2011年5月10日 from 出張
瓢亭といえば、京料理の世界でも大ボス格のお店。だけども僕はずっと、勝手に親しみを感じていた。なぜかというと、何回か書いているように僕の友人で京都大学で教鞭をとるオオイシが、田鶴さんという京野菜農家の母屋に下宿させてもらっている。この田鶴さんの賀茂ナスが、瓢亭に行っているという話をずーっと聴いてきたからだ。僕はこともあろうにその賀茂ナスを麻婆ナスなんぞにして食べたりしてしまっていたのだが(笑)
でも、有名な現当主の高橋英一さんの息子で、後を継がれるであろう義弘さんが、柴田書店の「専門料理」編集者を通じて「赤身肉に興味があるんです」と打診してくれた時には驚いた。日本料理の世界で、牛の赤身肉に関心を持つ人がいるとは! そして、土佐あかうしを食べ比べる会などに出席してもらった。「こんなに味が違うんですね、本当にすごい!」と感じ入ってくれたのに気をよくして、はるばる高知の端っこである足摺岬までご一緒した。以来、ずーっと仲良くしていただいている。
そんで、瓢亭にも足を運ばせていただくようになった、とはいってもまだ二度である。そうそう行けるもんじゃないよ!
知っての通り、瓢亭の本館は基本的に個々の茶室で食事をいただく店だ。この部屋に入っただけで、空間としての素晴らしさが人を包む。なんというか、ここにいるだけで十分に愉しく、快いというつくりになっているのだ。
瓢亭の料理に関して僕が言えることなど何もない、ので、詳しくは何も書きませーん。けど、そこは若き義弘さんのこと。
「やまけんさんこられるなら、ちょっと僕なりに遊ばせていただきますわ」というので、いただいた料理が現・瓢亭流なのか、それとも義弘流なのかはわからないところではある(笑)
関東の料理屋との大きな違いは、鯛のお造りのレベル。これはもう、文化の違いか、食感が全く違う!ちなみに右中にある薄茶の液体は「トマト醤油」。トマトのクリアウォーターを使った醤油で、存外に鯛に合うのだ。
アブラメ(あいなめ)を軽く揚げたものと分厚いからすみ、南禅寺麩にワラビ、うどの椀。瓢亭の出汁はマグロ節でとるのが特徴で、骨太ながら実に輪郭のハッキリした味わいになる。
エビと貝の黄身酢をいただいてる時にムム?なんかこの赤いジェリー、もしかして?と思った。
これって、富士酢の飯尾醸造が出している「紅芋酢」を使ってるんじゃないの?
「はいご名答です。紅芋酢は色だけじゃなく香りも味も面白いですね。けど、これをどう日本料理に活かせばいいかずっと考えてたんです。飯尾さんにもいちど酢を持ってきていただいたんですけど、一応の回答ができました」
ちょうどいま出ている「専門料理」の京料理研鑽会のページでこの料理が紹介されている。嬉しくて思わずこの場で飯尾君に電話しちゃったのでありました。
それはともかく瓢亭のよいところは、料理がけっこうどかんと盛りよく出てくることだ。現当主の英一さんのポリシーでもあるらしいのだけど、ちまちま出すのではなく、お客さんに満足していただける量をダイナミックに出してくる。「京料理は少なくて繊細」みたいな事を考えていると、全然違うので驚くことになる(笑)
この日は、まだ出回りはじめの頃だったので、タケノコが!それも、根もと近くのぶっとい部分が丸々と!
※念のため言っとくと、この椀はすごく内径の大きな椀なのです。
な、なにこれ!俺を笑わせようとしてます?
「いえいえ、これでも小さい方なんですよ、、、もっと大きくなったほうがあじも乗るんですけどね。うちの普通のスタイルです」
このとき同行していたOは1/3くらいでギブアップ(笑)でも、ダイナミックにして繊細な味で、とにかく箸が進むのだ。
そして、、、
そうきたかぁあああああああああああああああああああああああああ!
瓢亭で土佐あかうしが出るとは、、、この肉の繊維感からヒレである。それも、おそらくは高知の三谷ミートの専務がよりをかけたメス牛のものだろう。緑色のソースいや餡はなんだろう?
「これ、ウスイ豆の餡です」
うすいえんどうのソースか!それは面白い、、、
で、本当にビックリしたんだけれども、義弘さんの肉の火入れが実に巧い。
「大阪の熟成肉・又三郎さんの焼きの技術をみて、あれを参考にして焼きました。炭火で数分あぶって、数分ねかせてを試してみたんですけど、上手くいってますか?」
いやいってるいってる! 表面から2ミリほどの加熱変色部を残してあとはロゼ。しかし冷えているのではなく、ちゃんと肉の旨みが活性していて、口に入れた時に「美味しい!」と思える温度帯だ。しかも、このうすいえんどうの餡がなんとも合うのだ。豆のソースが肉に合う?ブラジル料理のフェイジョアーダみたいな発想だけど、実にイイ!
「これはですね、餡だけなめると旨くないんです(笑) ウスイ豆は鞘も茹でて汁をとって、出汁と一緒に炊いて裏ごししたものです。青臭いと思いますけど、これを赤牛にあわせるといい感じなんですわ」
本当に絶妙な合わせ方。まめまめしい青さが、赤牛の香りと微妙な重なり方をする。これが黒毛和牛だと、風味が濃すぎて合わないだろう。いや、ビックリしました、、、
それにしても義弘さんとの交歓は愉しい。それは、京料理という世界で重い任持つ人ながら、新しく変わっていく世界に即応し、果敢に変容していくことを怖がらない人柄だからだ。また、東京で飯喰いましょうね。ごちそうさまでした!
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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