2011年8月15日 from 出張
まだ全国の空港をすべて乗り降りしたことがないので、こんなことを言い切ってしまうと本当はマズイ。けれどもすごいものはすごいと褒めそやすべきである。宮崎空港の飲食施設は素晴らしい!
僕にとっていまだに、一番美味しいチキン南蛮は、1年半前にはまだ宮崎空港内で営業していた「魚山亭 空港店」で出されていた、ピンク色のタルタルソースのチキン南蛮であった。それが、宮崎県内の、魚山亭を運営していた会社が破産になってしまったことで、この空港店もあえなく消滅してしまった(東京に数店展開されている魚山亭グループは別資本になっていて、こちらは健全に運営中。ただし、タルタルソースの味は各店違うので、僕の好きな味のは無い)。この辺のくだりは以前書いたとおりだ。
で、その店の跡地は「夢かぐら」という名前の店に変わり、また店の造作も小綺麗に改められ、再出発している。運営は宮崎空港ビルディングが行っている。どうやら魚山亭時代の料理人さんたちも引き続き夢かぐらに雇用されているようだ。
なぜこの辺の突っ込んだ事情を知っているかというと、宮崎空港ビルディングとお近づきになったからだ。きっかけは宮崎日日新聞というローカル紙に、月に一度「客論」という連載を書くようになり、そこで「空港では宮崎の郷土食をもっと食べられるようにして欲しい」とか「宮崎の郷土食の神髄である冷や汁のスタンドバーを空港に作ってくれ」とか、書きたい放題やっているからだ。宮日新聞は県内ではかなり熱心に読まれているので、目にとまらないはずがないのである。
で、知れば知るほどこの宮崎空港という施設には、可能性がある!と思うようになった。まず、この宮崎空港の飲食店で出てくるものはかなり美味しいのだ。その第一に挙げられるのが、この「ガンジスカレー」である。
空港ビルディング内では二階の喫茶コーナー(上の写真の場所だ)か、出発ロビーの飲食コーナーで食べることが出来る。ただし、出発ロビー内では、スチロール製の容器で味気ないので、2F喫茶コーナーで食べることをお薦めする。ひょいと入った喫茶コーナーで食べられるカレーとしては出色のできばえである。
みただけでわかると思うが、トロリどころかドロリと強い粘度を持つカレーだ。しかも具材として形が残っているのは肉のみ。その肉も、上の写真にツブツブになっているのを観ておわかりの通り、かなり粗めに挽いた挽肉なのである。濃厚・まろやか・挽肉の美味しさ満載のこのカレー、全く辛くはないが、とにかくスーパー小麦粉感たっぷりのモッタリ系カレーとしては最上位にくるのではないか、と思う。東京のカレーでいえば、神保町の学生の友である「まんてん」のカレーがやや近い。が、こちらのガンジスカレーのほうが上品でありなおかつ味の輪郭も強く出ている。実はこの2Fでのガンジスカレー、食いしん坊には堪らない、注文時のある裏技があるのだけれども、それについては迷惑をかけたくないので書かないことにする。うっしっし。
さて、、、このガンジスカレーだが、宮崎県人でもほとんど識っている人がいない事実を、僕は知ってしまった。
宮崎県人のみなさん。このガンジスカレー、県内のカレー店としてはけっこう老舗とされているけれども、どこに本拠地があるか知っていますか?
「ガンジスカレーの本拠地? うーん、、、宮交シティの二階にある店じゃないの?」
という人が大多数だろう。 宮交シティとは、宮崎交通というバス会社のターミナルビルで、スーパーや飲食店が入る施設である。この二階にガンジスカレーの単店がある。僕ももちろん、ここが本拠地なんだろうと思っていた。
そうではないのである! 実はガンジスカレーの本拠地は、この宮崎空港ビルディングなのである!
「実はですね、私ども宮崎空港ビルディングの3Fレストラン「コスモス」の厨房施設で、ガンジスカレーが仕込まれております。」(宮崎空港ビルティング 大久保課長さん)
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
そうなの!? 空港の施設が、一つの人気カレーブランドの拠点なわけ? そんな話、聴いたことがない!
しかしそうなのだ。ガンジスカレーというのは宮崎空港ビルディングの料理人が生み出した大傑作カレーなのである。という宮崎トリビアがひとつ解決したところで、、、
今回は冷や汁である。宮崎県が全国に誇っていい、素晴らしい郷土食。それが冷や汁だと僕は強く思う。
ちなみに「冷や汁」と書いてなんと読むか知ってますか?
