2010年6月21日 from 日本の畜産を考える
2008年の4月に、僕の所有するメスの短角和牛「ひつじぐも」から生まれた「さち」が、明日22日に出荷となります。「出荷」とはと畜場への道のり。22日中に青森県三戸市のと畜場に係留され、23日にと畜・解体となります。
生まれてから約28ヶ月齢。さきほど、さちの世話をしてくださっている漆原さんに電話してみたところ、
「だいたい720kgくらいかな。去勢牛に比べたらちょっと小型だけど、どーんと張ったいい感じの体型になってるよ。まあ、明日は一緒にご苦労さん会をやりましょう。」
とのことだ。そう、明日僕は先週末に引き続き、朝から岩手入りしてさちの出荷に立ち会います。既報の通り、と畜解体の現場もきちんと見届けようと思ったけれども、と畜場の規則でそれは無理とのこと。彼女が肉に変わっていく過程は観ないで過ごす一泊二日となります。
今回、口蹄疫の関係でもよく出てきた言葉だが、「経済動物」という用語がある。家畜として飼っている牛・豚・鶏などをいう。愛玩する対象としてではなく、その労働力や乳・肉・または毛や皮などを経済利用するものの呼称だ。つまりさちは経済動物である。
これも以前書いたかもしれないが、ある会合で畜産専門の大学の先生と話をしていた時に、こんな話があった。
「最近、乳牛や肉牛のことを話す時に「牛さんが」というように擬人化したり、「牛さんごめんなさいね」なんて話しかける関係者がいる。牛は経済動物なんだから、そんなふうな言い方はダメだ」
とかなり激高しておられた。ふうーん、そういうものなのか、と思ってその場では何も思わなかったのだが、しばらくしてから、このことばかり頭に浮かぶようになった。僕の尊敬する獣医氏・松本大策さんは、自分の患畜や始めてはいる農場で牛に触る時には必ず声を掛ける。
「牛さん、ちょっと触っていいかな?いいよね?失礼するよ-。うんうん、ちょっとこの辺かゆいかな?掻いていい?あー、ちょっと皮膚が荒れてるね」
なんて声を掛けながらコミュニケーションをとっている。かれは必ず「牛さん」というのだ。それが彼の獣医としてのポリシーなのだろう。家畜に関する学問の世界と実務の世界とは意識にずれがあるのかもしれない。
そして僕は、やはり家畜を経済動物として扱うだけではなく、日本人が「牛肉は牛の肉なんだ」と再発見することが必要だと考えている。
「牛肉」
と
「牛の肉」
では、「の」という一字が入るだけなのに、あまりに世界が違うと思わないだろうか?
スーパーの精肉売場に並ぶ牛肉のパックをみても、そこから大きな体躯をした牛の姿は想起されない。それでは、すべての商品から金銭的な記号しか受け取れないではないか。うん、それは売る側にとっても買う側にとっても、ある種都合のよいことなのだ。血を想起させないから、売り買いしやすいわけである。
しかし23日にこの世からさちの生命が消えたあと、残るのは「さちの肉」である。僕は「牛肉」とは最後まで呼ばないことにする。
さてこのさちの肉については、どこぞに出荷するのではなく僕がすべて売り先を決めて販売するということにした。既報の通り、半身分(約150キロ)はレストランへ、半身分は消費者の皆さんへ焼き肉パックにして通販する。
正直、レストラン向けに販売するのがこんなに大変だとは思わなかった!価格は以前ここに掲示したとおりだが、人気のある部位(リブロース、ヒレ、外バラ)はすぐに引き合いがあったけれども、肩ロース(\4400/kg)や内バラ(\1650/kg)は残りまくっている。現在、150kg中の102kgが売れていて、48kg程度が残っている。
まあ、残った分は焼き肉セットの原料に充当できるのでそれはそれで心配していないのだけれども、それにしても大変だ。黒毛和牛のように膨大なロットがあれば、サーロインだけ欲しい店とスネだけ欲しい店など、取引が均衡するから商売になる。けれども、短角牛や土佐あかうしなどの希少種になると、一ヶ月にと畜できる頭数がきわめて少ないからそうそう調整は効かない。
そういう苦労を識るために短角牛を飼い始めたのだけれども、十二分にその苦労を感じている今日この頃だ。そして、たかだか一頭売るのもこんなに大変なのに、口蹄疫で被害を受けている宮崎県ではいったいこれがどんな規模の手間になるのだろうか。考えるだけでも苦しくなる。
それはともかく、さちの肉を仕入れてイベントを打ってくれる店を紹介したい。
まずは、岩手県の短角和牛に多大なる理解を示し、一頭丸買いを続けてくれている京都の焼肉店、「きたやま南山」さんだ。長いこと、関西方面の友人から「俺にも短角食わせろ!」というプレッシャーを受けていたのだけれども、ぜひ南山においでくださいませ。 下記のイベントには僕も参加します。
◆7月31日(土)「宮崎の畜産応援チャリティ食事会」を開催します。◆
私たちが日ごろお世話になっている食ジャーナリストの山本謙治さん
(通称やまけん)が育てた短角牛を分けてもらい、食事会を開催します。
会費7000円。(収益金全額を口蹄疫と戦ってくださっている畜産関係者
応援のために寄付します。)
午後3時~「日本の食力を支えるために私たちにできること」をテーマに、
やまけんさんからお話をいただき、午後5時から交流食事会。
やまけんさんの短角牛ほか様々な牛のお肉をいただくのですが、多くの
方の思いが集まり、とても熱い会になりそうです。
詳細は、南山のHP
http://www.posh.jp/t2/ex/lu.php?w=bhh54zbuvk&i=12814R154436&t=0&l=4n2anguq8
をご覧ください。
それと、大阪は心斎橋の「ドゥ・アッシュ」の中田シェフからも「ぜひ肉を売ってください、真心を込めて焼きます!」という連絡が。
こちらにも肉が届くのは、7月後半になるので、それ以降にぜひ「さちの肉を食べたい!」といって予約していただければと思う。
そして、東京では、、、
一昨年にプレミアム短角牛の全部位食べよう会を開催した「東京バルバリ」にて、ひさびさにやります。「さちの肉を食べる会」。詳細はまたお伝えしますが、8月4日(水)の夜に店を貸り切り開催です。東京在住でご関心ある皆様はぜひ、日程あけておいてください。35人限定です。
ということで、、、明日の朝から行ってきます。
明日の夜、さちとのお別れの写真をアップしようと思います。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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