだと見た目上の変化はそれほどないのだが、強力と優男の脂肪の色は明らかに少し黄色がかっている。ただ、写真の部位はロース部分なので、あまりよく判別がつかない。
真ん中の強力が10週間(70日!)という長期熟成をしているにもかかわらず、肉色はそれほど深い感じではない。じつは肉の熟成によって、肉の外側はガビガビに変容するが、内部にはそれほど影響がないのである。以前、熟成10ヶ月(!)経った黒毛和牛の肉を食べたことがあるが、生ハム状の外側部に比べ、1センチナイフを入れた内部は通常の肉とみまごう鮮紅色だった。
来場者には、下記のメニュー表に美味しかったと思うものに丸をつけるというお願いをしてある。果たしてこの三種でどの肉が一番人気を呼ぶのだろうか?
さて、僕が食べた感想。
1の通常土佐あかうしは、今回の個体はありがたいことに今ひとつな味(笑)。サシと赤身のバランスが悪くて、脂の旨味少なく、それゆえ赤身の佳さも引き出せていなかったように思う。これは又三郎の荒井さんも仰っていたことなので、三谷ミートさんの責任ですな(笑)
おかげさまで、強力・優男の肉質がいっそう引き立った!
2の強力の肉。見た目で分かるくらいに、繊維が細かく密である。味わいは、やはりあっさりしたもの。
しかし、中心部まで熟成香がついている。肉質はしっとりして、噛みしめると肉汁が染み出てくる。この染み出てくる感が、まったくもって「染み出てくる」という感覚だ。酵素の働きによって極度に分解された肉の線維に結合していた水分が、やっと自由になったぁとばかりにほとばしる感じ。
脂については、強力の肉を数回食べてみて共通して感じる「綺麗さ」がある。ギト感や臭いといったものがまったくない、純粋な「脂」という感じなのだ。まるで植物油か?と思わんばかりの綺麗な脂質。それが物足りないという人もいるだろうし、逆にこれなら牛肉を食べられるという人もいるだろう。これが粗飼料によるものなのかどうかが、ポイントになる。
さて、3の優男の肉。
これが実に面白かったのだ。見た目で行くと繊維は強力よりも若干太い。色味は少し深い紅色。しかしですな、脂質が強力とぜーんぜん違う方向性なのだ。むしろ黒毛よりと言った方がいいか?と思うような強い風味。でも、赤身部分の味わいに土佐あかうし特有の香りがあり、あっさりしているので、嫌な感じはしない。というよりも、はっきりいって強力よりもキャッチーな美味しさを感じる。もしかして、この優男を美味しいって言う人が多いんじゃないの?と思ってしまうくらいだ。
果たしてこの三種の勝敗は!? 荒井さんからいただいたアンケート結果を見ると、、、
1 穀物中心の土佐あかうし 2票
2 強力 18票
3 優男 12票
ということに! やったぁああああああ 強力がトップとなりました!
ちなみに僕の席の周りでは、優男人気がかなり高かった。もちろん、事前に「強力」と連呼していることもあって、食べてに多少の刷り込み効果があるのではないかとも思うが、それをさっ引いてもよい結果だったのではないか、と思う。
さて、いよいよ第2部、熟成肉料理 東西シェフ対決の時間だ!
「強力・優男は、あっさりしていて脂質が綺麗なので、その美味しさを最大限に活かす調理法を考えて行くことにしました」
という、西日本代表の「又三郎」大森シェフ。
「熟成肉の持ち味をガンと出すことを狙いました」
という東日本代表の「カルネヤ」高山シェフ!
両者のメニューを見て下さい。
なんか、もうどんだけ出すの?というくらいのメニューです。大森さん多すぎない!?
一品一品説明していくと大変なので、以下写真のみにて失礼。
■高山シェフ:塩麹マリネードされた強力
■高山シェフ:カダイフ包みのポルベッタ(ハンバーグ)
これ、極細パスタであるカダイフに、熟成肉の脂が染みこんで旨い!