「ひやじる」と読む人が多いだろうが、宮崎県内では「ひやしる」と呼ぶ人も非常に多い。僕は以前、料理店で冷や汁の取材をしていた時、同じ店内にいたお客さんが
「あんた、「ひやじる」って呼んでるけどね、そんなにごった濁音はつかってはいかんよ。「ひやしる」といいなさい、「ひやしる」と!」
とかなり怒られたことがある。そのことを食品スーパー「フーデリー」の宮田武虎に話したら、
「やまけんさん、僕の育った田野町というところでは「ひやしゅる」と呼ぶのが普通です!」
と言う!なんじゃそりゃああああああああああああああああああ
もちろん冷や汁を食べないところもある。延岡などの県北や都城などの県南ではあまり食べられず、宮崎市を中心とした真ん中へんで食べられているものと思えばいいのかと思う。
味も多種多様で、甘い味噌、辛い味噌などの好みに、魚を何にするかで大きく味が変わる。アジや煮干し、トビウオなどを使うのが多いが、豪勢に鯛を使ったりすることもある。ちなみに空港の「夢かぐら」では鯛を使った非常に上品な冷や汁が美味しい。こんな風に、地域によって味がかなり違い、レシピが多様であるということがまず郷土料理の要件に合う。
次に、冷や汁はほんとうは、店で食べるものではない。圧倒的に家庭の味なのである。宮崎の子供達は自宅で親が作った冷や汁をスタンダードな味と思い込んで育つらしい。だから、隣近所の友達の家で冷や汁を食べると、腰を抜かすほど驚くことがあるという。いわく、「あいつの家じゃトマトを入れてる!」「なんか甘くて気持ち悪い!」みたいな感じ。これはよくあることですな。ということで、レシピが多様どころか、標準化されていないのが冷や汁なのである。
そんな面白い冷や汁を、宮崎を旅する人達は楽しめる環境にない。もちろん郷土食があるような料理屋や居酒屋では冷や汁が出てくることもある。けどそれは実に純化され洗練された味であることが多く、よそ行きの味なのだ。あらたまって食うものでもないしね。
でも僕はこの冷や汁こそが一番面白い郷土食なんじゃないか?と思っている。そんなことを宮日新聞のコラムに書いたのだ。そして、
「宮崎空港の中に、冷や汁スタンドバーを出すべきだ。そこでは、ワンコインで冷や汁ご飯を啜り込むことができて、追加オプションで地域や味の違う冷や汁をオーダーできる。付け合わせは宮崎が誇る無添加のたくあん。」
という風にまとめたのである。
そうしたら! さっそく宮崎空港ビルディングの方から「実に興味深く読ませていただき、鋭意検討中です」というメールが来たのである。そして、今回の宮崎訪問時に「ぜひ試食を!」ということになった。
前置きが長かったけれども、ここから本編である。
お盆のせいでむちゃくちゃに混雑しながらも、飛行機はかなり早めに宮崎に到着。ロビーで待っていてくれた大久保課長が声をかけて下さる。んで、すたすたすたと二階の奥に歩いて行き、、、そして一般人は入れない、空港ビルディング内部へと入った!
ところで以前も書いた覚えがあるが、宮崎空港で働くスタッフの女性は美しい人が多い。しかも、どう考えても一貫して傾向の同じような綺麗な人が多い。これはきっと人事採用担当者さんが自分の好みで決めてるんだろう!と確信しているのだけれども、この応接室でボスキャラに出会った。お茶だししてくれた女性、むちゃくちゃべっぴんさんである。こんな人を中に閉じ込めてちゃダメですよ!ちゃんと売場に出して下さい!!
というようなことを思ってたら、なんと社長さんをはじめとする役員さん達が登場。
いろいろ訊いていくと、やっぱりこの空港は、飲食にものすご~く力を入れているということがわかった。
「この空港では上質な料理を出したいと思っていて、長崎のとあるホテルの料理長をしていた方をお招きしたんです。ですから料理の質に関しては太鼓判を押していただいていいと思うんですよ。」
おおっ そういうことか! 空港というスペースは、ホテルの飲食とかなり類似性がある。もちろんホテルのようにバンケットなどがあるわけではないだろうし、毎日不規則な乗降客によって食数も変動するだろうが、それでもいろんな料理ジャンルと業態を統括しなければならないホテルで鍛えた料理長クラスであれば、空港内の施設を運営することもできるはずである。
「昨年の口蹄疫などの影響もありまして、空港の乗降客数がかなり減少しています。空港という施設は、乗降客が少なくなればすぐに売り上げが落ちてしまいます。こればかりはいろんな事情が絡みますから大変なんですが、我々に出来ることがいくつかあります。その一つが美味しい料理を出すことで、宮崎市内の人達がわざわざここにご飯を食べに来るというレベルにまでしていきたいと思っているんですよ」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお なるほど! それは面白い。 いまのところ、羽田空港にわざわざご飯を食べに行くという発想はないけれども(国際線ターミナルのリニューアルでその機運もあるだろうが)、宮崎ではありうるかもしれない。実はこの会談の後、空港内を歩いている時に、女子高生らしい4人組がちんたら歩いていたのだ。すれ違いざま、その中のタレ目の女の子が「あーあ、だれか芸能人来てないかな」とつぶやくのを耳にして、僕はショックを受けた。
この子達は、用もなくぶらぶらと空港に来ている! ということは、空港は彼女らにとってハレの遊びの場になりうるんだ!
じつは宮崎空港は、市の中心地から20分もかからずに来ることが出来る。JR宮崎駅からは15分ていどだ。だから、ぶらっと来るということが可能なのである。
「そう、そういうお客さんを増やしていきたいんですよ、、、」
で、冷や汁である。僕の記事に書いたような、面白い冷や汁、作って下さったわけですか?
「ふっふっふ、、、 県外の人が食べてビックリするような冷や汁をね、開発したんですよ! ぜひお食べください!」
そして社長さんがメニューを意気揚々と取り出した。そこに書いてある冷や汁メニューをみて、僕の目は大げさではなく点になったのである。
そこには、、、 (つづく(笑))
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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