2011年3月24日 from 日常つれづれ
人生は啓示の連続だ、と思う。ただしその啓示はさりげなく示される。それに気づくか気づかないかによって、人生の深さに大きな差が出てくるのだ、と考える。
地震当日の3月11日、僕がシンポジウムに出るために大分県臼杵市にいたことは書いた。そのとき一緒に出るはずだったのが西日本新聞社の佐藤弘さん。食育に関する新聞の中で最高の内容といってよい長期連載「食卓の向こう側」のトップであり、鋭いまなざしで食の現状に警鐘を鳴らしているお方だ。
シンポジウム当日、車で会場に向かう途中に「あれ、すごい地震が起きたらしいですよ、、、」と彼の携帯にメールが届き、すさまじい状況になっていることがわかった。遠く離れた臼杵でも、津波警報が出たため市長判断でイベントは中止。パネラーの農家さんたちと控え室で残念がりながら、お茶を飲んだ。このとき地震の情報がテレビで放映されており、連絡も満足にとれず、僕はいきた心地がしなかった。
そんな中、佐藤さんが「よっしゃ、お金はもらったんだし、やることやりましょう!今日話すはずだったこと、私とやまけんさんでお話しさせていただきますよ!」と声を上げた。講演者二人とパネラーのみなさん、そして遠方から来てくださった数人のお客さんとで、控え室にてミニシンポジウムをやったのだ。
その席上で佐藤さんがみなに進呈してくれたブックレットが、「食卓の向こう側 第13部 命の入り口 心の出口」だ。たった500円という価格なので、ぜひ買って読んでいただきたい。絶対に損はしない。僕はこの日、この本をいただいたことは何かの啓示であると本気で思っているのだ。
この本の副題は「噛むことは生きること」。つまりよく噛んで食べるということが単に消化をよくするだけではなくて、健康にものすごく関係があるということなのだ。
「あのですねぇ、口ってすごく重要なんですよ。インフルエンザ菌だろうとどんな毒性のある物質であろうと、唾液を十分に出して、そこに浸していれば毒性が低くなっていくことがわかっているんです。」
たとえばモンゴルでは昔、大ぶりな羊肉などをよく噛んで食べていたため、虫歯など一つもなかった。ニュージーランドのマオリ族も、食べ物は違えど同じような状況だった。それが、欧米の文明が入ってきて柔らかで甘いものが氾濫するようになると、すさまじいほどに虫歯が増えるようになった。この変化に応じて、なんと顎の形も変わる。もちろんスマートでほっそりした顎に変わるのだが、それはよい変化とはいえない。癌や心臓疾患などが増加する傾向にあった米国では、「食べ方が問題なのではないか」という疑念を持った医者がいた。その食べ方というのが、「噛む」ということなのだ。
もちろん日本の食もすでに危険域に入っている。つまり柔らかな食べ物があまりに多くなってしまっているのである。テレビのグルメ番組で芸能人が美味しいものを食べるときの反応でいつも出てくるのが「やわらか~い!」というものだ。古来、やわらかいものは実にごちそうだったわけだ。しかしいまや、外食や中食で「柔らかくないもの」を探す方が難しいではないか。
やわらか食が主流となって、日本人は「十分に噛む」ということをしなくなった。それによってよくない兆候が出てきているという。九州大学の教授によれば、かつての唾液の分泌量は一日1~1.5リットルあったそうだ。それが現在では800ミリ~1リットルに減少しているという。
実は、唾液はものすごい力を持っている。損傷した身体を治癒する因子が含まれており、また唾液に含まれる酵素類はAF-2やアフラトキシンといった毒物の効力を30秒で1/10以下に抑え込んでくれるのだという。
「一口30回噛む」ということには理由があったのだ。
この唾液のエピソードをはじめとして、「口」の正しい使い方に関する情報が多々載っている。実はこの本をいただいて、帰りの機内で読んでいるときには「うーむこれはおもしろいなぁ」と思って読むだけだった。そして原発の状態が悪く、毎日胃が痛くなるような思いでいる最中はすっかり忘れていた。そして、放射性物質が食品を汚染し始めたここ2日間で、「そうだこれだよ!」と思い至った。僕にとって、啓示は示されていたのだ。
放射性物質はもう避けようもなく私たち首都圏の人間にもたらされてしまう。ならば、ここを動けない人たちは何をなすべきか。やれるのは「できるだけ摂取しない努力」だけではない。「摂取した毒を無力化するための努力」ではないだろうか。
いやもちろん「唾液によって放射性物質が無力化できるゾ」なんて医学的に根拠のなさそうなことをいうつもりはない。けれども、唾液が免疫力・自己治癒力を高めることは確かなのだ。ということで、僕は一口30回を始めております。
ストレスをできるだけ貯めず、免疫を高めていく生活をしよう。様子を見て、西日本にたびたび旅行しよう(笑)それがいまできる対応策かなと思っている。
佐藤弘さん、啓示に満ちた本をありがとうございました!「食卓の向こう側」に敬意を表します。
食卓の向こう側〈第13部〉命の入り口 心の出口 (西日本新聞ブックレット) 西日本新聞社「食くらし」取材班 by G-Tools |
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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