2010年5月21日 from 口蹄疫を考える
先日ここでお届けした梅山豚の塚原社長との対話で書き忘れたことがある。塚原社長の一言だ。
「台湾で発生した時、豚は300万頭を殺処分と書かれていましたが、あれは要するにほぼ”全滅”だったんです。」
「300万頭」と「ほぼ全滅」では受け取る側の意味が大きく変わる。日本でいま起こっていることもまさにそうなる可能性があることだ。口蹄疫が全国的に拡がった場合、最悪のシナリオとして日本に住む家畜としての牛・豚がすべていなくなってしまう可能性があるということだ。それはつまり金融資産が消えるということでもある。
リーマンショックなどの金融危機では、自分が持ってる株券や債権の換金・回収ができなくなって、「あるはずのお金」が忽然と消えてしまうという事態が起こったわけで、コトの重大さがわかりやすかった。でもね、家畜の生産にも数多くの人や会社が関わり、まだ支払われていないであろう膨大なお金が動いている。それがこの日本からフッと消えたら、やはり経済に対して大きな損失となる、、、んですよね?僕はそう考えるのですが。
そろそろ口蹄疫のことじゃなくて、美味しそうな料理の写真載せろよ、と思う人も多いと思いますが、なかなかそんな気になれない。もう少しおつきあいください。
今朝、コーヒー豆を買いに近所のカフェ・デザール・ピコへ行ったら、腰を下ろすと同時に署名用紙が出てきた。
「私たちもできることからやらないと、ね。」
という田那辺夫妻。
それにしても、驚くのは宮崎県外の一般市民には、あまりこの口蹄疫の問題の重大さが伝わっていないゾ、ということだ。ピコにアルバイトにくる主婦Aさんは
「うーん、牛肉、豚肉が食べられなくなるのかなって思うんだけど、いまのところ売ってるみたいだし、、、よくわからないんです。」
とのこと。それはそうだよな、報道の側も鳥インフルのようにやたらとパニックを煽るようなことは自粛する方向になっている。これは一つの成熟でもある。けれども、そのレベルとは別に、口蹄疫の問題が国家的重大事であるということはきちんと伝えていかなければならないはずだ。その部分までシュリンクしているようだと、これは逆に「なにか意図があって伝えていないのか?」と勘ぐってしまう。
■新聞の世論形成の元だねを作るという役目は終わったのか?
昨日の東国原知事の記者会見の存在を教えてくれたNからの、今朝のメール。
やまけんへ
今日の朝日に、○○さんの書いた記事が載ってたな。でも、驚くことに、口蹄疫についての記事はそれ「だけ」。宮崎の現状の記事は全くなし。これも、危機感の無さ、もしくは、意図的な情報隠しが分かる例だよ。
共同通信の配信の方で、地方紙には、現地との協議難航ということが出ていた。この書き方も、ぎりぎりのラインでアンフェアとはいえないが、テレビの放映は、たいてい、地元町長の「保障がはっきりしてないので同意は難しい」というコメントの次に、山田副大臣の「ワクチン接種の必要性は分かってもらえた。同意を得られるよう説得を続ける」という順番で終わってる。
これは「同意してない方」(地元の市町村)が悪い、と取られかねない編集になってる。
こんなところでトロトロしてるヒマはないと思うが、政府はまったくそれを分かってないよ。もし仮に分かってて(自民宮崎への嫌がらせで)放置してるのなら、犯罪だよ。行政の不作為以上の犯罪行為になり得ると思うぜ。
いま大河ドラマでやってる龍馬伝は、少し前に「攘夷決行」という回があって、幕府が朝廷に表向きは攘夷決行の期日を約束し、それを長州だけが実行し、イギリスにこてんぱんに返り討ちにあった、それを幕府はほくそ笑んでたシーンがあった(うるさい長州の力が削がれたから)。まさに、国家的な問題のときに、こういう内輪で足の引っ張り合いをやって、メディアを代表に世論もまったく「日本」という単位で考えてない状態が幕末にそっくりだよ。
遅ればせながら僕も近所のコンビニで目についた大手の新聞を買ってきた。
読売新聞、5カ所の記事。
