2010年5月19日 from 口蹄疫を考える
宮崎県ではとうとう非常事態宣言が発令された。「非常事態宣言」というものに法的な根拠はないようだが、未曾有の惨事を目の前にして有効な法的根拠のある措置が他にあるわけではない。日本が初めて体験する非常に重要な宣言と受け止めたい。
いまはまだ8万頭の殺処分数だが、1997年に台湾で発生した時は、最終的に牛が100万頭、豚に至っては300万頭もの殺処分となった。この被災、放っておくとどんどん日本の各地に飛び火してしまう。宮崎県の隣の鹿児島県は、日本における畜産の最重要拠点でもある。
宮崎県内だけではなく全国的に非常事態であることは間違いない。消費者や他産業の人たちも、まず「理解」をしてくれるだけでもいい。そして応援できることを探してくれればさらにありがたい。
■「宮崎県産の肉は扱いません」というスーパーは悪いスーパーです!
報道をみて信じられなかったのだが、やはりいくつかの小売店では「当店では宮崎牛・豚は扱っていません」というような措置を執ったらしい。
ばっかじゃないの!? そんなスーパー・百貨店なんか、潰れちまえと真剣に思う。
「消費者心理を考えて、できるだけ不安を抑えるために措置しました」
と他人事のように言う担当者の顔が思い浮かぶ。でもさ、それは「消費者心理」じゃなくて、アンタがそう煽ったことで「あ、やっぱりスーパーが販売をやめるってことは、人間にも危ないモノなのね!」と思わせてしまう、超ネガティブキャンペーンである。
口蹄疫は、人間にはほぼなにも影響がありません。「ほぼ」と書いたのは、ものすごく低い確率だけども、ごくごくまれにうつる可能性も否めないということで書くであって、日本のような健康に恵まれた国で発症することはまずない。
それにですよ。 もしかすると今回の被災により、いま市場に出ている宮崎県産の牛肉については「今後、この種牛から生まれた肉牛は出回らない」という、本当に幻になってしまうものもあるかもしれないのだ。幻になる前に買い求めて食べたいくらいである。
スーパー・百貨店の人間は「お客様が不安を持つものは、、、」と、必要もないようなことまで先走ってしまいがちだ。しかしそれよりも問いたいのは、果たして「不安はありません」ということをきちんと説明してますか?ということだ。小売業は元来、商品を消費者に説明して販売する業態であるはずだ。けれども、特にスーパーに顕著だが、商品を並べて値段をつけるだけの場所貸しに終わっている店のなんと多いことか。口蹄疫についてのことをなにも説明せずに「宮崎県産の肉は、扱いません」とやっているような店は、社会の害悪である。
もしこれをお読みの読者さんで、お近くの小売店で「宮崎県産の牛・豚は扱いません」というところがあったら、担当者に「宮崎県産の肉は安全なのに、なぜ扱わないの?」と申し入れていただきたいと真剣に思う。不買運動とは、消費者が不利益を被るものに対してだけではなく、こういう大義を損ねる対象に対して行われるべきだと思う。
■「清浄国」をとりもどすために
これまで日本は口蹄疫の清浄度ではもっとも高いランクを獲得していた。それを「清浄国である」というのだが、残念ながらこれはしばらく謳うことができない。清浄国で口蹄疫が一度発生すると、清浄国であるがゆえにまったく免疫を持たない家畜ばかりな訳で、それが今回のように爆発的に蔓延する一因にもなる。でも、ウイルスの封じ込めをして制圧し、その状態を一定期間保つことができれば日本はまた「清浄国」に返り咲くことができる。だから、いまできることはすべて、オーバースペックといわれてもやるべきだといえるだろう。
かつて日本でBSE(いわゆる狂牛病)が発生するまでは、関係者も他国の大騒ぎはまったく自分に関係ないことだと思っていた(一部、ダウナー牛などの挙動不審牛を多数みてきた関係者はすでに自国でのBSE発生を疑っていたにしても)。しかし、発生が確認された後、覚えておいでの通りの大騒ぎが繰り広げられた。あのときもいろんなことが後手後手に回る中、発症件数は増えていき、関係者は総じて青ざめた。
だから今回の口蹄疫が宮崎県内で食い止められる、という期待は今の時点ではせ
ず、日本全国に飛び火する可能性があるということを考えた上で、いくらお金がかかろうが、国家予算で封じ込めをはかるべきだ。
今回、蔓延を遅らせることができる可能性のあるワクチンを使うか使わないかが議論されていたようだが、即刻使った方がいい。ワクチンを打った家畜は殺処分することになるので、また頭数が増えるがやむを得ないだろう。残念だが「清浄国」はしばらく返上し、再び獲得できるようにするべきだろう。
※といってるうちにワクチン使用が決まった。まずは迅速な実行を祈りたい。
■宮崎の畜産農家の危機は、他地域に住む一般人の危機でもある
「たかだか畜産農家の危機くらいで膨大な予算を使うな」という思いを持つ人もいるかもしれない。けれども、これは一軒一軒の農家の責任でもないし、また畜産農家がダメージを負うだけの話ではない。畜産農家への貸し付けをしている金融機関の危機でもあり、地域の飼料メーカーの危機でもあり、市場やと畜場などの流通業者の危機でもある。つまり下手をすると宮崎県の地域経済の一部が破綻する。
日本のどこかの誰かのお金が回収不可能になったら、そのしわ寄せは間接的に我々他地域にすむ一般人にも及ぶのだ。ギリシャ経済破綻とかリーマンショックで、世界の金融危機については想像しやすくなっている反面、自国内での出来事には鈍感になってしまっているのではないだろうか?
