2011年7月 4日 from 出張
いよいよ視察最終日。この日は横綱級の視察先が午前・夕刻と並ぶ。午前中はNYスタイルのステーキハウスの多くが肉を購入している卸、マスター・パーベイヤーズの視察だ。ということで朝飯は張り切って食いに行こうと、宮田タケトラと調査(っていうかタケトラが調査)。ホテルから近いウィッチクラフトという店が評判らしいのだが、行ってみたらまだ空いてない!うわーん、でもそれなら二日目に行って美味しいと思ったPAXに行こうではないか。
とりあえず4種のサンドウィッチを二人で分けることに。これ、写真だとわかりにくいけど、一つ一つがでかいのよ。こちらのサンドウィッチは優に一食分のボリュームがあるのが普通らしく、日本のコンビニサンドとは全く違う。
トマトとアボガドのベジタリアンサンド。
ローストチキンとメルトチーズのサンド。
タマゴサンド。
ツナサンドという布陣。よかったのはツナ!こっちのツナは味が違って風味が強くばさばさしていない。
タマゴサンドも実にテイスティ。卵の黄身の色に注目!日本のようにオレンジっぽく濃くしていない。実に好感の持てるタマゴサンドであった。
腹一杯になったのち、集合してマスター・パーベイヤーズへ。で、残念なんだけどここから先の写真は掲載できません。そういう条件で話を聴いてきたのです。
なんか、晴海埠頭のごとき倉庫街をずーっと走り、工業団地のようなところに入ると、食肉卸大手であるマスター・パーベイヤーズの事務所・倉庫・加工場があらわれた。おお、ここかよ!と思って降りたってすぐみんなで外観を撮影していたら、すでにこのゾーンに入った時点から写真は×らしい。マスター・パーベイヤーズあてにセキュリティから電話が行ってしまったそうで、迷惑をかけてしまった。
そして工場内に入ったとたん、カメラを向けたのに作業員が大声で「写真撮るんじゃねえよ!」と注意して詰め寄ってきた(ちなみにカメラ向けたのは僕ではありません)。ものすごい剣幕。実は、この敷地全体が基本的に写真撮影がアウトらしく、許可を取っておかないと厳しく言われるらしい。みなさまもご注意ください。
というわけで事務所に19人が入ると、マスター・パーベイヤーズの会長が「おう、、、野球が出来る人数だね」と迎えてくださった。実際に案内してくれたのは息子さんのマーク。実に柔らかなアタリの人で助かった。冷蔵庫内の視察は8人くらいずつ3グループに分けて行われた。ここではシカゴの食肉処理場から枝肉を仕入れ、カットをしてステーキに使う部位のみエージングにかけ、それ以外の部位はなんとも豪勢なことにミンチにしてしまい、ハンバーガー用に出荷してしまうという。ここのパテを使ったバーガー屋さんを教えて欲しいものだ。
で、いったんは軽く水分を飛ばすため吊されていた部分肉がロースなどの部位ごとに整形され、熟成庫に入庫する。
「こっからさきは写真はダメだよ」
と言われて入った熟成庫は、、、それはもうとてつもなく濃い熟成香がブワンと漂う空間だった!1度~2度くらいに設定してあるので、冷えすぎていて人間の嗅覚はかなり鈍くなっている。それにも関わらず香りを濃く感じるということは、常温下ならばむせかえるような香りの空間であるはずだ!
そこで、たっぷりと熟成のメカニズムを聴いた。熟成庫に入った肉が酵素の働きで肉の旨みを引き出し、ある種のカビを発生させて香りを生み出す過程。この辺の詳細は、ドライエージングビーフ普及協会の知見になるので、ここで述べる訳にはいかない。しかし、理論と実際の間には、かなりのノウハウの蓄積と、トライアンドエラーが必要であることを感じた。
食に関心のあるひとなら、いま本当に日本で熟成肉ブームがきていることはご存じだろう。ガラス張りの冷蔵庫に肉を並べまたは吊して、3週間以上熟成させたものを供する店が増えている。でも、その全てが本当に適切に熟成されているかどうかというのは怪しいものだ。まったくカビや微生物が着かず、単に表面がガビガビに乾き、内部も水分が抜けただけになっているようなものが散見される。味も、熟成ではなく腐敗臭がするものに、僕はよくあたってきた。
日本には、アメリカで常在している、肉の熟成を進める微生物環境が自然状態ではないと言われている。何らかの形でうまく、熟成を進める微生物環境が庫内に発生し、とどまる工夫をしたほうがよいようだ。それは熟成の深さとスピードに大きく関わる。マスター・パーベイヤーズの庫内には約5000本のロースが眠っているが、熟成庫の入り口から順々に出庫スペースのほうに移動していき、3週間後にはきっちりと強い熟成がかかり芳香をまき散らすようになっていた。もうすでにここはシステムとして循環しているのだ。それがよーくわかった。
最後にマークを中心に、会議室でぱちり。
このとき、質問をしてみた。マスター・パーベイヤーズのトラックに描かれているロゴマークは当然ながら牛なのだけども、その牛の品種が一般的なアンガスではなく、顔だけ白いヘレフォード種なのである!それを観て僕はあれっと思った。
DABはアンガスがメインなのだと思っていたのだけれども、会社のマークにしているってことは、アンガス以外の牛も使ってるの?
「アンガスがメインだけど、ヘレフォードも、レッドアンガス(ショートホーンのこと)も、それらの交雑種(F1)も使うよ」
という返事だった! なんとなんとなんと! 一定の基準を満たしていれば、肉の品種はあまり問わないようだ。一グループが視察している最中に、残ったメンバーにはDVDが魅せられていたのだが、この中で契約農場らしい映像に、短角和牛にそっくりな牛が出ていた。これが、彼らがレッドアンガスと呼ぶショートホーンだ。これまで書いてきたからご存じの肩も多いだろうが、岩手の短角和牛は、在来種である南部牛に肉の量を多くするためのショートホーンを掛け合わせて成立した品種である。
ということは! 短角和牛はドライエージングビーフに向く、ということではないか! いやー 小躍りしたくなったね。
ここでマークは、うーんと考えながら「アジアの牛品種がドライエージングに向いてるかどうかはわからない」と言った。それはそうだ、日本の和牛品種で試すチャンスはほとんど無いだろうから、、、それは、日本にいる俺たちがやるよ。ぜひ数年後、日本型のDABが完成したら、食べに来てください!そう誓ってお別れしたのでありました。
非常に濃い時間。聴くのと観るのとでは大違いだ。ツアーに参加した19名、そう思ってバスに乗り、アメリカで大人気を博す鉄板焼き&寿司をいただきに移動するのであった。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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