結局、日本という国はメディアそうがかりで農業をつぶそうとしているとしか思えない。「日本の農業を強くするから、保護は要らない」ということの欺瞞は、アメリカの農業政策の歴史を観ればよくわかるのだ。

2011年1月26日 from 日常つれづれ,農村の現実

なんだか、いや~な展開である。朝日新聞が本紙やアエラで総がかりの農業改革(改悪だけどね)論やTPP推進の論陣を張っている。どこのメディアもはためには推進・反対の両論を併記することで中立を装っているけれども、最後には「しかし変わっていかねばならない」的な書き方で、さらなる変革を要求することを忘れない。中にいる記者さんが「本当におかしい」と眉をひそめるくらいにね。

 

改めて強調しておきたいのだけど、TPPの議論をする際に「日本の農業は保護されすぎ」「農産物の開国をしなければ」とさも常識のように言う輩が多いが、大間違いである。一番基本的な部分を誤認している人が多すぎるので改めて書いておくが、

日本の食料自給率はカロリーベースでたったの40%、すでに60%も輸入しており、先進国では最下位。ということは、もっとも食料を輸入している国なのですよ。

※ちなみに最近、「食料自給率はまやかし」という論調の本が売れに売れているが、あれはとても極端な「農業左派」の論理だと思います。為替レートでくるくる変わるんだから、金額ベースでみるのは危険でしょ。「カロリーベース」「重量ベース」などの単位換算をきちんと明確にした上での自給率議論をするのが妥当と思う。

安い輸入品が入ってこないようにかけている関税が高いというのがメディアでよく言われる。たとえば米は490%、小麦は210%、バターが330%、牛肉は38.5%。推進派は「このあまりに高い関税を撤廃すればもっと消費者は安い食品を買うことができるじゃないか。」というわけです。一件もっともに見えますなぁ。

けれどもご存じだろうか、こうした高関税品目は日本ではわずかだ。米、小麦、砂糖原料、でん粉原料など、全農産物のたった1割だけが高い関税をかけているのだし、実はその関税率の平均をとれば11.7%(東大の鈴木宣広教授による)である。

そして他の9割の農産物は関税はないに等しい。つまりすでに開国しまくってる。だから中国から野菜があんなに輸入されていたし、今もされている。みなスーパー店頭では国産野菜ばかりならんでいるから気づかないだけで、飲食店や中食の業務用食材は半分以上が輸入品だぜ。それわかってないでしょ?

「農業」といってしまうとみな冷淡になるけど、これを「たべもの」に置き換えて考えようよ、というのが僕の言いたいことだ。日本人は、自分達の主要なたべものが他国産になることに非常にデリケートな民族だと僕は思っている。平成の米不足の年のこと、思い出してみて欲しい。中国餃子事件のことや、狂牛病問題の時のパニックも。みんなのど元過ぎれば忘れるけど、日本人ほど自国の食べ物にうるさい民族もいないはずだ。それを突くと国民感情が振れることをわかっているから、推進派はみな「保護されている農業VS他産業」という図式で話そうとする。これは策略である。

「農業が潰れる」ということと、「たべものがほとんど外国産になってしまう」というのでは国民の受け取り方が違うと思う。 「たべもの」を考えると、みんな危険性を感じませんか?

先の関税の話だが、日本では関税によって保護され生産が続けられている食品が非常に多い。例えば北海道で栽培される甜菜(てんさい)や沖縄・九州で栽培されるサトウキビから作られる砂糖。これも約200%程度の関税がかかっている。小麦も210%。これを、少し安くなるからといって関税撤廃したらどうなるか。農家が職を失うだけだと思っている人が多いけど違う。その流通をする業者さんなども含め、とんでもない人口が失業する可能性がある。その人達は、ただでさえ失業率の高い日本の市場にどっと出てくるのだ。日本の景気はさらに悪化する。それを支えるほどのメリットを本当にTPPで享受できるのかい?

関税は悪いもの、撤廃しなければいけないものというのはいったい誰が言っているのか。日本にモノを売ろうとしている国がそう言っているだけである。その言葉を「うん、たしかにフェアじゃないね」とすんなり受け入れようとしている日本という国は、本当に脳天気で人のよい国である。どこにそんな「他国に優しく自国に厳しい国」があるんだろう。

「世界の孤児になる」という言葉に躍らされるのは早計だ。どこの国も、自国を最優先に考えて、国際的にみれば反則気味の手を使って産業を守るのが普通なのだから。フランスやアメリカなどの農業国ではものすごい金額の直接所得補償で農家を守っていることはこれまでも書いてきたとおりだ。関税という収入源をもらえるのであれば、それは大切にしていった方がいい。それは日本の収入源なんだから。それを手放すなら、その関税分の収入を補完できる他の財源を明確に示して欲しい。

で本題だけど、アメリカの農業政策で、いまの日本の状況と似た状況にあった瞬間がある。それについて書こうと思ったんだけど、そろそろ飛行機に乗る時間なので後ほど。今日も宮崎です。口蹄疫の次は鳥インフルエンザ。鹿児島でも発生が確認されたが、この国の食のリスクが非常に高まってきている。

実は、一般の人がこういうことを「識る」ことと「あの報道おかしいんじゃない?」と疑問を持つことはとても強力なパワーになるので、ぜひ理解をいただきたいと思う。