第一次産業に逃げ場はないのですよ。宮崎県の口蹄疫発生状況に、言葉が出ない、、、 我々にできることはなんなのだろう。

2010年5月17日 from 口蹄疫を考える

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ここのところあまりに繁忙だったので、口蹄疫のことについて書こう、書こうと思いながらずいぶんと時間がたってしまった。

、、、そして、事態は予想以上に恐ろしく深刻な事態になってしまった。宮崎県の畜産はすさまじいダメージを受けてしまったのである。16日には被災農場が100を超した。すでに殺処分をしなければならない患畜が8万頭(!)を越している。

このニュースが一般にはあまりうまく伝わっていない。どうも、情報があまり出てこないので報道管制が敷かれているのではないかという勘ぐりもあるようだけど、それは違うでしょう。鳥インフルエンザの時に、発生した農場にずけずけと無断立ち入りしたマスコミがあったが、ああいうことをされたらすぐに他地域に感染してしまう可能性が高い。だから取材や交通を制限しているので、あまり情報がでてこないのは当然なのである。

またマスコミは過剰にエキサイティングなニュースを報道したがるので、国家的陰謀とかそういうことを勘ぐりがちだ。先日もあるラジオ局から「情報もらえないすかねー」という問い合わせがあったけど、どうも口ぶりからそういうパニックをあおるような報道をしたがっているようなにおいを感じたので、何もお話しすることはないと断った。

本件については、客観的事実などが知りたければとりあえば宮崎県のWebを見るべきだ。発生数等については把握することができるようになっている。

原因がなんなのか、どこが感染源なのかという犯人捜しもひそかに行われているようだけれども、まだ確定した情報はない。本当かどうかはともかくあそこだろうという情報は、5つほど耳にした。けど、もうそれをとやかく言ってもしょうがない。今はとにかく感染が外に広がらないようにすることに力をさくべき時だ。

ちなみに
最悪の事態は、口蹄疫が日本の他地域にも伝播してしまうことである。そうなると、国産の牛・豚肉の存亡の危機となる。これはオーバーな表現じゃない。それに全滅が免れたとしても、たとえば今後、いろんな人たちが進めようとしている金持ち国への輸出というのができなくなる。口蹄疫のリスクがある国からは輸入しないというのが普通だからだ。

だから、国民にできることは、、、 とにかく邪魔をしないということじゃないかな。対策費用としてばんばん税金が投入されることになるけど、それに文句を言ってると、マジで国産肉が食べられなくなる可能性がある。「いいじゃん、輸入すれば」という極論は国を滅ぼすよ。そしてもし無体な取材をしようとしているマスコミがあればテレビ局に電話して「そっとしておいて、対策に専心させてやれ」と言うとかね。

今回の件は、規模や意味も違うけれども、阪神大震災に被災した人たちに対して向けたいたわりと同質な目線が必要だ。だって、どんな補助金を見舞われたとしても、患畜を出してしまった農場は現在飼っている家畜をすべて殺処分しなければならない。その頭数たるやすさまじいものである。

自分のところでは出てないけど、隣の農場で出たという場合も、10km以内の距離だと移動制限がかかる。つまり出荷できない!工業製品の在庫は倉庫代金しかかからないけれども、家畜の場合はいきているからえさ代が毎日かかっていく。それも、いつまで滞留させればいいのかというめどもつかない。出荷適齢期を超えて飼うと、脂肪ばかりついて価格が下がる。畜舎もいっぱいになって、あふれてしまう。

補填金が出たとしても、それは「殺処分した家畜に対して、ある程度の補填」でしかない。次にまた再起することができるかどうかというと、これはもう果てしなく可能性は低い。畜産が野菜などの耕種部門とは大きく違うのは、初期投資がむちゃくちゃにかかるということだ。牛舎・豚舎どちらも数千万円規模の投資になる。いまただでさえ不況なので、運転資金を借りるのも大変なときだ。そんな状況で、新たに育てようと家畜を導入する資金を借りられる可能性はきわめて低い。そんな状況だから、「宮崎県の畜産が壊滅するかしないかの危機」なのだ。

農業や畜産業も自由競争の世界で経営を先進化させようという論調がこれまでもあったけれども、あきらかに間違いだと再認識した。食品の素材となる一次産品を生産する農林水産業は、工場生産や飲食店のように、「国内が手に入らなければ海外から」などと選択する逃げ場を持たない、どん詰まりの産業なのである。だから「守らなければならない」のは当然のことだ。