金融機関やダイエーが経営破綻しても「つぶすわけにはいかない」とどこからともなく資金が注入される。つぶしてしまったら国レベルが危うくなるような危機が訪れるからだ。けれども今回の場合、大きな組織1社ではなく畜産に関わる大中小の農家・業者が対象なので、救済もまた後手後手に回るだろう。
そうなったときに、いろいろな意味で身動きをとれず自ら命を絶つ道を選ぶ関係者が多くなることを、真剣に恐れている。封じ込めに大きな対策費が必要だからいまいろんなところから支援の道ができてきているが、一方で被害にあった当事者たちの生活費に充てたりという基金も必要なのではないだろうか。阪神大震災などの被災とは違い、住居などはそのまま残っているから危機的状況がわかりにくいけれども、支えてあげなければならない人たちがこれから大量に出る。
■いま県内で行われている処理はこんなふうだ。
宮崎の県や市町村職員は例外なく防疫作業にかり出されている。僕の知人から詳細なレポートが来たので許可をえて引用する。
口蹄疫の現場作業処理 車両消毒班…畜産農家への搬入車両を消毒します。 3交代制で24時間消毒を行っています。家畜埋設班…口蹄疫が発生した牧場に出向き処理をします。
全体処理計画…県の家畜保健所職員が全体指示をします。
①ブルーシートでの目張り(→地域住民に見えないように覆います)
②汚染区域の確定(→バイオハザードエリアの確定)
③家畜の誘導(→家畜にとってはデスロードです)
④家畜の殺処分(→獣医師が殺処理をします。電殺、薬殺、ガス殺
と複数の処理法があります)
⑤死体家畜の運搬(→足に紐をひっかけてブルドーザーで引きます)
⑥死体家畜の埋設(→自衛隊職員が穴掘り作業、その穴に埋めます。
⑦畜舎・周辺清掃(→畜舎内の清掃をします。これが一番きつい)
⑧薬剤消毒(→アルカリ剤を畜舎環境全面に散布します。)
⑨石灰散布(→石灰粉を薬剤と同様、全面散布します。これも辛い)
⑩人員消毒(→人間の消毒を終えて終了)
以上の流れで動いています。ここ1週間は県外からの支援もあり、人
員が増えているようですがそれ以上に被害が広がっているようです。作業は辛いの一言につきますが、それ以上に農家さんの心情を思うと
涙が出そうになります。ここ数年、飼料(餌)が高騰しており、和牛
繁殖農家、和牛肥育農家、酪農家、養豚農家全ての経営体が困窮して
いる状況下の惨事です。
この口蹄疫では殺処分した牛豚のみが被害の対象となっており、国が
価格保証するとありますが、被害はそれだけに留まりません。このエ
リアにいる畜産農家全体が搬出制限の状態であり、出荷できず餌代が
かさみ収入が無い状態が続いています。これは口蹄疫にかかっていな
い農家も同じ状態です。いつ自分の農場も当該病気が出るかの不安や
経営的な不安などが重なっており、いろんな面で追い詰められている
状態だと思います。
先日も酪農家への処分に行って参りましたが、農場主立会いのもと、
処分を行いました。ご存知な方もいらっしゃるかもしれませんが、
畜産農家にとって家畜は家族同然といっても過言ではありません。
和牛繁殖農家では生まれた子牛がセリに出て行くまでわが子のよう
に可愛がり、養豚農家は一貫経営(繁殖、肥育)のため、長い時間
飼育し、赤ちゃん豚、母豚等混在した中での営農です。また、酪農
家はホルスタイン牛を養っていますが、牛一頭、一頭の健康状態など、
様子を伺いながら搾乳します。動物ですので言葉で話し合えない分、
観察の目、愛情の目を持って接しているわけです。そんな実状を知っ
ているとその畜産農家のメンタリティを知らない人に伝えたい気持ち
でいっぱいになります。引用終わり
■他の県にも厳戒態勢が敷かれている。
さらに宮崎から遠い他県の関係者からもこんな連絡をいただいた。