■大森シェフ:牛スモークと春野菜セビーチェ、塩漬けバラ肉とホワイトアスパラ
南米料理であるセビーチェの酸味が、薫香のある脂身の多い肉に合う!
会場では、こんなふうに料理をしている両シェフにマイクを向けて、対決ムードをあおるのが僕の仕事(笑)
メインに行く前に、これは又三郎のスタンダードメニューより、熟成肉のミートパイと、パストラミサンド!?
あ、これ、きっとNYの「Cut’s」のパストラミサンドをヒントにしてるんじゃないか!?という感じの超リッチなサンドイッチだ!
これに合わせて、極上のコンソメも。
このコンソメ、なんと熟成肉をトリミングする際にでてきた端肉でとっているのだ!
↑こんなふうに出てくる端肉を、、、
こんなに手がかかったコンソメに出している!このコンソメが絶品だったという人、多し!
そして大森シェフの怒濤の料理技法が並ぶ。
パンで作った釜に肉を載せ、上からグレービーソースをかける。
■大森シェフ:リブロースのローストと熟成脂で作ったヨークシャープティング
こちらは、マッシュルームのペーストを巻き込んで、周囲に網脂を巻いて加熱したものを輪切りにしたモモ肉。
こいつがこうなる!
■大森シェフモモ肉デュクセル風味 レフォール風味のマッシュポテト添え
そして高山シェフからは、グランペッツォというローストビーフ風料理に豆を添えて。
■高山シェフ:グランペッツォ
さあて、入り乱れてきたけど、いよいよメイン!
高山君が得意としている技、、、
■手前が高山シェフ:パレルモ風カツレツ 強力のイチボ
■手前が大森シェフ:炭焼きバラ肉のコーンドビーフとキャベツの煮込み
ぜんぜん肉とは関係ないけど、又三郎オリジナルのこれ↓が旨かった!
ピビンパの具をのり巻きにした?これ、ばくばく食べちゃった(笑)
その間、バックヤードでは、これまた「なんと!」の熟成肉のラグーをパスタに!
■高山シェフ:熟成肉のスパゲティミートソース
いやー もう満腹!
最初から最後まで肉! けれども、みなさんたっぷり時間をかけて味わって下さった。
東西対決ということでやったわけだけれども、これまた僕の周りでは評価が分かれていた。面白いことに、関東出身のひとは高山君、関西のひとは大森シェフの味を「美味しい」と思ったようだ。やっぱり、住む地域によって塩加減などに違いが出るのかもしれない!
又三郎店主の荒井さんより、〆のご挨拶
荒井さん、強力と優男をこんなふうに華々しく食べる会をしていただいて、本当にありがとうございました、、、
大森・高山の両シェフにも心からお礼を言いたい。ありがとう!
ゲストもいろんな人が来てくれました。左から高知県畜産試験場の松崎さん、尾石さん、そして「瓢亭」の高橋義弘さん。
尾石さんも松崎さんも泣きそう。「この実験の灯はともし続けていかないといけません」と決意を新たにされていた。
義弘さん「やっぱり僕、土佐あかうしが大好きです。優男はすごい味だったね。けど、今日食べた強力もそうとうによかった」
この日はなんと熊谷喜八シェフもご来場。若手シェフ達に触発されたのか、「次は僕が食べる会をやるから!そのときはヤマケンさん今日みたいに司会して!」と言われました(笑)
いやー それにしてもすごい会でした。
結論: 粗飼料多給した土佐あかうしの肉は、サシの入った肉より引き締まっているようで熟成期間が余計にかかる傾向がある。熟成の若いうちに食べると味わいが足りないと思ってしまうこともあるが、時間をかければ非常に味わいが深くなる。グレインフェッドの牛肉と同ジャンルと考えない方がいい。
ということでしょうか。強力と優男のお話し、まだちょっと続きます、、、
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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