岩手にて、これを書いてます。今週の月曜日は、三田にある愛媛大学のサテライトキャンパスにて、サステイナブルシーフード研究会のシンポジウムを開催した。この研究会はここ2年間にわたり開催してきたもので「持続可能な水産資源の利用」を、主に料理関係者に識ってもらうためのものだ。
というと無茶苦茶こむずかしいものに聞こえると思うが,簡単にいえばまずは獲りすぎている魚や絶滅の恐れがある魚を使わないようにしようネということだ。日本人は昔から水産資源が豊富な国だと教育され、国民に向けた資源の危機状態があまり喧伝されていないからか、あまりぴんと来ていない。けど、世界的にみると、食べることができる水産資源は減少の一途なのだ。FAOの調査によれば、ガンガン使ってかまわない魚種は全体の20%しかなく、残り80%はもうこれ以上に漁獲を拡大することは無理、とされている。
最近ではウナギの高騰が問題になっているが、これも乱獲が大きな原因の一つだ。それを促しているのはおそらくスーパーやコンビニ、そしてファストフードチェーンでの安価なウナギが出回っていること。ウナギを1000円以下で食べられるということはちょっとオカシイことなのだ。僕は、こうしたウナギ専門店以外が行っている安売りは何らかの形で規制して行かなければならないと思っている。もちろんそれはウナギの漁獲が回復するまでの時限措置としてだ。
前にも書いたが、秋田県は昔、県民が大好きなハタハタの漁獲が深刻に減少し、3年間の禁漁措置をとった。その頃秋田に出張したら、県外から来た立派なハタハタが一匹2000円もするというのに驚いた。でも秋田県民はハタハタを守るためにこの禁漁期間を耐えて、見事漁獲を回復し、いまではまたふんだんに食べることができている。
でも、日本では「漁獲を制限しよう」と言うと、かならずテレビや週刊誌も『庶民がウナギを食べられなくなる!?』などという、いかにも高所得者だけは食べられて庶民が食べられないことの方が重大事だ、というような報道をする。マグロにしてもそう。これは実に恥ずかしい稚拙な議論だと思う。人の営みによって減少した自然は、人が営みをいったんやめて、増やして戻すのが道理だ。庶民も高所得者も関係ない。うなぎは誰にとってもありがたいご馳走なのだ。
と、この話がウナギだけでなく多くの魚に言える状況になってきている。この状況をまず料理人や関係者にしっていただくというのがこの会の目的の一つ。そのうえで、持続可能な漁法やこれまであまり価値の高いものとして扱われてこなかった養殖や冷凍の水産物に対する認識を変えてもらおうと、新技術による水産物の食べ比べ会をしてきた。
このシンポジウムはその二年間の総括。次年度、会を運営する助成金がいただけるようなら、またこの活動を拡大していく予定だ。
さて、シンポジウムでは、すでにこの水産資源の獲りすぎ・枯渇問題を昔からとりあげ、自分の店の仕入れに反映させてきた江戸前寿司の名店「第三春美寿司」の長山一夫さんだ。
有名な店なのでご存じの方も多いだろう。新橋にある第三春美寿司では、毎日お客様に出すネタの詳細な情報を、お品書きにして渡している。
今回は、長山さんが数十年間保存してきたこの品書きの春・夏・秋・冬のものをカラーコピーして配布した。
ここには魚種と産地だけではなく、その漁法(一本づりとか定置網とか)、魚体の重量などが事細かに記されている。魚だけではなく卵焼きの玉子、醤油に至るまで詳細に。
「魚は季節と産地と漁法、そしてサイズでも美味しさが変わります。その季節におけるベストのベストを狙うためには、産地の状況や漁法による違いまで理解しておかなきゃいけないんです。それが寿司屋の仕事なんです。」
という言葉には心の底から驚く。こんな寿司屋が何軒もあればいいのだが。ちなみに長山さんの著書はいま3冊出ている。「仕入れ覚え書き」は売れに売れて、築地場内の書店でも常に在庫些少の状態だそうだ。