○○県も繁殖牛が多く、他県にも子牛を出荷しておりますが、 5月は、市場も延期となりこのまま続くと(早く終息しなければいけませんが) 県内だけでなく全国の畜産農家に多大な影響が出ることとなります。 本県でも、ここ数日中に対応策(消毒や融資対策など)が 示されることとなるでしょう。宮崎の状況については、本県から派遣された職員の復命で知りましたが、
現場のたいへんな状況は、想像を絶するものです。この地であのような状況になったら・・・
考えただけで、恐ろしくなってしまいます。従事されている職員の疲労もピークに達しているのではないでしょうか?
10年前の教訓が生かされているのかよく分かりませんが、
初発からかなりの日数(約1月)がたっており、
口蹄疫封じ込めにもっと対応できることがないのかと思ってしまします。心配しても、何もできませんが
横峯さくらさんがゴルフの賞金を義援金にするなどのニュースもあり
支援の輪が拡大してほしいところです。
すでに他県でもかなり事前対策が始まっている。
考えてみたら、、、遠い岩手県で発生しないという確証はない。ぼくがオーナーとなっているかわいい4頭の短角牛の身の上が心配になる。春になり、ちょうど先週末に彼らは牧野に上がったばかりなのである。
■全国の有機農家達の使う堆肥が枯渇し高騰する?
一方、畜産だけではなく、畜産に関連する野菜・米農家からも悲鳴が聞こえてくる。「え?関係ないんじゃないか?」と思ったアナタ、意外なところで連関している
のです。
とても酷い状態になってますね。実はウチの父親の実家が乳牛を営んでおりまして人ごとではないです。子どもの頃、よく牛舎に行っては怒られました。「病気にかかるから汚い格好で 行くな」ってね。間違いなく、この問題は全国に波及すると思います。口蹄疫という病気だけでなく、種豚、種牛の不在により全国の畜産農家が経営できなくなり、最終的には有機栽培農家が堆肥を購入できなくなると言う、2次、
3次の弊害が出てきそうです。ウチが扱っている○○牛も、このまま宮崎の仔牛生産が滞れば牛舎に牛が不在となり、堆肥の生産?が出来なくなるそうです。
今となっては遅いですが、ほんと初動が悔やまれます。何でこうなんですかね。平和ぼけだけでは済まされません。
何の為の法律なんだか、ある意味危機感を持たない、知識だけの素人集団になってきてしまっているのでしょうか?
有機農業や、有機ではないにしろ減化学肥料を実践する農業では、堆肥はいうまでもなく重要なもので、いってみれば車にとってのガソリンのようなものだ。それが供給されないとなると大変だ。
一般人には知られてないかもしれないが、化学肥料の国際的な価格はしばらく前から上がっている。リン鉱石の不足などで、世界的に需給が逼迫しているのだ。グローバルな調達でなんでも引っ張ってこられると思ったら大間違いなのである。これもまた、食料危機のきっかけになりうる問題なのである。
とりあえずこんな感じだ。
この被災に関しては、短期間では確実におわらない。先述の宮崎県内にいる友人「完全に落ち着くまでに二年はかかるでしょう。」
と言っていた。
宮崎市内の最有力な商店街である「一番街商店街」で、先月から正式オープンしたイベント「街市」が22日に開催される予定だったが、県内の集会・イベントへの自粛要請を受けて延期となった。これとて、イベントのために参加者が準備していたことがすべて白紙になって無駄になってしまう。いろんなことに影響が波及している。
他人事ではないのだ。同じ日本に住む者として、宮崎県にたいして何ができるものか、考えたい。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
本サイトの著作権はやまけんが保持します。出版物・放送等に掲載される場合はご連絡を下さい。トラックバックはご自由に。