宮崎には多種多様な生産者がいる。そりゃあそうだ農業県だからね、しかし他県に比べて際立っているのは、わりと頑固で自分の行く道をしっかりと決めている人たちが多いこと。農協系統出荷をメインにした農家さんが主流な中、他にはできない商品を作り出して自分で販路を切り開く、イケイケな生産者さんもけっこういるのだ。
そんな中でも最近会った中でピカイチだったのが河野農園。都濃ワインで有名な都農町にあり、この地域の特産物であるトマトを生産している。彼らが生産するのはミニトマト。赤品種だけではなくオレンジやイエローなどカラフル品種を栽培しているのだが、この面積が施設栽培で4haとかなり大型だ。ビニールハウスやガラスハウスといった施設栽培ものは、大型のものは1ha以上あるものだけども、4haのミニトマト栽培を切り盛りするのは非常に技術を要する経営だ。
あまりよくわかっていないメディアは農業といえば米も野菜も同じように報道するが、品目が違えば必要とする技術も全く違う。野菜を葉菜・根菜・果菜と分けたとき、最も技術的に難しいのは果菜類である。なぜなら、植物の基本的な生長部位である葉や根を大きくするだけではなく、花を咲かせて実を結実させなければならないからだ。だから家庭菜園の指南書では、最初に簡単なコマツナやダイコンなどを栽培することを薦めるのだ。
中でもトマトは難易度が高い。トマト自体は生命力のある植物なのだが、病気に非常に弱いのだ。原産国は南米の冷涼で乾燥した地域と言われており、高温で多湿な日本とは正反対だ。露地栽培(屋外で栽培すること)をしていると、梅雨の時期などに地面からの跳ね返りで病原菌を拾い、様々な病気にかかってしまう。だからトマトはハウス内で育てることが多い。
けれどもビニールハウスにしてもガラスハウスにしても、いったん建ててしまうと容易に動かすことができない。実はトマトは連作を嫌う作物である。前年にトマトや、同じナス科の野菜を植えた後に栽培すると、土壌のバランスが崩れているためかうまく育たないことが多い。従って同じビニールハウス内で何年も育てていると、よほど土壌の管理をしっかりしない限り病気が出たり、収量が下がってしまう。
というのが基本的なトマトという品目のとらえ方だが、要するに大規模にトマト一本で経営していくのはなかなかに大変なのである。ちなみに大玉トマトに比べるとミニトマトの方が強い。河野農園はこのミニトマトを軸にして、なんと日本のみならず海外への販路を開拓している。そしてその強みは、純粋に栽培の技術力にある。
昨年の暮れに訪れたときの河野農園。事務所兼選果場の回りに展開されているハウスはほとんどが河野農園のものだそうだ。
家族経営をベースに20人以上の働き手がいる農園で、次代を担うのが河野雄一郎君だ。
「うちの経営の特徴はいろいろありますけど、やっぱり栽培で徹底して土作りをしているってことでしょうねぇ。」
農業では土が重要、というのは半ば常識的になっているけれども、これだけの面積で彼らが採っている手法がスゴイ。化学肥料を一切使用せず、地域内の有機物を地域内の菌で発酵させて畑に投入しているのだ。裏山の林で集めた落ち葉を堆積し、米ぬかや堆肥を混ぜて発酵させたものを彼らは「土こうじ」と呼ぶ。有用微生物がたっぷり含まれたこの土をベースに栽培しているのだ。
河野君のお父さんがみせてくれた土こうじの山。もちろんこれだけではなく、近隣で出てくる有機物を集めて堆積し、オリジナルな堆肥を作っている。
あと、これは水田地帯ではよく採られる方法なのだが、いったん収穫が終わると、土壌をリセットするために田のように水をひきいれ、しばらく湛水する。土壌を消毒するためなのだが、河野農園の説明では消毒というよりは、土に入れた有機物の分解を促進するために水を湛えるようだ。
こうして有機物をいっぱい入れられた土壌には、様々な微生物が活動することになる。河野農園の畑のビニールマルチをめくると、こんなふうに微生物が菌糸を張っている。
さてこうやって栽培したミニトマトを彼らは、量販店などに営業して販売をしているのだが、その際に非常にかっこいいパッケージで販売している。
県のある機関のアドバイスを受けながら創ったこの箱があまりにかっこよく、”箱買い”されるケースも多いようだ。あ、もちろん中身も美味しいからだ(笑)手前の記事はある食専門雑誌のコピー。有名シェフが彼らのトマトを採用しているのである。
このパッケージをひっさげて、河野君は香港やシンガポールの量販店に売り込みに行く。そしてむちゃくちゃな高評価を得て、輸出販売をしているのである。実は、生食用のトマトに関しては日本の技術力は非常に高いのである。よくイタリア帰りの人が「日本のトマトは、、、」と嘆くが、それは加熱してソースにする時のことではないだろうか。生で食べるトマトについては、日本人の好みは非常に繊細だ。海外の農場でこれを真似ることができるところは少ないのである。
じゃー うまいトマト料理食べようよ! ということで、都農町が誇る隠れ家的イタリアンダイニングカフェ「ボンリッサ」へと向かったのである。
交差点からなんの変哲もない道を歩いて行くと、あらイタリア国旗が、、、
ボンリッサ(BONLISSA)
児湯郡都農町大字川北4794
0983-25-2345
最近の流れではあるけれども、地元の食材を積極的に使って料理をしてくれる店は、とても重要だ。
やみくもな糖度重視ではない、自然な甘さと酸味とのバランスをとった河野農園のミニトマトはとても好ましい味だ。過剰な液肥で育てたミニトマトにありがちな刺激味がなく、子供のおやつにあげても味覚のバランスをきちんと育ててくれそうな味なのだ。
パスタソースにしたとき、イタリア系品種のような濃厚な香りとたたみかけるようなグルタミン酸があるわけではないが、それより奥ゆかしい優しい味で麺に絡んでくる。
こちらは彼の友人農家の栽培した米を米粉に挽いたものを生地にしたピッツァ。米粉パンはなかなかに難しいものだけれども、こうして食べてもさっくりしていて、小麦とは違う美味しさがある。
ここのシェフのパスタが旨いので、ついもうひと皿おかわりしてしまった(笑)
出してくれたのはチキンカチャトーレのようなソース。美味しゅうございました、、、
この店のオーナーシェフご夫妻、若くて明るくて、非常に楽しい空間をありがとう!
強い農業とは何か? ということをしたり顔でいとも簡単に言う人をあまり僕は信用できない。けれどもそこに不可欠な要素があることは言える。まず一番重要なのが栽培に関する技術力だ。それは製造業においても同じことだろう。しかも農業の場合、工場のように閉鎖系で、製造環境の初期化が簡単にできる環境ではない。環境の変化や前作や前々作の影響を受けてしまうのが農業である。そこで一定の品質を保っていく技術力がいの一番に必要となる。
それができたら販売力である。既存の系統出荷、卸売市場流通でやっていくのもいい。でも品目によっては自ら売り込み切り開く営業が実るものもある。彼のミニトマトはその一つだろう。実際、河野農園は多くの量販店、そして海外からも高い評価を受けているのだ。
さて都農町はさきごろ鳥インフルエンザが発生して、先日の霧島の噴火も加わり大変な状況にあると思う。彼のハウスに灰が積もりませんように。
この週末、スーパーに宮崎の農産物があったら、買っていただこうじゃないか。
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