胸を張って日本の味といえる油は菜種油だ!高級オリーブオイルを買う前に、国産菜種を圧搾絞りした、色も香りも濃い「工房地あぶら」の菜種油を味わってみて欲しい。この味と香りはまさにアブラナ科植物のエッセンスだ! その1

2011年9月 7日 from

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昨今、美味しいオイルと言ったときによく引き合いに出されるのは、悔しいことにオリーブオイルが多い。数ある油のうちでも珍しい、果実から直接絞り出すことができるオリーブオイルはたしかに香りがよく、美味しいと思うものも多い。オリーブの品種や産地、搾り方によって全く味が変わるところから、ソムリエ的な楽しみもある。イタリア料理の浸透とともに、日本におけるオリーブオイル人気も盤石のものとなった。

しかし!店頭で200ml程度で2000円もするような高いのがバンバン売れていくのを観ると、僕は悔しくなる。日本には、日本食にバチッと合う油があるんだぞ!それをちゃんと認識してるのかい?と声を上げたくなる。だから、このエントリを見て少しでも感じるものがあった人はぜひ、ここで紹介する菜種油を味わってみて欲しい。関東でもいくつかの店で扱っています。

日本のカロリーベース食料自給率は2010年の段階で39%、先進国中ではダントツに低いことはご存じだろう。では、いつも意識せずに使っている“油”の自給率って、考えたことはあるだろうか?実は日本の油の自給率はたったの13%。そのうち8%はラードなどの動物性油脂といわれており、つまり日常的に過程で使う植物油はたった5%程度しか自給していないというのが現状だ。

油は、油脂を多く含んだ原料を、圧搾(圧力をかけて絞る)したり、化学的に抽出したりして得ることができる。油脂原料には様々なものがあるが、代表的なのは大豆やパーム(椰子)、菜種にひまわりといったところだろうか。日本では大豆といえば豆腐や味噌の原料だけど、世界的に見れば油を絞るための原料穀物という位置づけなのだ。

あら?でも私が使っているのはサラダ油。これって何から出来ているの?という方は製品の裏面を観て欲しい。大豆や菜種、コーンといった原料が記載されているはずだ。しかしサラダ油には、これといって作物の風味がしない。大豆っぽさや菜種っぽさって伝わってこないことが多い。それもそのはず、サラダ油というのは高度に化学的に作られている。

例えばよくあるサラダ油の製法。原料に含まれる油を無駄なく徹底的に抽出するため、ヘキサンという溶剤を混ぜる。すると原料内の油がほぼ全量溶け出し、加熱するとヘキサンが蒸発して油のみに分離できる。これをカセイソーダなどを加えて精製し、活性白土というものを加えて色を取る。さらに臭いを取るために高温にし、水蒸気を吹き込んで脱臭をし、最後に冷えると固まる性質を持つロウ分というものを除去する。、、、これがサラダ油の大まかな造り方だ。

「ひええええ、何が何だかわからないけど、すごく手がかかってるなぁ」

と思うでしょ?その通り、サラダ油は多重な処理を重ねて油脂原料の個性をなくすことで、多用途に使えるようにした油なのだ。

逆に、個性のある油ということでいえば、日本ではオリーブオイルが人気だ。オレイン酸が沢山含まれていて健康にいいよ、と言うふれこみだし、最近では香りを愉しむ人も多い。けどね、その前に日本の素晴らしい油の文化があることを、忘れてやしないか?と思ってしまう。今も日本で搾られている、薫り高く美味しい油。それは菜種油なのだ。

以前、タキイ種苗という種子メーカーが開発した菜種(なたね)の記事を執筆したことがある。その菜種を油に絞ったものを、なんと京料理「菊の井」の村田さんに味わってもらい、料理レシピをつくっていただくというものだ。その折りにいろいろと話を伺ったのだけれども、村田さんの語る「日本人にとっての美味しい油」の話に僕は打ちのめされた。

「あのな、昔は油は食べるためのもんじゃなくて行灯(あんどん)の火に使う貴重品やった。そこで使われてた油は菜種油だったから、日本人は昔から菜種油がこげる香りを嗅いでいたわけ。そんで、欧米じゃ肉食文化やから、肉のタンパク質が焼ける香りを『美味しそう』と感じたわけやけど、日本人は穀物を炒りつけた香ばしさを『美味しそう』と感じた。そやからナタネとかゴマとかが人気ある訳よ。やっぱり菜種の香りが穀物に近いことと、昔から嗅いでいたっちゅう記憶があるんやないかなぁ」

なるほど、である。

あ、ここまで書いて、タキイ種苗のネット通販ページに、このときの取材記事がまだ掲載されている(というか菜種油が売られている!)ことを発見したので、リンクしておきます。

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http://shop.takii.co.jp/shop/selection/natane0811.html

もちろん、こういう表向きの話だけじゃなくて、油にも「安全性」に関わる話がある。例えばまた違うある料理人さんが、「大きな声じゃ言えないけど」と話してくれたこと。

「あのね、業務用の油にはシリコンが入ってるんだよ。そう、あの整形に使ったりするシリコン(笑)の粉末。なんでかっていうとね。業務用フライヤーとかで大量に油で調理するときに、一番いやなのは油が泡だって沸いてしまうこと。あるでしょ、一気にいろんな揚げ物しようとして鍋から溢れちゃったり。あれを消すのにシリコンの粉末をちょっと入れるだけで、治まるんだよ!」

なんと、、、でもさ。それって身体に影響はないの?

「うーん、、、そうなんだよね、、、科学的な調査がされてるかどうかはわからないけど、業務用フライヤーで毎日揚げ物してる人で、なんか原因不明のアレルギーになっちゃう人とか、いるらしいよ。それに、そういう安い油はたいがい石油製品の溶剤を使って抽出してるから、その関係もあるかもね。とにかく俺はそんな油は使わないね。ヤマケンも気をつけた方がいいよ。」

これはさすがに誰が言ったということは書けない。油メーカーに怒られちゃうだろうからね、、、

そういうことで、僕も数年前から、油には特に気をつけている。だいたい、産直市場とかで農家の手搾り菜種油が900mlで1000円くらいするのに、スーパーに並んでる、1リットル以上入った油が398円で売ってるのってなんかオカシイじゃないか?ということだ。

ということでにわかに菜種油に強い関心を抱くようになった僕の前に、すごい菜種油が現れたのだ。

「やまけんさん、僕の絞った菜種油も味をみてくれませんか?」

僕がタキイのブースで講演をした時に話を聞いていてくれた「工房地あぶら」の小野寺伸吾君だ。

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彼からもらった「まごどさ」という菜種油を持ち帰り、皿にすこし垂らした瞬間、その濃い色に驚いた。さらに鼻を近づけると、そこから立ち上る、まさにアロマとしかいいようのない強い花のような香りにびっくりした。蜂蜜のような、そしてアブラナ科特有の香ばしい美味しそうな香り。口に含むと強い香りが鼻に抜けるが、見た目ほどにはくどさがなく、逆にあっさりと切れていく。

僕はこの油を作っているところを観てみたいと思った。そして、観に行ったのだ。

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続く