2009年10月 1日 from 出張
高知龍馬空港に着き、県畜産課の二人と合流して向かうのは、僕と彼らを結びつけてくれたひまわり乳業の吉澤社長(文さん)のところだ。
文さんとはなんとも不思議な縁で繋がっている。むかーしむかし、親友ののざけん(愛媛大学准教授)に高知を案内してもらっているとき、市内の55番街という飲み屋があつまるところにある「バリムーン」というバーに連れて行ってもらった。
「ここはな、高知のおもろい人たちが集まる店なんよ」
と言われたとおり、なんとなく新宿ゴールデン街のごとき濃い交わりのありそうな店だった。そのカウンターで一人カクテルを飲んでいたのが文さんで、のざけんとは顔見知りだったらしくぼくも名刺交換をさせていただいた。そのときひまわり乳業が、四国を代表する素晴らしき乳業メーカーだということを教えてもらった。
時は流れ、週刊アスキーで高知編をやろうということになったとき、カメラマンの八木澤さんが驚くべきことを口にした。
「あのさ、やまけんちゃん。俺の大学の親友が高知でひまわり乳業っていうメーカーの社長をやってるんだ。今度の取材、ちょっと行ってみないか?なんなら案内してくれるように頼むから」
え?それって吉澤さんのこと?
あれ?なんで識ってるの?
という衝撃のシンクロニシティがあり、見事高知にて彼らは20年ぶりの再会を果たすのである。その後も文さんは僕を高知の経済界の勉強会などに呼んでくれたのだが、その際に県の畜産家の二人が同席していた。僕の話を聴いて、「これはぜひ土佐あか牛のために呼びたい!」と思ってくれた。 そんなこんなで、僕は高知県との縁ができた。
「今日はね、先日発売した商品を是非飲んで欲しくてね!牛乳は飲み比べないといかんからね。お腹が冷えんように」
と、3種の牛乳を出してくれる。
右は超高温殺菌(UHT)の「ひまわり牛乳」。真ん中が生産者指定の「鹿島さんの低温殺菌牛乳」。そして左が新商品、「乳しぼりをした日がわかる低温殺菌牛乳」。
ひまわり乳業は低温殺菌牛乳がメインの会社なんだけど、それでもUHTの商品がやはりメインになっているんだなぁ、というのは意外。
「まあ、飲み比べればすぐに違いがわかるんだよね」
といいながらトポトポと鹿島さんの低温殺菌牛乳とUHTの牛乳を飲み比べ。
うーん 飲み比べるとやっぱりすぐにわかるぜ殺菌方法。UHTの方はあきらかに独特のコゲ臭がする。それを牛乳本来の味と捉える人もいるようだけど、余分な味だ。
対して鹿島さんの低温殺菌牛乳のほうは、なんの引っかかりもなく爽やかに飲める素晴らしい味だ。
そしてその後、文さんが「これはおそらく、商品としてきちんと出ているのは日本でも初めてやと思うんだけど、、、」といいながら口を開けたのがこれだ。
ちなみにこれ、何がスゴイかおわかりだろうか?下の写真を見ると、製造年月日、消費期限、そしてそのしたに搾乳日という表示がある。
実は、多くの人が識らないのだが、製造日=搾乳をした日、ではない。酪農家が搾乳した生乳はその後、タンクローリーで集乳される。集乳車と呼ばれるローリーは複数農家を廻ってタンクを一杯にして、乳業メーカーに持ち込む。メーカーは受け取りの際に菌数の検査などをして、問題がなければ受け取ってでっかい貯蔵タンクに生乳を貯める。
大きいメーカーだと、すさまじい量の生乳を集乳する。ひまわり乳業の場合は高知を中心とする四国の酪農家から集めるので一日で集乳できるが、大手メーカーが使う生乳は全国的な集乳ネットワークがあるので、一日で届くとは限らない。
また、貯乳タンクは巨大で複数あるため、一日の製造量を作り終わって余った生乳は翌日、翌々日というふうに繰り越されていく。もちろんその間、菌数などの管理はされるので、衛生的に問題はない、とされる。それに、大手の牛乳は120℃の超高温殺菌をすることがほとんどだから、それで有害菌は死滅する。その代わりに牛乳のあっさりした風味も消し飛ぶ。
ということで、ひまわり乳業のこの製品はかなりスゴイ商品なのである。
「うちの場合、なんと朝の2時とか3時に搾乳をしている酪農家さんがいるんで、ローリーが底を廻って、うちの工場に朝5時くらいには着くんです。それを低温殺菌してパック詰めして、商品ができあがるのが7時くらいですかね。それを自社便で出荷すると、まあ四国圏内は当日朝に店に並びます。大阪あたりまでなら、当日販売が可能なんですよ。」
うーむ そりゃすごい! 朝どれ野菜とかいろいろあるけど、牛乳の「朝しぼり」はそうそうお目にかかれるもんじゃない。ひまわり乳業のようなコンパクトさがいい方向にふれた結果の商品だ!
