2010年6月24日 from 食べ物の本
新刊です!これまでこのブログでも数回採りあげてきた、僕の母校である自由の森学園の食生活部のこれまでの軌跡を書いた本です。
今回は、表紙から見返し、口絵から本文内のものまですべて写真は僕が撮影(学校全体写真だけは違うけど)したものだ。なにげにそれが一番嬉しかったりする(笑)
著者ではなく編著者になっているのはなぜかというと、今回の本は同じく自由の森学園の後輩と分担して書いたからだ。だから、このブログを読み慣れている人は、「あ、この部分はヤマケンじゃないな」とおわかりいただけると思う。本の内容をあれこれ紹介するよりも、前書きを引用したほうがいいと思うので、掲載する。
はじめに
いまから26年前、「自由の森学園」というユニークな学校が埼玉県飯能市の山の中に産声を上げた。テストの点数による序列評価を廃し、服装規定などの校則も全くなく、生徒の自主性を尊重した教育を行うというコンセプトは、その当時には非常に革新的で話題を呼んだ。体育の時間には和太鼓や郷土の民舞を教え、染色や木工といった表現に関わる授業に力を入れた、非常に面白い学校である。
編著者の山本は、この自由の森学園ができた翌年に入学した2期生だ。そして1,2,3章を担当した増谷は6期生。自由の森の黎明期ともいえるその頃は、教師も生徒もまだ手探りで「自由」と向き合う混沌とした時代で、刺激的な高校生活を満喫させてもらった。しかし、卒業から20年以上経ち、食の現場で働く私が高校時代を顧みた時に驚きを覚えるのは、自由の森学園の食堂のあり方だ。
学園では全国から生徒が集っていたため、いくつかの寮があった。そこに住む寮生の3食と、通学生のための昼食をまかなう食堂では、当時から化学合成農薬を使用しない農産物や契約栽培のお米、投薬をしていない肉を仕入れ、400円程度でまったく無添加の伝統食を生徒に食べさせていた。漬物や梅干しも自家製、菜種の圧搾油を惜しげ無く揚げ物に使い、ハム・ソーセージには発色剤を用いないものを仕入れるという徹底ぶりだ。もちろん化学調味料も一切使用しない。
今から観ても先駆的と思うのは、国語科や数学科といった教員の部門と同様に「食生活部」という組織があったことだ。調理師や栄養士によって構成される食生活部はこの26年間ずっと、中高生は何を食べるべきかを議論し、全国の食材を選りすぐり、そしてその食がどのような意味を持つのかということを生徒と対話してきた。
思えばこの食堂から私の舌は良質な教育を受けていたのである。もちろん私だけではなく、多くの卒業生が自由の森学園の食堂に郷愁を覚えている。「いまから思えばすごい食事だった」「あのカレーがまた食べたい」そんな声がよくきこえる。いまだに学校行事の見学に来て、食堂に顔を出す卒業生も多い。在学中は「もっと肉が食べたい!」「味が薄い!」などと不満の声を上げていた生徒が、卒業後にふとしたきっかけで自由の森の食堂で食べていたものを思い出し、自分の食のあり方を見直す。そんなことが起こっている。自由の森学園の食堂は、食べるということを通じた教育の場だったのである。
いま、崩壊しようとしている日本の食文化に大きな関心が寄せられ、食に関する教育の必要性が叫ばれている。「食育」という口当たりのよい言葉が蔓延し、各地で動きが起き始めている。ただ、その多くがなぜか幼稚園から小学校あたりまでの教育でストンと途絶えてしまっているように思う。食育的な取り組みは、中高生という子供から大人へと変わる間に位置する世代にとってこそ重要なものではないだろうか。しかし、現状の一般教育の文脈では、中高生に向けた食の取り組みは活発ではない。ここに、国レベルの大きな見落としがあるとしか思えない。それが、本書を世に出すにあたっての問題意識である。
もちろん、自由の森学園の食生活部の活動は順風満帆だったわけではない。それどころか苦難の連続であった。経緯については本文内で触れるが、調理師の経験が全くない人たちが集まり、便利な加工食品や調味料を使わずに、数百人分の食事をいきなり作るのだ。山本や増谷が在学していた頃は、関係者も「あの頃は実地で実験をしていたようなものだわ」などと言っていた頃である。必ずしも美味しいとは言えないものも卓に上っていたことは否めない。
しかし、26年という歳月の中で食生活部は着実に技術とノウハウを蓄積してきた。開校当初は外部から購入していたパンもいまや自前、それも天然酵母で焼き上げる。
うどんなど麺類も製麺機で自家製麺する。
実は本書の執筆のために改めて自由の森学園の食堂で食事をとったのだが、驚くほどに美味しくなっていた。「無添加」や「天然素材」という言葉から受けるストイックな印象はそこにはまったくない。日々飽きずに食べることが出来る美味しい食事が、実はとことんまで考え尽くし、吟味された食材で作られている。卒業生のひいき目かもしれないが、中高生に向けた理想的な食のあり方がここにあると思う。
本書が食の教育に興味を寄せる一般の方々や、全国の教育・食育関係者、そして学校給食の世界で様々な問題に直面している方達へのメッセージとなれば幸いである。そして、本書を読んで、自由の森学園の食堂で食事をしてみたいと思ったら、学校に電話をした上で足を運んでいただければと思う。きっと、他にはない食の風景が観られるはずだ。
と、こんな本だ。6月26日あたりから書店に並び始めると思う。毎度のことだけども、amazonではもう書誌データは行っているはずなのに、表紙画像がでてこない(笑)
以上、とりあえず速報です。また、目次など載せますね。さて、次の本にかからねば、、、
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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