陸前高田の自根キュウリ農家・小泉忠治さんはご無事だったようだ!ほっと一安心、、、しておくか。陸高は自根キュウリの貴重な産地なのだ。なんとか、復興を祈りたい。自根キュウリのポリポリ感たるや、、、

2011年3月25日 from 農村の現実

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昨年6月に、家の光協会の「やさい畑」の連載のため、陸前高田にキュウリの取材にうかがった。そのときの篤農家さんが、この小泉忠治夫妻だ。今回、その安否を気にしていたのだが、避難所の名簿にお名前を発見し、ほっと一安心をしているところだ。奥様のお名前をうかがっていないので、ご夫婦とも無事なのか、それとも同姓同名の人がいるのかも、と考えるとぬか喜びは出来ないのだけども、おそらく無事だろう、と思うことにする。

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自根キュウリ、というとなんのことかわからない人もいるだろう。「自根」とは読んで字のごとく「自分の根」ということ。つまり接ぎ木をしていないキュウリのことだ。

キュウリはそれほど病気に強い作物ではない。自根で育てようとすると様々な病害にやられてしまい、長いこと収穫が出来なかったり収量が落ちたりする。そこで、この国でキュウリを営利栽培する場合、98%程度(←僕の目分量ですが)はカボチャの仲間の台木に接ぎ木をする。カボチャは、育てたことがある人ならご存じの通り生命力が旺盛で、キュウリが弱い病気にも比較的耐性があるのだ。これにより、3ヶ月~5ヶ月以上の長期どりが出来るようになった。

しかし、いいことずくめではない。接ぎ木栽培をすると、カボチャ台木の特性によりキュウリの性質に違いが出てくる。例えばカボチャの性質を受け継いでか、皮がちょっと厚く堅くなる。ブルームと呼ばれる白い粉をふく品種が最近みられないが、これも台木の性質によるところが多い。

そして最大の違いは食感である。おそらく昭和の終わり頃以降に産まれた若い世代は台木キュウリしか知らないはずなのでわかりようもないのだが、接ぎ木キュウリと自根キュウリでは、ポリポリ感が全く違うのである!自根キュウリはポリリン、ポリリンと歯に絶妙な心地よさをもたらす食感があるのだ!これにはいろんな説があるのだけども、キュウリが根茎から吸い込む肥料成分と、カボチャ台木が吸うそれに違いがあるから、と言われている。

さて、そんな自根キュウリだけれども、市場ではそんな「食感が素晴らしくて」ということは、ほとんど評価されない。結局は「そこそこの品質で、安定して出荷できるもの」に評価が集まるのだ。病気に弱く収量があがらない自根キュウリはどんどん接ぎ木に置き換わっていった。

、、、しかし、陸前高田ではそんなことはなかった!のだ。

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陸前高田ではまだ数十人の農家さんが自根キュウリを作って、いた。しかも行ってみて驚いたのだが、ハウスではなく露地栽培が多いのだ。キュウリの露地栽培では、雨の跳ね返りなどからウイルスが媒介される病気が怖い。だから、自根キュウリはハウス栽培で行っていると思っていたから驚いた。

「この辺じゃこれが普通だねぇ」

とおっしゃられたが、ごらんの通り丁寧にうねの間に敷きワラをしている。びっしりと、土が見えないほどに。この敷き方にも実に芸術性を感じたものだ。

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忠治さんと、右にいるのは八木澤商店の河野社長だ。もちろん、お友達。

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キュウリの品種は色々使ってきたそうだが、このときメイン品種だったのは「大望」。

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この立派な自根キュウリを育てるための肥培管理などの詳細は、昨年の「やさい畑」秋号に掲載しているので、関心のある方は取り寄せしていただきたい。

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この皮の薄さをみよ!この皮と果肉の食感バランスこそが、自根キュウリ最大の特性なのだ。

この自根キュウリを使った料理が、こんなにも並んだ。

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中でも僕が感動したのがこれ。

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キュウリとサバ缶の煮物だ!

「キュウリとサバ缶?なにその取り合わせ!?」と驚く人もいるだろう。 もちろん僕も驚いた(笑)

実はこの地方では、サバの水煮缶はむちゃくちゃポピュラー。三陸の海の幸でもあるし、地元の魚を缶詰にしているようなものだ。だから、郷土料理のひっつみ汁にもサバ缶を汁ごと入れたのを味のベースにしたりする。で、この料理はキュウリとサバ缶を甘辛く煮たものだ。

キュウリは、あたりまえのことだけどウリ科の野菜だ。瓜は、軟らかく煮て食べても美味しい。すなわちキュウリも煮て美味しく食べることが出来る。この煮物は、いったん自根キュウリをブツに切ったものを湯でこぼし、ある程度やわらかくなったのをサバ缶と共に油で炒め、その後、醤油やみりん等でとろとろになるまで煮たものだ。案外長い時間煮ないと、とろとろにはならない。これを冷まして食べるのが、実に最高なのである!実はこの日、どんぶり一杯食べてしまい、おかわりも所望してしまった。

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この小泉家の家も畑も失われたのか、気になるところだけれども、避難されているのだからおそらくそうとうのダメージがあったのだろう。小泉さんに連絡する手段がないのだけれども、僕はあの自根キュウリの誇らしげにぶら下がる圃場を一生忘れません。

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日本にはまだ、農の匠が存在している。でも、いついなくなるかわからない。その思いをずっともって取材をしてきたけれども、いよいよその危機感が強くなってきた。果たして陸高の自根キュウリの、あのポリリン、ポリリンという食感とまた巡り会える日は来るのだろうか。来ると信じたい。