十勝帯広にて「蝦夷鹿サミット」開催! 日本におけるジビエをきちんと考える元年になるか!三大シェフの競演で盛り上がった夜。 その3

2011年1月21日 from イベント,出張

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ところで、最初にこの蝦夷鹿サミットの副実行委員である佐々木君を紹介したけれども、このイベントが成立したのは彼が頑張ったから、というわけではなく(笑)、 周りを固める素晴らしき面々がいたからである。実行委員長の杉山さんは、ぼくが仲良くしている幕別町農協の役員だった方(蕎麦打ち名人らしい。今度打ってください)だ。そして行政や大学の先生方が深く関わってイベントが成立した。

しかも、むちゃくちゃ短期間で!

実はこのイベントのことを佐々木君から聴かされたのがほんの4ヶ月ほど前。10月後半に、北大の秦先生と一緒に十勝まで来た時にバーで呑みながらのことだ。

「蝦夷鹿サミットいいねぇ、で、一年後くらいにやるの?」

「いえ、1月とかにやるつもりです」

ブッと酒を吹き出しそうになった。いくらなんでも「サミット」と銘打つようなイベントを3ヶ月で準備なんかできねーだろ!?そのときは説教モードで「もっとしっかりやれ」と懇々と話をしたのだが、しかし彼の実行力と突破力はなかなかのものだと、結果的にはシャッポを脱いだ。関係各庁と調整をし、協賛・後援の手を回したわけだ。まあ、協力した面々は「こいつ、手伝ってやらないとヤバイ」というものだったんじゃないだろうか。それもまた実力だと思う。心配される能力って、スゴイよね。

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結果的に、大盛況!第一部の会場は席が足りずに椅子を追加で大量に運び込むこととなったのだ。

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北大、帯広畜産大学のそれぞれの先生が蝦夷鹿の現状を教えてくれる。その中で考えさせられたのは、動物としての蝦夷鹿を、駆除すべき害獣とみるのか、動物愛護の観点からみるのかという問題。客観的に観れば当然、前者だ。今日本には20万頭以上の鹿がいるということで、それを動物愛護精神の強いドイツなどの関係者に言うと、「おまえの国では鹿を飼ってるのか?」と揶揄されるそうだ。

以下は聴いていた僕の所感だ。

欧米では、自然の厳しさが日本よりも際立っていたためだろうか、自然を克服し乗りこなすという感覚が強いようだ。水産資源でも顕著にいえることだが、彼らは「資源を管理する」という感覚で自然と相対しているように見える。鹿でいえば、生息数を把握し、その個体数が自然環境と人間の営みを崩すようであれば、適正な数値になるまで「間引き」をする。日本の場合はもう「間引き」どころか、すさまじい勢いで駆除していかなければ本当に農業などが成り立たなくなるところまできているのだが、予算面や動物愛護精神の発露による横やりが入ること、等によってなかなか進まないというのが現状のようだ。

TPP問題が「外的な問題」ならば鳥獣害は徹底的に「内的な問題」だ。「自然に手をかけるな」的立場の人もいるだろうけど、そもそももう現状の自然は、バランスを崩した自然になってしまっているのではないだろうか。バランスを崩したのも人間の所行だろうが、でも何を活かすかということであれば、僕は農業者の営みを活かすべきではないかと思う。

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さて、もうひとかたのお話しは、蝦夷鹿の肉質の調査研究の発表があった。ジビエは、季節による肉質の変動が激しいということが言われるが、実は蝦夷鹿はそれほど季節変動がないそうだ。これは実によいこと。イノシシなどは秋の一時期が美味しさのピークで、それを外すと高価には売れない。蝦夷鹿は少なくとも美味しさの面では周年で提供できるというわけだ。

さて一部が終わり、いよいよ第二部の開始である。

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第二部は会場をテーブル席に変えて、三人のシェフの料理を楽しみながら、パネルディスカッションを行うというものだ。

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ちなみに第二部の参加費は1万円で、3人のシェフが考案した前菜3皿と、温かいメイン料理3皿、デザート、ワインまで食べることができる。すっげーお得じゃないすかこれ?

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このイベント、ご覧の通りホテルのバンケットルームで、丸テーブルを囲んでコースをいただきながら、演壇上ではパネルディスカッションが行われるというものである。そんなの成立するのか?みんな食べるのに忙しいんじゃないの?

しかも恐ろしいことに、当初パネリストには料理が出ないという噂が!

「だってディスカッションできないじゃないですかぁ」

バカヤロ― 食えないんだったら俺、やらないぞ! そうぶち切れてめでたくパネリストも食べられることになりました。あったりまえでしょう。

そんなこんなで開催です。この先、パネルディスカッションの模様は忙しくて撮ってません。だって俺が司会進行だもん(笑) けども料理の写真は撮りました。話をシェフに振ったところで、大急ぎでストロボの電源を入れて微調整して撮影(笑)。こんなに忙しい撮影も初めてだ、、、

仔鹿 1才
前菜:菅谷伸一シェフのオリジナルメニュー

十勝産仔鹿とクルミ、黒豆のパテ 香草風味
Pate de chevreuil aux noixs et thym

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このコースのおもしろさは年齢別の鹿を食べられること。前菜は菅谷シェフによる小鹿のパテだ。やっぱり見目も美しい! パテを切って口に運ぶ。子鹿だからあまり濃い風味は期待できないと思っていたが、わりと濃厚で滑らかな肉の香りが溶ける。