続いてパネルディスカッションでは、これまでのセミナーで料理をしてくれたり、または参加してくれた料理人達に登壇してもらった。
レストラン「Y」の山崎シェフ、うなぎの日本橋「いづもや」の岩本さん、そしてリストランテ大澤の木村シェフだ。
「いづもや」では、海老の勉強会の際に食べ比べをしてもらった際「こんなに筋繊維のしっかりした冷凍海老があったのか!」と驚き、エコシュリンプというインドネシアの粗放養殖の海老をいま利用してくれている。
リストランテ大澤では、鹿児島で黒酢もろみなどを餌にし、無投薬で養殖されている黒酢ブリと、信州サーモンというマスを使ってくれている。どちらもお客様から好評だそうだ。
料理人からみれば「養殖物はダメ、天然じゃなきゃ」というのがなんとなく教えられてきたことであるわけだが、実際にたべくらべをしてみると、確かに違いはあれども、使い方によっては養殖でもなんら遜色がないものも多い。天然物は獲れないときは獲れないし、確実に旨いというわけでもない。その点、養殖は漁獲も味も価格も安定している。そういうベストバランスを追求すると、使う選択肢もあるということだ。
こんな感じで話を進めていった。ちなみにパネルディスカッションの進行は僕がやったのだが、、、
会場からの質問を募ると、意外なことに水産行政の役人が「持続可能性を云々しても、それをお高い料理人がどうこういってもダメだ!」みたいな、応援団の眼の前でその人達を否定するようなことを言い出した。それに触発されたかのように、今度は水産業者さんが「魚の持続可能性を言う前に、わしら水産業者は魚が高い高いといわれて、もうこんなんじゃ漁師はいなくなってしまう。こんなことやっても無駄なんじゃ!」というようなちゃぶ台返しをしてきた。
えええええええ 別に批判的なコメントはしてくれてかまわないけれども、水産業に関わってる当の本人達(しかも一人は行政のど真ん中)が、持続可能性について否定しやがった。しかも役人さんは「客単価いくらっていうお高い店の料理人さんの話に聞こえるけど、、、」と、料理人にこうした水産資源の危機を訴えていくこと自体を否定しやがった。
本当に心の底から残念。日本の水産は、役人からしてこうなんだなと失望してしまった。あとから観てた人に「あんなふうにキレそうなやまけんは初めて観た」と言われてしまった。
まあ、そんな後味の悪い終わり方ではあったが、シンポジウムは無事終了。お越しいただいた皆様、ありがとうございました。
二年間の活動を祝して、軽く打ち上げin渋谷のイタリア料理「ピノサリーチェ」。
うちの会社のN女史のイタリア仲間のレイコさんが腕をふるう店だ。
席に着くなり、先の爆弾発言をした水産行政、そして水産業者さんのありようについて、リストランテ大澤の木村シェフがドカンと爆発。
「やまけんさん、俺を指してくれてたら、あの人達に言いたいこと一杯あったのに!」
彼からすれば、「料理人の方が危機意識を持って、うまくお客さんに伝えることもできるのに、水産関係者自身があんなことを言うなら、味方しようという気が失せちゃいますよ」とのこと。本当にそうだよなぁ。
まあしかし憂さを晴らすかのように、美味しい料理の連続。
はぁ、旨い料理をいただいてようやく怒りが収まってくる。んー。
この、レモン風味のリゾット、透明感のある味で美味しかった!
ここでハプニング!嬉しいことに、一日遅れの誕生日をお祝いしてもらった。
41歳、本厄の年は、波乱含みで幕を開けたのである、、、ナンチャッテ。
サステイナブルシーフード研の皆さん、そしてシンポに出ていただいた皆さん、本当にありがとうございました!
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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