2010年2月 9日 from 出張
陸前高田にようやく再訪することができた。数年前に佐藤嘉彦さんに連れられ、盛岡~陸高~久慈市山形村という、地元の人たちならまず「そんな無茶な旅はしない」という距離を爆走したあの旅以来である。
「やまけん、ちょっと話しに来てくれよぉ」
と、醤油の世界では知らぬものの居ない、八木澤商店の河野社長に呼ばれたのである。そりゃ、断るわけにはいかない。昨年、恵比寿ガーデンプレイスで開催した「発酵は旨い」シリーズの醤油の会にも講師として出ていただいたこともあるしね。ということで、一関駅から迎えの車に乗せていただき1時間ちょっと。
陸高の町並みの中にあの懐かしい看板が!
(続きは下記↓をクリック)
醤油、味噌、ドレッシング、もろみを使ったお菓子などでいっぱいの店舗。製造している蔵に隣接しているこの空間も非常に古い建物だそうだ。
あらあら、八木澤商店も豚丼のタレ出したのね。ドレッシングも、、、、ひょいと裏面を観たが、淡泊加水分解物も酵母エキスも使っていない。
「そんなのうちが使うかぁ!」
と社長に一喝された(笑)
「めし、食いに行くぞ!」
と連れて行ってくれたのが鰻の老舗、「天亀」。
見事なアユ!ここのご主人が夏~秋に釣ったのを冷凍しておくらしい。
陸前高田の鰻の焼き方は、蒸してから焼きだそうなので関東風なのだけど、東京で食べるようにぐずぐずに柔らかいのではなく、鰻の食感がしっかりのこった蒸し加減で僕好みだ!とても美味しい。
もちろん秘伝のタレには八木澤商店の本醸造醤油が使われている。
ちなみに陸前高田では鮭もあがる!ということはイクラも素晴らしいのである。プチプチを愉しむ。
会場となるホテルにチェックイン。窓からの眺めをスナップしたが、綺麗な風景なので、段階露出をしてソフトPhotomaticsに読み込み、合成してHDR写真を作ってみた。
小さい画像じゃわからないかもしれないけど、ダイナミックレンジの広い不思議な写真になった。縦位置写真だと三脚なしで段階露出を撮るのが大変なんだよなぁ。でも今度試してみよう。
さて、この日の驚きはここからだったのだ!
お仕事終了!
陸前高田で海産物をいやというほど食べたいというならばここ、というのが「田舎」。
「おうー いいの入ってるか?」 と河野社長。一日に何遍も電話をかけてプレッシャーをかけていたそうだ(笑)
「ふふ、今日は旨いよぉ!」
と大将が色々用意してくれているようだ。
ワカメや昆布などが鶏肉と煮込まれた突き出し。最初のこの一皿で、「ああ、海の街だ!」と実感。なんでかっていうと、こういった海草類の味、鮮度がむちゃくちゃによくて、美味なのだ!厚みのある海草類に歯を立てるとシクゥーッと歯切れする。これは期待できそうだね!
刺し身盛り! うわーい タラの白子だ! この辺では「タラキク(菊)」というらしい。菊の花びらみたいだからか? 陸高の冬は、真鱈(マダラ)のデカイのがとれるのが全国的に有名らしい。
これを、八木澤商店のスペシャルポン酢でいただく。
あ、ちなみに八木澤商店のポン酢は、おそらく日本で一番旨いポン酢です。だって非加熱のゆず果汁を使ってるんだもん。ちょっと価格は高いけど、その価値ありの一品。濃すぎて旨い大阪の旭のポン酢、たおやかで真摯な飯尾醸造の富士酢ポン酢に並ぶ傑作なのだ。
北海道における「タチ」と陸高で食べる「タラキク」はなんか少し違う感じもする。雰囲気のせいだろうか。クリーミーだがさっぱりといただいた。
さて、、、この夜二番目の驚きがこれ。
ん? 何これ? イワシの酒粕漬けか? と思いきや!
「これはねぇ、水あげされたばっかりのイワシを、吟醸麹(こうじ)に漬け込んだんだよ。」
「ほら、イワシが極上の味になっちゃうんだよね。いまうちでこれを商品化使用としてるんだよ。」
ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
これは旨い!
吟醸麹の香りは、よくある麹漬けよりもはんなり柔らかい発酵香で、まさしく吟醸のようだ。そして、優しい塩分に漬けられて、イワシの食感がえもいわれぬものに変化している! 発酵系や酒粕系の味が好きでない人も、これなら必ず食べられるだろう。素晴らしき美味しさである!
「こいつも、商品開発したんだぁ」
と出てきたのが、、、
「ホヤの麹漬けだよ。ホヤ、大丈夫?」
大丈うぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううう
ホヤのあの鮮烈で苦手な人も多い香りが、ふうわりと落ち着いたものになっている。吟醸麹の味がマイルドなので、ホヤもとても上品に丸くなっているのだ!よくあるホヤの塩辛かと思ったが、あのすさまじいパンチではなく、あくまで高貴な感じに仕上がっている! 酒飲みにはもうちょっと塩が効いた方がいいかもしれないが、小鉢でいただくには実に素晴らしい味つけである!
