2011年7月15日 from イベント,日本の畜産を考える,食材
いやー 東京バルバリでの「食べる会」シリーズ、ずいぶんと回を重ねてきましたが、小池シェフのおかげで毎回毎回レベルがアップしている気がします。今回、震災等の対応で準備期間が不足してしまったけれども、素晴らしい会をしていただきました。本当に感謝!
東京バルバリのスタッフである池田君はデザイナー。彼の手による素晴らしいディスプレイ!
これがメニューだ!
デザートまで全12品!毎度のことながら、前菜までが異様に長い構成なのである!
全35人、リピーターは意外に少なく4人程度だった。北海道や大阪、名古屋から来てくれた人たちも!
皆さんに食べていただく国産丸の肉(リブロースです)は、こんな感じでした!昨年度のさちの肉と比べてみると面白いかも。
■国産丸のリブロース
■さちのリブロース
カットしている部位が違うので単純な比較はできないのだけども、筋間脂肪のつきかたとか、サシの入り方はけっこう共通点があるように思う。肉色が若干淡いのは、おそらく肥育期間がさちより短いから。さちの方が小ザシが一杯入っているのは、餌の違いだろう。さちは穀物多め、国産丸は粗飼料が多めだからだ。
さて、みんなで乾杯後、まずはアミューズ。
■イチボ肉のブレザオラ ビーツの冷たいボルシチと
主役は串状のブレザオラ。以下、料理解説は小池君から手渡されたカンペに基づいて私が説明しました。小池君は調理場という戦場でバツンバツン闘っていましたので、、、
下は手を入れていないもの、真ん中が塩分濃度15%のソミュール液に丸一日漬けて燻製にかけて乾燥3日間したもの、一番上のものは塩漬け1日に乾燥5日間! 下から食べていくと、どんどん味わいが深くなっていくのがわかった。ちなみにビーツの冷たいボルシチがまた旨かった、、、
ここで、生産者の柿木敏由貴君の紹介。この日、彼を招待したのだ。自分が育てた牛がどのように料理されるのかをみてもらおうということ。その牛を育てた人が、食べる場にいる。これ以上の安心感はないよね。
さてお次はアミューズ二品目。
■フィレ肉のタルタル 冷製カネロニ つくねいものソース
フィレはメイン食材ですが、一本のヒレを35等分するとどうしても部位にばらつきが出るのです。そこで、今回はタルタルにしました。牛とろろ飯のイメージで、生地は白玉粉、ソースはつくね芋をベースにしました。
この料理、白玉粉のカネロニがくにゅんくにゅんという食感でたまらなく気持ちいい!そしてタルタルの繊細な味わいを、つくね芋ソースが軟らかく包んでくれる。ペシャメルソースだったら濃すぎただろう。実にステキ!
そして、三品目。
■バラ肉の赤ワイン煮込みのタルト
定番のブフ・ブルギニオンを少しだけ。
下にパリンとしたタルト生地が敷いてあって、一緒に食べるととろりとしたバラ肉の食感にアクセントが加わる!
それにしてもバラ肉は本当にこっくりしていて煮込みに旨い。そして脂のうまさがきわだつ!柿木君いわく『脂の味はちょっとさちと違っていると思うので」ということだったが、たしかに今回のほうがあっさり目というか、まろやかな脂だなと僕は思った。
さて、ここまででようやく、アミューズが終了(笑)
■冷たい前菜 血をたっぷり含んだシンタマ 自分流で
肉のテンパリングです(笑) 加熱したときのアミノ酸を生肉で表現したいと思って作った一品です。よく生肉こそ肉の本来の味と言われますが、確かに生肉なら自然な味はします。それも答えの一つですが、一方で肉が持っている旨み成分は引き出せていないようにも思います。そこに着目して、冷菜に仕上げました。
ソミュール液に2時間漬け、取り出して62度の油に肉を入れて芯温が55度くらいになるようにゆっくり火入れをしました。芯温が55度になったら急冷し、その後ゆっくり冷ます。これでタンパク質が固まりかけ、水分(旨み)が出てくる瞬間をキープできます。冷めたら今度は表面だけ焼いて、メイラード反応をおこして肉全体にアミノ酸が回り、中心温度35度くらいにします。
口の中の温度と同じようにすることで、食べたときにブワッと血(旨み)を感じることができます。ソミュールに漬ける理由として、塩を打つとそこから水分が出てしまうということと、肉の線維を軽く占めて離水を防ぐためです。
「生だけど生じゃない」がテーマです。付け合わせはフォアグラ、ジャガイモ、トリュフ、テールのリエットをロールケーキに見立て。レホール入りシャンティとパセリのソースはパセリ、ナムプラー、フォンブランでアクセントに、とのこと。
この部分の説明が一番長かった!きっと小池シェフの気合いが一番入った一皿なのではないかな。
シンタマは硬い部位と言われるけれども、決して硬いというイメージはない!それよりも実にぎゅっぎゅっと旨みがしみ出てくるような、そんな味だ。塩加減が表面ではなく肉の線維からじんわり滲んでくる感じ。ロールケーキ状の旨みのカタマリといっしょに口にすると、表情が全く変わってリッチな味になった!
