さていよいよ”焼き”である!
大型の七輪には、使い込まれて中央部が盛り上がった網が乗せられる。炭火はもうすでに熾火になり、炎は立っていない状態だ。そして、先ほどの肉塊から切り取られ、周りが整えられた肉がやってきた!
目測で450g程度か。部位はリブロース。
土佐あかうしとしては上クラスとなる、A3の肉である。この横に、本日、県の方から持ってきてもらった普通に真空パックで熟成したサーロインを並べる。
こちらはサーロイン。なので厳密に部位間の味わい比べはできないけど、まあでも特製はわかるはずだ。
又三郎の熟成肉の焼き方はそうとうに練り込まれている。炭火で肉に短時間だけ熱を当てて、アルミホイルでくるんで熱を回し、また短時間焼くというプロセス。都合3回炭火にあてる。
まず第一回目の焼き。表3分、裏返して2分。
この段階は内部に火を通すという意識ではなく、表面にあてた温度が内部にじんわり拡がり、全体が本格的な焼きに備えることが出来るようにする段階だそうだ。
一定時間焼いたらすぐにホイルにくるむ。もちろん火に当てっぱなしではなく、立ちのぼる炎にできるだけ肉があたらないように位置を入れ替えながら細かな熱調整をしている。
二回目の焼き。このあたりからきちんと火を入れるという意識になっていく。
ご覧の通り表面はきちんとアミノ・カルボニル反応が起こって焼き目がぎちっと着いている。これだけ焼き込むのだから、肉に相応の厚みがなければ今度はバサバサに焼きすぎてしまう。したがって肉のカットが非常に重要になるとみた。
三回目の焼きの終了。いったん厨房に運ばれ、カットされて出てきたのがこれだ!
三回の火入れによってじんわりと熱が入っている。輻射熱の入り方になる炭火だからか、不必要に生っぽくない、中央まで火が入りながら、ジューシーさを保っているのがはためにもわかる火入れである。お見事!
そして、こちらが熟成肉ではないほうのサーロイン。
さあ、食べ比べだ。
結論から先に言っちゃいます。
又三郎の熟成土佐あかうしは、おそらく日本でもっとも土佐あかうしを美味しく食べることができる店、と言って構わないのではないか、と思ってしまった!
ものすごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおく 美味しい!
ドライエージングビーフ(DAB)を食べたことがない人にはおそらく想起できないだろうけれども、DABには特有の香りが出てくる。それが熟成香というのかなんなのかわからないが、とにかくフレッシュな肉では味わえない、ミルキーでコクを感じる香りなのだ。そして長期保存によってだろうか、タンパク質の結合がゆるくなるようで、しっとり柔らかい食感・香見応えとなる。そして、赤身肉のタンパク質が分解していくことで豊富なアミノ酸が肉からにじみ出すように感じられる。この3つの印象が、DABの特徴といっていいだろう。
この又三郎の熟成土佐あかうしは、上記の3点に加えて、もともとベースとなっている土佐あかうしの旨さが存分に伝わってくるのだ! まず今回の牛はめったに出てこないメス。オスの去勢牛とメスとでは味は全然違って、きめ細やかな上質な美味しさといえばメスに軍配が上がる。その身質が元々もつ旨味が、熟成によってさらにグレードアップしているのだ。
独特の香ばしい薫り、まさしく芳醇な旨味、飽きの来ない適度な酸味、まったくくどさのない油分の快楽、そうしたものが一瞬にして舌を起点にして、脳内の快楽物質を踊らせてくれる。
文句なしです。
まあ食べる前からわかっていたことだけど、通常の土佐あかうし肉と食べ比べると、その違いはよくわかる。初めてDABを食べる人は、非DABの肉と食べ比べた方がわかりやすいかもしれない。それにしても、左のDABと右の通常熟成のテクスチャをみくらべると、肉の照りや色、脂肪部の盛り上がり方などが全然違う。もちろん同一個体・部位ではないので厳密な比較にはならないが、熟成肉のほうは全体的にしっとりとなじんでいるようにみえる。右側の通常肉のほうは、自由水となっている水分が多いのだろうか、キラキラとしている。
いやーシャッポを脱ぎました。4人でいっきにぺろりと二枚の大きな肉を食べ終わりました。旨かったけど、まだまだ喰いたい!ということで焼肉モードへ突入。
荒井さんみずから、ホルモンや様々な部位の焼肉を焼いてくださった。どれもこれも絶品!やっぱり牛肉への文化的理解度は関西の方に軍配があがるのだろうか。
タン刺しや刺身はどれも但馬(黒毛)のA5だというが、それを感じさせない味。久しぶりに旨い黒毛を喰った。
何か飲み物を、といわれたけど、ぼくはこういう席ではめったに酒を二杯以上呑まない。だって、カロリーを採るなら酒じゃなくて飯でとりたいもん(笑)
ので、ユッケピピンパ大盛り。なんだか旨かったのでもう一杯おかわりしたら、
「久しぶりに観ましたよそんな食欲の人。いまどき中学生もそんなオーダーしませんよ」
と大笑いされた。いや、実に吟味された肉だったので、まったく腹にもたれないのですよ、、、
三谷ミートさんと荒井さんの情報交換。肉のプロ同士、高度なやりとりがされていた。かっちょいー!
料理長はまだこの店で3年目くらいだという。そうなのかー!社員のみなさん明るく、そして仕事が終わった後には自然に肉の勉強会が始まる、そんな熱心な店だそうだ。
「だって、高知まであか牛をみにきてくれた時、店員さんがほぼ全員きてくださったんですよ!そんな店、めったにないです。」(公文さん)
佳い食材を欲しいと願う料理人は多いけど、佳い食材は居丈高に「もってこいよ」といっても手には入らない。やっぱり、産地に足を運んで、生産・流通と理解と情を通じている人に、佳いものは流れていく。これは不公平でもなんでもなく、当たり前のことだ。
「いいメスが入ったら、真っ先に又三郎さんに連絡しますしね」
という三谷ミートさんの言葉は、しごくまっとうな関係性のなかから生まれている。まず、土佐あかうしの真価を識りたいと思う関西方面の料理人さんは、又三郎さんを訪ねてみるといいと思う。その際は予約をして、肉のコンディションを聴いて、いちばんいい時期を教えてもらうことだ。後悔することは無いと思う。
ああ、またすぐに又三郎に行きたい、、、偽りのない実感だ。荒井さん、ご馳走様でした!大変に美味しゅうございました!
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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