さてこの牛乳を飲んで、一同びっくり!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお 全然違う!」
鹿島さんの低温殺菌牛乳との差はそんなにないだろう、と思って飲んだのだが、さらにさらにあっさりして、余分な引っかかりを感じない! 断っておくが鹿島さんの低温殺菌牛乳のレベルはとても高い。牛乳は低温殺菌で作ると、UHTとくらべあっさりした風味になっていく。
「よい牛乳って、濃い牛乳?」
と勘違いしている人が多いが、ホンモノはあっさりしていくものなのだ。
とはわかっていたが、この「乳しぼりをした日がわかる低温殺菌牛乳」はまったくもって未体験のさっぱり感。それがとても美味しい!
「いやー 飲み比べてみるとはっきりわかりますね!目が覚めたような感じです」
と県職員の公文さんもいう。なんか、解像度の低いモニタから高いモニタまで三台並べて見比べているようだ。解像度が上がるごとに、違う世界が開けてくるのだ。
一体何がこんな味に差をつけて居るんだろう?
「やっぱりね、鮮度やと思うんです。僕もつくってみるまではこんなに味に違いが出るとは思わんかったんですけどねぇ。作ってみてビックリです。」
ふうむ、それはつまり貯乳タンクに入っている段階が短ければ短いほど、味もフレッシュになるということなんだろうか?
「そうなんだと思うんですよ。パック詰めしてからの劣化もあるとは思いますけど、やっぱり製造工程を短くすることが重要なんやろうねぇ。これは本当に、世の中でそんなにない製品やと思います。」
ちなみに、この商品を東京に輸送して一日余分にかかったとしても、店頭にならぶ牛乳製品よりもフレッシュなはずだ。ものすごい製品である。時間は品質なり。いやマイッタ。四国に行く人はぜひひまわり乳業のこの牛乳をスーパーなどで手に入れてみて欲しい。その際にはかならず、他の製品と「飲み比べ」をすることをお奨めする。
ちなみにこのひまわり乳業は先日のテレビ番組「県民ショウ」で採り上げられたらしい。乳酸菌飲料の「リープル」という商品があるのだけど、高知の人たちは「これは全国どこでも売っている」と思っているのだけど、実は高知にしかないという超・ドメスティックな人気商品なのだ。そういうヒット商品を多々生み出しているひまわり乳業だが、僕はその中でもヨーグルト製品をイチオシしたい。
この写真じゃわからないだろうが、ひまわり乳業のヨーグルトもすべてノンホモ。脂肪級の均質化をしていないため、ヨーグルトを発酵させている最中に乳脂肪分が上に浮かぶ。そして、サワークリームの層が2ミリくらいできるのだ。スプーンを入れるとまずクリームの層がデロっと割れて、そのしたにヨーグルト層が出てくる。このコントラストを楽しめるのが最高なのだ。
それと最近のヒット商品が、高知名物sのしょうがやゆずなどのゼリーをつかったヨーグルト。
蓋を開けると、柔らかなゼリーにしたゆず層があらわれる。
もちろんそのしたにヨーグルト層。
「うちは、ヨーグルトとコーヒー牛乳はうまく造る自信がありますき」
と文さんが自信を持って言うほどあって、実に美味しい。高知空港でも、2Fの右奥の軽食堂の入り口でヨーグルト全品と瓶牛乳を売っているので、おみやげに買い求めると佳いだろう。ただしノンホモのヨーグルトはあまり振ると層が崩れてしまう。ひまわりのヨーグルトは寒天を入れてないので、柔らかいのだ。だからクリーム層を味わいたい人はそーっと持って帰るようにして欲しい。
今回の高知はこんなふうに、大量の乳製品を味わうところから始まった。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
本サイトの著作権はやまけんが保持します。出版物・放送等に掲載される場合はご連絡を下さい。トラックバックはご自由に。