2012年3月30日 from 日本の畜産を考える
優男が、お肉になりました。ありがたいことです。粗飼料(草)をたくさん食べると、土佐あかうしの肉質はどうなるのか、という試みのために命をいただくことになった優男のお肉を、残さずいただきたいと思います。
この優男(やさおとこ)の肉を、消費者の皆さんにもたべていただければと思います。とはいっても、スミマセン、いつも短角で行っている1kgの焼き肉セットを、たったの20名様のみ限定です。絶賛販売中というか、もうほとんど残っていないのです。関心をもった料理人さんたちによってたかって肉をとられ、もう肩ロースとウデと前バラしか残っていません。それらをミックスしてスライスし、焼き肉用として販売させていただきます。
その前に、この優男についておさらいです。
土佐 土佐あかうしは高知県で育てられている和牛の一種です。その特質は、きめの細かい小ザシが入り、そのサシの脂がスッと溶ける融点の低さです。昭和30年代には全国の子牛市場で最も高い値段が付いたほど、人気の高い品種だったそうです。
高知種は小柄な体躯に人なつこさをもち、そしてなぜか眼の周りなどが黒い毛で覆われる「毛分け」という印が出る血統が好まれてきました。上の写真の真ん中にいるオスの顔をみると、眼の周りが黒いのがおわかりでしょう。高知県の肉牛農家さんの多くが、土佐あかうしを愛し、育ててきました。
しかし、肉の格付が改訂されてから、日本ではサシが多量に入る黒毛和牛の人気が圧倒的になりました。確かに黒毛はすぐれた品種ですが、農家は生きていくために、格付で有利な黒毛ばかりを飼うようになり、各地方にいる優れた品種が減少することとなりました。土佐あかうしも、いまや2千数百頭しかいません。
しかし近年、土佐あかうしの人気が高まってきています。これまでほぼ高知県内でしか消費されてこなかったのが、関西や東京のシェフが関心を持って使うことで、徐々に拡がり始めました。脂の美味しさと赤身の風味が両立していることが、受け入れられた要因でしょう。
そんな中、高知県畜産試験場にて初めての実験が行われました。それは、これまでの穀物中心の飼育ではなく、粗飼料と呼ばれる草由来の飼料を中心に土佐あかうしを育てようというものです。
土佐あかうしを測る基準はこれまで、黒毛和牛とおなじサシと肉の歩留まりでした。けれども、土佐あかうしの美味しさは黒毛とは違うところにあるはずです。そのベストバランスを探すためには、カロリー重視の餌の配合を見直さなければなりません。
また、高知県には独特のヒエが自生しています。これをロールにして乳酸発酵させた餌を食べさせることで、地域自給率の高いオリジナルな土佐あかうしの肉になるのではないか、ということが期待されました。
そうして、高知県でも初の「粗飼料多給した土佐あかうし」として二頭の子牛が選ばれました。その二頭の名付け親になったのが私です。一頭は小柄だがギュッと目がつり上がり、暴れん坊。「強力(ごうりき)」と名付けました。もう一頭は身体は強力より一回り大きいのですが、優しくまつげが長い、チャーミングな顔立ち。「優男(やさおとこ)」と名付けました。
写真の粉のようなものが配合飼料で、その奥にある草を裁断したものが粗飼料です。そして、下の写真にある膨大な量の草を、与えます。通常なら配合飼料がこの二倍~三倍なのですが、それを押さえて草を与えているわけです。
草は、野ヒエやイタリアンライグラスといった牧草です。野ヒエは四国にしか育たない野生のヒエで、刈り取った後に上手く発酵すると、バニラの香りがします。
料理人のみなさんも、餌の香りが肉につくのか、と驚き、香りを嗅いでくれていました。
彼らは飼育担当者が心配するほどにスリムに育ちましたが、最後の肥育段階でギュンと太ってくれました。与えた配合飼料は通常の半分以下で、多量の草飼料を食べて育っています。
彼らの世話をしてくれた、試験場の尾石さんは、この4月に異動となります。粗飼料を多給する方式について、最初は半信半疑だったとのことですが、「この方式には意味があったと思う」と仰ってくださいました。
先日、優男がお肉になったのを見届けた尾石さんから連絡がきました。
やまけんさま
優男のお肉ですが、下記の成績でした。
枝肉重量544.5㎏。格付はB2でした。
ロース芯面積 47平方㎝
ばら 7.5㎝
皮下脂肪 2.2㎝
脂肪交雑 2 でした。
強力は粗飼料多給なのに脂質、とくに柔らかさに特徴があり、優男は逆に硬い脂質です。ただ、赤肉の味は優男のほうが味があるような気がします。
実は私もまだ、優男の肉を食べていません。それは、堅く締まった肉質らしいので、それがほどける(タンパク質が分解する)まで、長めに熟成する必要があるからです。しかし、先んじてヒレ肉を買って食べてくれた、京都のある料亭の方からは「これ、ムチャクチャ美味しいですよ!」という連絡が来ました。期待してよいのではないかな、と思います。
なんにせよ、優男の肉はこれまでのお肉とは違う味であることは確かです。優れているかそうでないか、皆様のお好みにあうかはわかりません。ぜひいろんなご意見をおきかせ下さい。
お肉を焼き肉セットに加工し、発送してくれるのは、土佐あかうしにすべてを賭けている肉屋さん、三谷ミートさんです。
さて、このお肉を食べたい方は、下記をご確認の上で申込みフォームに必要事項を記入し、登録してください。
■優男のお肉 焼き肉セット
部位は肩ロースとウデと前バラのミックスで、量は約1キロ程度。すべて焼き肉用のスライスになります。肉質がじゃっかん堅め、噛みしめて食べる肉になっているようですので、薄めのスライスにします。(とはいえ、けっこうやわっこくなってます(by三谷専務)、とのことでした)
価格は送料込みで6500円(安い!)です。ただし、事前にお振り込みいただきます。
申し訳ないことに発送日は決まっております。一度にカットして送らないといけないので、ごめんなさい。発送日は4月の6日(金)で、7日(土)または8日(日)着となります。北海道などは二日かかるそうですので、ご注意ください。到着後、できるだけお早めにお食べください。
買っていただける方は、お手数ですが、食べた感想をおきかせいただければと思っています。内容については別途連絡いたします。
以上をご確認のうえ、下記フォームにてお申し込みください。火曜日の17時に募集を〆切にさせていただきます。そこから抽選をし、当選した方には4日中にお振込みをしていただくという突貫スケジュールになります。ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします。
■優男の肉 焼き肉セット申込みフォーム
http://my.formman.com/form/pc/0uxkBfXn6ZADZlNU/
なお、強力と優男の二頭の試験飼育が終了しましたが、この先、またこのような実験を行うかどうかは全く決まっていません。もしかすると粗飼料を多給した土佐あかうしはこれで最後かもしれません。興味のある方はぜひ、優男のお肉を味わってやってください。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
本サイトの著作権はやまけんが保持します。出版物・放送等に掲載される場合はご連絡を下さい。トラックバックはご自由に。