ただしこれも、Nが書いているように「ワクチン、同意せず」と、地元に問題があるような見出し。俺なら「ワクチン、同意できず」とするね。たった一言で意味が変わるね、日本語って。その横には「農家の損失全額補償」とある、これだけみると、ああ、これで農家は生活も大丈夫になるのね、と読めてしまうが、その横に小さいポイントで「自民、来週に法案提出」とある。つまり全額補償が確定したわけじゃなくて、まだ法案提出の段階ですよ。あんたは東京スポーツか?俺なら「農家の損失全額補償の法案提出へ」と書くよ。
朝日新聞には、Nが書いている特集記事が生活面にある(ちなみに僕のコメントも載っている)ほか、口蹄疫についての関連記事が4カ所あった。もしかするとNが住む地域の版と違うからだろうか。見出しの内容も読売と比べると全く違う。
「口蹄疫 農水省不信任法案自民提出の方針」読売が東スポなみの書き方した部分も「口蹄疫対策 自公が法案」。ワクチン不同意問題は「ワクチン開始できず -地元、補償に不安-」とわかりやすい。その横には「子牛がきていない -相次ぐ競り中止 生産の現場混乱-」と、宮崎からの子牛を買い入れて生産する他県の和牛産地の混乱についての記事。この紙面は評価できる。
日経新聞、、、コーヒー飲みながら読ませてもらったので箇所数はわからず。まあ、日経は農業解体派の新聞だから期待してません。
東京新聞。「「口蹄疫」宮崎に善意続々」他県からの支援についての記事。それだけだけど、首都圏のブロック紙だから仕方がないか。
僕は家に日本農業新聞しかとってないから、ちょっと新聞事情にはボケてしまっていると思う。けれども、今回の読売と朝日とで、まったく受止められ方が変わってしまうということがわかった。
パニックにする必要はないが、しかし識っておいてもらった方がいいことだと思うので、どういうさじ加減で報道してもらえればいいのか、僕もはっきり意見めいたことはいえない。しかし、「もう大丈夫そう」とか「地元、わがままだな」と思わせるような見出しはちと違うのではないか、と思う。
■ワクチン不同意は感情の問題も大きい。でも感情は重要なものだよ
普通、ワクチンを投与すると牛や豚が感染からまぬがれて、生き続けることができると思うところだ。しかし今回のワクチンはそうではない。ウイルスの拡散を押さえるためのワクチンであり、投与された家畜は全頭殺処分となる。
「うちの家畜にはまだ患畜が出ていないのに」
というところも含め、設定された範囲内の畜産農家さんの家畜を対象に投与・殺処分することとなる。悲しい話だけれども、進めるべきことだと思う。実はワクチンがビシッと効くかどうかは、やってみなければワカラナイ。けれども、効くかもしれない。だからこれはやるべきだと思う。
で、読売の見出しの書き方だと「地元の市町村がワクチン投与をわがままに拒否してるわけ?」と思えてしまうが、これまでの経緯を考えれば彼ら(拒否している人)の気持ちもわかる。日本農業新聞に、防疫の陣頭指揮をとっているJA尾鈴の黒木組合長のインタビューが掲載されている。ワクチンについての部分を引用させていただきます。
一ヶ月がたち、なぜ、今更という気持ちがある。JAや農家は1例目が分かった時から素早く動き出し、感染拡大に全力を尽くしている。その中で再三、国などに対策や支援を訴えたが、約束を実行してもらえなかった。日本の畜産業を考えれば素早い対応かもしれないが、この地区に限って言えば遅い。
「一生懸命守った挙げ句に殺処分か」「今までやってきた防疫対策は何だったのか」という意見がある。これだけの感染スピードの中、感染を防いできた農家の気持ちは分かる。われわれも農家。農家が農家から家畜を奪うことはできない。県や町から説明を果たしてほしい。殺処分がおいついていない。埋却地の選定だけでも大きな問題になっている。もし全頭殺処分なら町やJAは対応できない。国が最後の埋却までしっかりやってほしい。
(殺処分した家畜への奨励金の話について)新聞報道を観て知った。日本農業新聞 5月20日朝刊より