■種雄牛に口蹄疫が感染した

こんな状況のなか、とうとう昨日の時点で、宮崎県の家畜改良事業団の農場からも患畜が出てしまった。日本全国で和牛などの優良な血統の種牛が育成されている。おもに県ごとに育てているのだが、全国の和牛産地に子牛を提供している宮崎には55頭の種牛がいた。そのうちなんと49頭が殺処分の対象になってしまったのだ。残る6頭は事前に、万が一の状況をかんがみて西都市に避難させていたもので、これらは移動前の時点では感染していなかったことが確認されている。

それにしても、種牛から採取する精液がなければ優良な血統の牛を生産することは難しいわけで、その選択肢の9割がいきなり消えたというのは恐ろしい事態だ。もちろん他の地域から精液を購入することも可能だけど、各県が育成している種雄牛の精液は基本的に県外不出なので、入手は困難だろう。民間ブリーダーから買うにしてもおそらく高騰が続くことが予想される。

なにより宮崎牛というブランド自体がどうなるということが心配だ。
宮崎の黒毛和牛はどうも僕のあまり好まない、A5に近くなることを優先した牛が多いけれども、それとこれとは別問題である。


■頭数の数的な把握について

8万頭という規模があまりぴんとこない人も多いだろう。いま宮崎で発生している口蹄疫についていうと、肉用牛と酪農用の牛、そして養豚において出ている。口蹄疫は偶蹄類(ぐうているい)のみが発症する病気なので、鶏は罹ることがない。

罹患してしまった経営体すべてが深刻な状況だが、意味的により深刻なのは肉用牛と養豚だ。
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肉用牛の場合「繁殖経営」と「肥育経営」の二種がある。「繁殖」はメス牛を持ち、優秀な種オス牛の精液を購入してメスに人工授精し、将来肉牛となる子牛を育て出荷する経営だ。「肥育」はこの繁殖農家が出荷した子牛を買って餌を食べさせ、体重が700~800kg程度になるまで育てて出荷する経営だ。

だいたい繁殖農家は小規模で、一軒で10頭~30頭程度というところが多い。肥育農家になると規模がどかんとデカクなり、100~200頭規模でやるところが多くなってくる。

宮崎県は繁殖農家が多く、全国トップの鹿児島に次いで子牛を全国に出荷する有力な産地だ。いま、発生農場の内訳を見ていると肉用牛では圧倒的に繁殖農家の率が高い。つまりこれからの子牛市場の価格・量に大きな影響が出るだろう。

次に養豚だ。これは全く持って大変な状況である。当然のことだけど、一般に家畜は個体が大きければ単価も高く、小さいものは単価が低い。だから小さい個体であるほど頭数をたくさん飼わなければ経営に見合った収益がでない。
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豚は中型家畜であり、一経営体に肥育豚が少なくとも300頭以上いるのが普通だ。今回の発生農場の内容を見ていると、肥育豚だけではなく母豚など含めて5000~7000頭レベルの大農場も発生していることがわかる。


■畜産農家と関係者のみなさんのココロのダメージを心配する

とにかくこれに尽きる。
農家は先述の通りだけど、それ以外にも獣医師や消毒にかり出されている人たちが大変だ。殺処分といっても、正式なと畜場のように、命をいただく様式がきちんと設備的に整っているところとは違い、獣医師が一頭一頭に注射をしていくというかなりアナログな対応をしなければならない。牛ともなると個体がでかいから、運搬からなにから非常に労力がかかる。

それに、鳥インフルの際にやらざるを得なかった殺処分で精神的に不安定になった関係者が多数でた。極限状態で命をいただく仕事を続けなければならなかったのだから当然だ。今回はしかも小型家畜の鶏とは違い、見た目にも大きな牛と豚だ。命を救う仕事をしたい獣医師が、命を奪わねばならないのだから、ストレスは甚大だろう。

昔、台風によるマンゴー被災の際にこのブログを通じて義援金を募ったことがあるけれども、今回は規模があまりにでかすぎるし、すでに周知のところなのでそうした行動はとらない。
宮崎県のホームページや、いろんなところで募金の窓口があるようだ。便乗して詐欺的な行為をしようとしているところではないかきちんと確認した上で、応じられる人はぜひ応じていただきたいと思う。

また本件については書くことがあるだろう。
消費者にいまできること、、、 宮崎県産の畜産物(特に牛・豚)があったら買うこと、そして売り場に無ければ「宮崎を応援するために入荷して!」と売り場担当者に言ってあげることだろうか(その上できちんと買わないと意味がないけどね)。