さあそして、おそらくこれは北海道でも僕は口にしていない一皿。
「これはね、本物のタラコ。スケソウダラじゃなくてマダラの子をばらして味付けしたんだよ。」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
これ素晴らしい!
思わずミクロの世界に寄る!
塩蔵されたタラコの、ちょっと燻製のような魚卵独特の香りが嫌だと言う人がいるだろう。そんなあなたにこれを一さじ含ませたい。あの魚卵ぽさがほとんど無く、サラサラととろけていくような、上質な丸い粒子の集合体なのだ。しかも、ユズだろうか、薫り高い果汁がさりげなく仕込まれていて、あくまで綺麗な香りがする。もちろんベースの味付けとなっている醤油は八木澤商店だ!
いやービックリする。なんとスゴイ店!そして陸高の海産物のレベルの高さ!
と、これまで出てきたもので十分に衝撃的だったのだが、、、
僕は本当に初めての体験をしてしまった。こんなにも美味しいの?という感激の体験を、、、
「はい、今日のメインディッシュのしゃぶしゃぶの具だよ。」
え?
どうみても量的な配分は、この海草山盛りに照準が合ってるよね?
「あのですね、これはワカメなんです。これをシャブシャブと湯にくぐらせると、すごいことになるんですよ!」
あー 知ってます。 青森を中心に食べられている山菜の「ミズ」と同じく、湯に通すとこの黒っぽいのが色素変化して、鮮やかな緑色になるんですよね。 うん、知ってます。
しかし、、、
俺は知らなかったのだ。
「はい、シャーブシャブ!」
色、変化!
(シャブシャブ担当のコウジさん、どうもありがとう!)
うーん、これだよね、海草類って面白いよね、、、とこのワカメを、大将特製のタレにくぐらせて口にする。
ルリッ ルリルリルリッ!
ええっ?
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
なんだこの未体験初体験の心地よい歯触りは!
なんだこの風が吹いているかのような爽やかな風味は!
なんだこの超弩級の旨さは!
滅多にフォントの大きさや色を変えない僕があえてそうした事実を重く認識していただきたい。
想定外の美味しさなのである!
「な、な、なんなんですか!これ?」
「いやーワカメだよ ふっふっふ」
とみな笑っている。
「実はね、陸高はワカメの大産地なんだけど、これは早どりワカメっていうものなんだよ。今の時期だけ、棚につるして養殖しているワカメが大きくなるように少し間引きをするんだ。その小さいワカメはいままでは捨ててしまうか、猟師の家だけで食べてたんだけど、あまりに旨いからこの時期だけは少し出回るようになったんだ。」
早どりワカメ!
おそらくこの字面だけ読んでる方には、この衝撃的な美味しさはあまり伝わらないと思う。しかし、全国の郷土料理をいままでいろいろ食べてきたけど、これほどビックリしたことは滅多にない。それほどの美味しさだ。
ちなみに鍋に張られているのはただのお湯。ワカメからどんどんダシが出てくるのだそうだ。湯にくぐらせる時間はホンの3秒程度。サーッと色が変わったのを引き出して食べる。タレをつけないでいただくと、海水の塩分だけで実に完成された味。大将のタレは居並ぶ人たちが「この味付け佳いな!」と唸った、出汁にごま油の風味が効いたものだ。
いやー本当にびっくりした。
「これはね、本当にこの時期しか食べられないから。陸高に来てもらうしかないんだよね。」
うん、うんとみんながうなずく。ああ、農産物よりも短い、海産物の旬。来年のこの時期、おれはまたここに来ようと心に誓ったのである。(こられるかなぁ)
宴は続く。
陸高といえば広田湾の牡蛎!
牡蛎の旨いやつは、火を通すと味がふくらんで生より旨くなる!
タラキクの天ぷら!
トロトロのクレマに火が通ると、コクが強くなってまた一段と味わいが深くなる。
いやーーーーーーーー
堪能しました、、、 この店、陸高にくるなら絶体に来た方がいい。それもきちんと予約をすること!予約なしでこういう店に行って、佳いことは一つもないよ。
とにかくあの早どりワカメには激烈に感動した僕であった。まだまだ食の世界は広い。
ホント、ごちそうさまでした。
大船渡・陸高の皆様もありがとうございました。Hさん、オリンパスのカメラのレンズ話で盛り上がれて楽しかったです。E-420は名機だが、十字ボタンに各種機能を割り振りカスタマイズできないとのこと、そこまで使い込んでる人もあまりいないでしょう(笑)
みなさん、またお会いしましょう~!!!!!!!!!!!!!
そして翌朝は、3年ものの牡蛎に逢いに行ったのである。
(続く)
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
本サイトの著作権はやまけんが保持します。出版物・放送等に掲載される場合はご連絡を下さい。トラックバックはご自由に。