2012年4月 4日 from 日本の畜産を考える
まだ、書いてなかったよね?いかんいかん。 おかげさまで日本ドライエージングビーフ普及協会の総会&セミナー、3月15日に無事開催できました。
いま、熟成肉のブームが確実に来ている、のだけれども、これからおそらくいろんな問題が出てくると思う。それは、熟成肉の定義がきっちりできていないので、みんなが勝手に「これが熟成」というものが氾濫するということ。実はもうすでにそうなってる。
もちろん各自の好きなようにやってもいいんだけど、その中には明らかに、「いわゆるドライエージング」にはなっていないものがあるということ。熟成というよりは腐敗の方向に進んでいるものを「熟成させてます」「ドライエージングです」と称して提供している店がある。店のレベルが下がるわけだし、お客さんが不運だったねというだけで済ませられればいいんだけど、もしそれで食中毒などの問題が出た時に、生肉や生レバーに規制がかかるような昨今の状況からみて、ドライエージングにも規制がかかるようになってしまったら、非常に困ってしまうわけだ。
そういうわけで、これからは「ドライエージング」「熟成肉」といった言葉をどう扱っていくべきかをきちんと方向付けていかなければならないと思う。僕はいきがかりじょう、先の協会の役員にもなっているので、そこをきっちりやらんと、と言い続けていこうと思います。
さて、、、この日はとにかく面白かったのだ!なんといっても、おそらく東日本で熟成肉を一番扱っているシェフであろう「カルネヤ」高山君のデモンストレーション。
当日朝に服部学園に足を運ぶと、キッチンスペースで高山君が服部のスタッフ陣に焼き方レクチャーをしている。およそ80人分の肉を焼くので、スタッフの方々にやっていただくのだ。
肉焼きの方法については、高山方式ともいうべき焼き方がある(後述する)。しかも肉の質によってそれが違うのだ。
この日、あつまった熟成肉はなんと7種! 品種も、黒毛和牛からホルスタイン、黒毛の繁殖牛を最肥育したものなどいろいろ集まっている。
これらの部位や肉質をみながら、最適な焼き方を高山君が的確に指示していた。
会場となった服部学園アネックスの講義ルームはすごい!こんな感じで、ステージカウンターにはグリルやオーブンがあり、手元カメラでそれらを写しながら講義できるわけだ。パネルディスカッションはちょこっとやりにくかったけど、いい設備ですなぁ。
まずは、帯広畜産大学の島田先生のご登壇。肉の熟成についてお話しをしていただいた。
先生いわく、ドライエージングビーフを生肉として考えるのか、それとも加工肉として考えるのかをそろそろちゃんと考えた方がいい、ということ。生ハムのような熟成を進行させる菌がついているわけだから、加工肉というくくりにしたほうがいいのかもしれないということを仰っていた。この辺、かなり議論をしないといけない内容だが、確かにそうかもしれない。
さあそして、高山シェフのデモンストレーション。熟成肉に適した焼き方とは!?ということだ。
会場内には料理関係者が1/3程いるため、ものすごい食いつきの視線のなか、高山君がレクチャーをする。
いま一般に行われている肉焼き技術では、厚みのあるカットのステーキは、周りに焼き目をつけた後、オーブン等で火入れをした後、最終的には余熱で火を入れていくというのが主流だ。
「龍吟」や「ランベリー」ではこれを逆にし、オイルバススターラーに油を満たし、そこに肉塊を入れて芯温を58℃くらいに設定する。そうすると時間をかけて加熱でき、最終的には肉全体が58℃になり、肉汁等は一切失われない。それを取り出し、油をぬぐい去った後、炭火で表面をバチバチッと焼き上げる。順番は先と逆になるが、これで表面の焼き色がつき、内部は58℃の均等な火入れ状態になる。
料理に正解はないから、どちらのアプローチも正しいわけだが、カルネヤ高山君は、どちらのアプローチもとらない。
「寝かせて火入れをするのは、予約中心のコースメニューとかでなら可能ですが、飛び込み客がいたりアラカルト中心の店では難しいですよね。冷蔵庫から出したばかりの、室温になっていない肉を使わなければならない状況下で、どのように熟成肉を焼いていくか、うちなりの方法をお見せします」
短角やホルスなどの赤身中心の肉と、黒毛のA4以上のサシが入った肉とでは焼き方が違うという。サシの多い肉では、かなり火の通りが早くなるため、火をじんわり入れる必要がある。また、脂を落としてばかりにすると風味が失われるので、脂の旨さを戻してやらないといけない。
そういうことで、サシの多い肉は、できればその同じ個体からとった脂のかたまりを鍋に敷いて、その上に肉を載せて焼くのだという。そこの部分のいい写真がないんだけど、下の写真、肉の下に脂が敷いてあるのがおわかりだろうか。
こうして表面を焼いた後、オーブン(かなり熱い)で焼きを入れていく。
逆に、短角やホルなどの場合は、フライパンで直接鍋肌に肉をつけ、そのまま焼きを入れていく。ほんとうはカルネヤでは炭火の直火なのだけども、ここでは炭火は使えないし、一般の店で炭火は厳しいということで、フライパンでのデモをしている。
フライパンの場合、できるだけ脂は染み出たのをすぐに取り除く。酸化した油だからだ。
高山君の焼き方で面白いのは、あまり肉を火から離して「休ませない」ことだ。一般的にはある程度焼いたら暖かい場所に置いてやすませ、表面の火が内部に浸透していくのを待つ。
「それでもいいんですけど、、、ある程度厚みを持たせた肉を焼く場合、片面を焼いていたら、上の面は休んでる状態なんですよ。だから、僕は休ませずに焼いていきえます」
うわー、マジで!? その代わり、温度の見極めはシビアだ。
同時に、オーブンから出した黒毛のほうに、染み出た脂をかけまわすアロゼを行う。
「こちらは、なんといってもサシの美味しさ、風味を必要とするので、脂をこうやって戻してあげます。」
こうして焼き上がった肉の断面がこれだ!
これをみた「ランベリー」の岸本さんが「うーん、あんなに連続的に火を入れて、ちゃんとロゼに仕上がってるからすごいね!」と唸っていた!
この状態だと肉汁はおちついていないわけだが、実はそれもまた美味しい。肉が内部で爆ぜているというべきか。
そして会場内では7種の肉盛りが廻っていた。
7種の内訳は、、、ここではやめときましょうか。さの萬さん、マルヨシ商事さんといった、すでに熟成庫を成功させているところの肉はさすがの香り。しかし中には「熟成香がまだまだ感じられない、、、」というものもあった。そういうものを並べて食べ比べできたのが、今回の最大の収穫だ。
東京ドーム鎌田シェフの〆の言葉。高山君のデモに刺激されたのか、焼き方に関する持論を展開しておられた。やっぱりサラマンドルを使うのが近道なのかな。
そしてもう一つ、、、
これまで日本におけるドライエージング技術を追求してこられたさの萬の佐野社長に、JDBPの「認定書」をお渡しすることに。
佐野さんはJDBPの役員でもあるので、自分たちで自分たちを表彰するなよ、という向きもあるかもしれないけど、ドライエージングの世界で佐野さんが果たされた役割は大きい。文句ないでしょう!
ということで、無事会は終了したのでした。
うちあげパーティーはカルネヤで。
今年も、NYのドライエージングビーフを視察するツアー、やります。6月後半の予定。また告知しますね。ということで!
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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