「どうしても風味が淡いので、小鹿の正肉だけじゃなく、レバーと鶏のレバーも混ぜています。」ということだったが、これはジビエ嫌いの人でも美味しく食べられちゃいますね。でも、実は感動したのはシェフお得意の野菜の付け合わせ。ヴィネグレットが本当に美味しかった。

そして温かい皿は北海道ホテルの工藤シェフの手によるもの。

温製料理:十勝産仔鹿ロース肉のポアレ、マッシュルームのクリーム煮添え
Sauté de Chevreuil aux Champignon à la crème sauce Madere Garniture Ratatouille et Pomme de terre rôti aux Thym

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この料理、温かい料理の中で一番美味しかった!鹿肉の脂や風味の不足を補っているのが、マッシュルームのクリームソース。これも道産食材だ。

さていよいよアレ。

2才鹿
前菜:神谷英生シェフのオリジナルメニュー

十勝産エゾ鹿のモルタデッラ/ヤークブルストの盛り合わせ スクランブルエッグ添え 十勝朝食スタイル

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これがですねぇ、秀逸だったんですよ。薄く切ってソテーしたモルタデッラも、ヤークトブルストも、どちらもつなぎの結着剤はほとんど使わず。水とサラダ油のみ足して、フレッシュなものを鋭利なカッターでミキシングしたものを腸詰めしたものだ。神谷シェフ、ドイツの加工肉職人と親交があり、修行してきたとのこと。その成果を遺憾なく発揮していた。

モルタデッラは適度な潤いをもっていて、風味も十分。ソテーすることでカラメリゼされて旨みが増したのがよかった。それでもなお油分が不足気味になるのを、スクランブルドエッグがいい仕事する。とろりとしあげたエッグをすこし絡めると、きっちり世界観が簡潔するのだ!

細長いヤークトブルストをかじると、ちょっとびっくりする。よくある脂っぽいウインナーのように脂がはぜることがない。絹で漉したのか?と思わんばかりに滑らかにミキシングした肉が、ある種、実に禁欲的な舌触りで迫ってくる。ので、これもエッグを少しのせていただくと、丁度よい。僕はこのヤークトブルスト、気に入った。子供は、脂ぎってリッチすぎるウインナーではなく、肉の風味がまびろげにされるこういうウインナーを食べるべきではないか。

さて北海道ホテルの工藤シェフの一皿。

温製料理:十勝産エゾ鹿ロース肉の酒蒸し仕立て、和風バターソース
Chevreuil au Sake cuité à la vapeur sauce Beurre de Soja Garniture Petits Légumes du Tokachi

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いいですねぇ。和風バターソースのこっくりした風味、フレンチのよそよそしさではなく、家庭的な親しみのある味が鹿肉を身近に感じさせてくれる。美味しいです。

ここまで出てきた子鹿と二歳の鹿は、鹿肉としてはまだ風味が十分に乗っていない上品なもの。メインはやはり三歳以上の蝦夷鹿だということだ。

3才鹿

前菜:堀江純一郎シェフのオリジナルメニュー

十勝産エゾ鹿、内モモ・外モモの岩塩包み焼き、ハーブとにんにくの香り バニエットロッソ・アンチョビとレモンのドレッシングの2種類のソース

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オオッと出た!堀江君の得意技「バニエットソース」!しかも以前、短角牛のコースで作ってもらった際にでたグリーンのソースではなく、赤い(ロッソ)ソースだ。これがですね、エッジがビシッと効いた味と香り。岩塩焼きの塩梅もすばらしいのだ。奥のアンチョビ・レモンのドレッシングもキャッチーで、これでご飯食べたくなる(笑)

温かなメインは、これも北国のジビエの定番、ベリー類との組み合わせだ。

温製料理:エゾ鹿ロース肉のパイ包み焼き、カシス蜂蜜ソース
Chevreuil en Croûte sauce Miel Cassis Garniture Purèe de Pomme de terre et Marron

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正直いうと、甘いソースをジビエに合わせるのはあまり好きじゃない。けど、北国ではベリー類は貴重なミネラル源であり、その豊穣な甘さは宝だ。鹿肉の風味とカシスは文句なしに合う。

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個人的にはもう少し、ソースに塩分と旨みを足して欲しかったが、パイの香りとしっとり感の脇役ぶりがよく、美味しくいただけました。

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各シェフにはこの間、いろいろと振りっぱなし。

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客席は、こっちの話を聴いてるんだかどうなんだかわからないくらいに各テーブルで盛り上がっていたが、あとからきいたら「いやーみんなしゃべりながらだけどパネルディスカッションの内容もちゃんと、聴いてたしおしゃべりの中身も鹿の話ばっかりだったよ。いい会だった!」とのこと。よかったよかった。

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副実行委員長の佐々木君の〆で終了。お疲れ様でした。このイベント、来年からは「蝦夷鹿を使った郷土料理グランプリ」になる。蝦夷鹿レシピコンテストである。おいおい佐々木君、こんな美味しそうなイベント、おれも審査員にしてくれるんだろうねぇ(笑)

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終了後、みんなで乾杯!今回は菅谷シェフとの出会いが実に嬉しかった。こんど、真狩村にいきまっせ!

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関係者の皆様、本当にお疲れ様でした!また行きたいなぁ北国へ!