この料理にかなり力を入れてくれたのは僕にとって非常に嬉しいことだった。というのも、いま牛肉業界は、ユッケ問題が響いてもも肉の売り上げが非常に低下している。もも肉だけではなくて本当に牛肉の相場が崩れてしまっていて、採算割れする農家がでてきそうな状況だ。だから、売れにくい部位をこうやって美味しく調理してくれる料理人はありがたいの一言。苦しい気持ちが伝わったのだろうか、さすがは小池君だと思ってしまった。
さてお次は温かい前菜。
■国産丸を余すところなく包み込んで ロワイヤル仕立て
おおおおおおおおおおっとどよめきが各席から沸く。どうみてもこれ、メイン料理のような見栄えだもんね(笑)かたまり肉のように見えるけれども、これは面白い。今回送った肉の全ての部位の端材をミンチにして円柱状にしたものだ。周りは薄切りスライスの肉で包んでいる。以下、シェフの解説。
今回注文した部位が全て入っています。ワイン、スパイスでマリネして120度のオーブンでじっくり焼き上げました。ソースはやはり血とレバーのソースです。
血と書いているのは、真空パック時にそとがわに吸引されて出てくる牛のドリップのこと。細胞内から血や体液がしみ出てくるのを通常は捨ててしまうが、実はこの部分にも旨みがたっぷり含まれている。それをソースにしたと言うことなのだが、実にこの一皿、香りが濃厚にして甘やか、血の旨みがたっぷり漂ってくるようなソースだった!
中を割るとこんな感じ!ミンチと言っても、部位によって挽き方が粗かったり細かかったりして、食感の表情が豊かになっているのだ。
そういえば、一昨年フランスに行った際に、パリから電車で30分ほどのフォンテーヌブローで連れて行ってもらったビストロで、僕は前菜に血のソーセージであるブーダンノワールを食べた。温められた血のソーセージが実に蠱惑的な味わいで震えが来そうになったが、その感覚を思い出してしまった一皿だった。
みな、こうした一皿一皿を味わい、次の皿を待つ間に同席した人たちと語らい、思い思いの時間を過ごしている。
なぜだかわからないんだけど、こうしたオフ会的なのを開くと、あんまり僕が気を遣わなくてもみんな同じテーブルの人たちと仲良しになっていく。ありがたいことだ。
生産者のカッキーも、山形村ではけっこうムスッとしているようなことが多いのだけれども、この日はものすごく積極的にいろんな人たちと話をしていた。これからの時代、生産者が生産だけをするのではなくて、ちゃんと情報を発信していかなければならないんだということをよく理解しているからだろう。
この写真真ん中でカッキーと談笑してるのは、大阪の熟成肉屋である「又三郎」の荒井さん。わざわざ来てくれたのだ。しかも大森シェフを連れて!ありがたいです、、、
■スープ 野菜のコンソメスープ(リッチ)
何がリッチかというと、Wコンソメになっています。国産丸でコンソメを造り、そこにまた国産丸の部位と、梅山豚で創ったベーコン、そして夏ポルチーニを加えて再度コンソメをつくりました。追い鰹のようなものですね。形には残さず、旨みだけを抽出する潔さが、自分の中でのテーマなのです。コースのバランスとして、浮き実に野菜を加えました(笑)
小池君は帝国ホテル出身だけあってコンソメを引くのが異様に旨いのだけども、今回のコンソメは実によかった。なにがよかったかというと、イノシン酸偏重型のコンソメではなく、もっと奥行きのある複雑な味になっていたからだ。どうしても肉でコンソメをとろうとすると、イノシン酸の平板な広がりだけが強調された味になってしまいがちだ。そこにポルチーニなどを入れ込むことで、グアニル酸や、グルタミン酸を溶出するようなものまで入れて旨みを増幅させている。だから飽きない。それが証拠に、みな瞬時に呑んでしまった!
■煮込み ホルモングーラッシュ
前回(さち)の時はコンソメとホルモンを合わせ、ホルモンのもつクリアな感じを表現しました。今回は、それぞれ下ゆでしたホルモンにパプリカを合わせ、グーラッシュに。旨み同誌の味の足し算です。
いろんな内臓肉がそれぞれ心地よい弾力と香りを残しながら煮込まれ、賀茂ナスの台座に載っている。
なぜか小池君はグーラッシュが好きなようで、以前も何回かいろんなバージョンを食べたことがある。パプリカというスパイスはあまり個性がないように思っている人もいるようだけれども、じつは非常に落ち着いた風味を素材に与えるものなんだな、というのがわかる一品だ。
さあ、そしてメインへと進んでいこう!
(つづく)
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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