TPP推進の動きが始まった。そして日経新聞がシレッと、毎度の事ながら経済界にだけ都合のいい「農業改革」の話題を書くが、そのなかにホンネが出てる。「態度が定まらないTPP問題などで、米国はいらだちを強めている」やはりTPP推進はアメリカから押しつけられた”条件”だ。

2011年9月15日 from 農政

昨日から京都入りしているが、本日は某テレビ局でTPPに関する対談番組の収録だ。昨日は局の担当の方とミーティングをしたのだけれども、西日本でしか放映されないみたいだけれども、実に気合いの入った番組作り。こういう民放もあるのだな、と瞠目した。これから出るけど、楽しみだ。

以下、昨日僕が描いたツイート三本。

いま京都に来ている。本日はJA関係者への講演、明日は某テレビ局の番組でTPPに関する対談。もちろんベースはTPP反対だがそれ以前に「ちゃんと考えよう」的スタンスでの進行になる。スタッフさんと話をしたけど、非常に真摯な取組。そんな番組作れる民放があるとは思ってなかった。

誰かがつぶやいていたが、TPPは推進派に都合のよいコメントしかメディアに出ない。メディアは経済界に牛耳られているからだろうか。原発問題もそうだが、最悪の事態になっても最後の責任を誰もとらない。嫌な時代だ。でも俺はTPPは反対し続けるよ。

アメリカの意向なんだからしょうがない、とニヒルに決めてるヤツもいるが、でもBSE問題は日本の民意がいまだに牛肉輸入に反映されている。抗うことは有効なのだ。座して死を待つのは最悪の愚策だ。TPPはたべものを変えてしまう大問題なのだ。

夜、友人と飯を食い、ちょっと原稿を書いて寝て起きて、ホテルの朝刊サービスをとる。第一次産業に対して非常に圧力的な記事を書く日経新聞を、自分で買うことはなるべくしないようにしているのだけれども、とりあえず朝刊サービスは日経にした。そしたらドンピシャの突っ込みどころ満載の誌面だった。

2面の社説に「農業を成長産業に変える改革を急げ」、同じ面の横に「日米同盟深化確認へ」とあり、その中では「TPPを推進せねば」の話。そこだけかと思ったら、15面に「離陸する農ビジネス」という特集の「下」。

紙面的には原発問題について一定の方向性が見えてきた(実際にはなんも収束しているようにはみえないが)という判断だろうか、一気にTPP参加に向けた「世論作り」をしようという意図が見える。あたかも「これまでとは違う新規参入組による農ビジネスが実効段階に入った」的な記事にタイミングを合わせて社説が出ているわけだ。

ここでいう「世論作り」はもちろん日経の読者層であるビジネスパーソンの世論である。正直いうと社説は、そうとう上部の人が書いているのだろうけれども、相変わらず農業や第一次産業を識らない人が読めば「なるほどそうなのか」と誤認してしまうようなレトリックに充ち満ちている。

    • このままでは日本は自由貿易の風に乗れず、経済成長の道が狭くなる。野田首相は交渉参加を決断すべき。
    • 弱者保護の農政から脱却すべきだ。日本農業は弱いから市場開放できないという後ろ向きな姿勢では、農業の未来像は描けない。
    • 取り組むべきは生産性の引き上げ。農地集約をし一戸あたり農地面積を広げる必要がある。
    • その実現にむけ、ばらまき政策である現行の個別所得補償制度を改め、農地の大規模化に導く仕組みに変えるべき。
    • 農地の貸し借りをしやすくし、規模に応じて補償の加算を増やすなどの方法が考えられる。
    • 農業生産に限定せず、加工やマーケティング、観光などを含め農業を再定義し、前向きな政策を打ち出すべき

とこんな論調だ。そして最後の部分で一転して「国内農業は国民の食を支える重要な柱である。将来への希望や価値を生み出す喜びがなければ、投資も人材も集まらない。」と、日経は明るい農業をサポートしますよ的な書き方で締めくくっている。

ほんとうに相も変わらず意味のないことを言い続けているなぁ、とあきれたのだけれども、原発関連報道の構造を思い出してゾッと背筋が寒くなった。今回の鉢呂さんを辞任に「追い込んだ」大新聞の偏向報道などをみてもわかるとおり、新聞は真実など報道しない。いや、政策的に誘導するべき案件と関わりのない記事ではそうでもないのだろうが、重要案件については真実ではなく、誘導したい方向へと記事を意図的にねじ曲げて書く。ペンの力は大きいのだ。大新聞が繰り返しくりかえし書けば、誰もが「もしかしたらそうなのかも」と思うものだ。

「日本農業は弱いから市場開放できないという後ろ向きな姿勢では農業の未来像は描けない」という。つまり「強くすれば開放しても大丈夫」と言う方向に持っていきたいわけだろう。しかし強くなるためのネタといえば、この社説では「大規模化による生産性引き上げ」である。これが成れば「強くなる」などという論理は、農業関係者であればその多くが「ばっかじゃないの」と思うはずだが、他産業に就くビジネスパーソンからすれば「そうなんだろうなぁ」と思ってしまうだろう。

再三書いてきたけれども、大規模化にはお金がかかる。単に農地をたくさん持つことが出来ても意味が無く、一枚の農地面積が数ヘクタール規模になり、均一な条件で大型機械による作業ができるようになれば、確かに大規模化には意味がある。しかし実際、日本の狭い農地事情ではどうやっても無理だ。いまの時点で田圃や畑は畦に阻まれていたり、高低差が大きかったりする。これを一枚にまとめるには膨大な土木事業費が必要になるのだが、その金はどこから出るのか?日経が本当にこの論を推すなら、後段でこう書くべきだ。

「大規模化を推進するために、農地を集約する意志のある農業者・団体には農地整備のための土木灌漑工事の補助金を交付することが必要だ」と。でもそんな金、出てこないでしょ?

もっと突っ込むところはあるんだけど、時間がないので次。その横にある「日米同盟深化確認へ」の記事内では、うっかりなのか作為的になのか、TPPへの参加圧力が、他でもない米国からの突き上げによるものだということを証明するような文章が。

「底流では、鳩山政権で迷走した普天間移設や、なかなか態度が定まらないTPP問題などで、米国はいらだちを強めているのが実情だ。」

なんで日本がアメリカの「いらだち」に付き合い、譲歩する必要があるのかわからない。そして最後の部分では

「首相近辺は、『今後は普天間だけでなく米国産牛肉の輸入規制問題などで対日圧力が強まるかもしれない』と懸念する。」

と。あのさ、「首相近辺」って誰なんですか?重要な位置である2面の記事に、本当に誰かが言ったのかも明瞭でない「首相近辺は~懸念する」などという書き方。

まあとにかく日経新聞は、自分で告白したのだ。TPPへの参加は「自由貿易の風に日本が乗り遅れないため」などと謳っていたけれども、ホンネは「アメリカさんがTPP参加しろって言うから、僕らは従わなければいけないの」ということだし、なんらかの経済面または安全保障面での条件との引き替えで、TPP参加を進める圧力がかかっているということだろう。

いやな世の中になったものだ。さて、ではTPP問題を考える対談に行って参ります。