まあ、これを読んで「農業新聞はJAグループの新聞だからなぁ、額面通りには受け取れない」という人もいるだろうけど、そういうのはおいといて、二つの事柄が透けて見える。
一つは、少なくともワクチン投与で行われる殺処分について、当事者に説明が果たされてされていないということに起因する、感情の問題によって同意が得られていないということだ。これを誰がやるべきかということで、県と国の間で責任のキャッチボールになってしまっているのではないだろうか。
まあしかしですよ、これはやはり政府筋と県職員と市町村の職員の連名でお願いに上がって、頭下げて「ごめんなさい」というべき問題なのだろうな、と思う。彼らは筋を通してくれ、といっているのだ、と思う。
もう一つは「地元の関係者に情報が伝わっていない」ということだ。奨励金の話を新聞で知ったというところを読んで、彼のやるせなさを感じてしまった。とりあえず偉い人が頭を下げておくべきじゃないだろうか。筋を通して、とにかく迅速にワクチン投与をすべきだろう。
それにしても、そういうことをするための人員もいない、ということが問題だったりもする。
■現場では圧倒的に人員が足りない!
先の東国原知事の会見の中でも再三彼が訴えていたが、県の職員や関係者を総動員しても、人員が足りない。それはそうだ、新聞記者は簡単に「隣の農場が感染したということについて、情報がこないという農家がいます。そうしたことに配慮して、感染事例が出たら周辺農家に連絡してあげるという配慮はないのですか」というようなことを言う。しかしいま、消毒処理と殺処分、埋却とかけずり回って、獣医も人も足りないという状況でそんなことできる余裕があるわけない。だから、一軒一軒を回って説明を行うということができないのもまあ仕方がないと思う。
だとするならば、人員の派遣をできないだろうか?宮崎県内の人員はもう動員できる者はすべてしている。JAグループも全国から人員を派遣しているようだ。だから他地域からやるしかない。それを動かせるのは、まず国と他県の首長である。
岩手県で短角牛に関わっていた、ある獣医師免許をもつ人からのメール。
さて、話は変わりますが、19日付けのブログを見ました。本県にも、県民から「同じ畜産県として、何とか、宮崎を支援出来ないのか。」の様な、知事宛の県政提言が、多く来ています。
本県も、現在、家保の獣医師を、3名派遣していますが、そんな程度しか、応援できません。昼のニュースでも、「ワクチンは確保したが、獣医師が足りない為、ワクチン接種は、明日以降となる。」旨、報道がありました。
(ペーパーではありますが、)獣医師として、何も出来ない自分を、情けなく思っています(組織の人間なので、勝手な行動も取れないのですが・・・)
もちろん他県としては、口蹄疫が飛び火してくるかもしれないわけで、自分の守りを固めることが優先である。財政緊縮の折、動ける余剰人員がいるわけもない。そんな中、街の開業医の獣医師さんがボランティア的に宮崎に駆けつけたりしているようだ。こうした人員派遣への支援がなにかできないだろうか。つまり、獣医師さんが宮崎にボランティア的に行くための滞在費・活動費に充ててあげられる支援とか、、、などいろいろ考えてしまう。
■西都市でも感染疑いが出た、、、
まだ感染と確定はしていないが、種雄牛(しゅゆうぎゅう)6頭を避難させた西都市でも「感染疑い」が出た。おそらく種雄牛を隔離している畜舎はウインドウレス(窓がない)方式など、外部からの一切の侵入がないようなところに匿っているものと推測されるけれども、ウインドウレス鶏舎でも鳥インフルエンザの感染事例は出たので、予断を許さない状況だ。
アクセスログを見る限り、一昨日からTwitter経由でのアクセスが非常に多いようだ。Twitterをやる端末では、もしかして画像があるとアクセスしにくいですか?使ってないからわからないので、もしなにかあれば教えてくださいね。
では仕事に戻ります。
追記:
とうとう西都市の感染疑いが「疑似患畜」となってしまった、、、
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