2009年3月27日 from 出張,農家との対話,農村の現実
石川県に呼んでいただいて、就農希望者や農業者さん達に講演することとなった。以前、和太鼓メーカーの浅野太鼓店に寄らせてもらったりした過去ログがあるが、その時はアグリファンド石川という、石川県内で元気な農業をしている生産者の集まりで呼ばれたのであった。その事務局担当者として、いろんなところに案内していただいたのが田中さん。JAバンク石川という、県レベルで農業者に資金を融資したりする金融機関の方である。車中でいろんな話をして、なんともまじめでナイスガイな方だった。今回、小松空港に降り立つと、その田中さんが車で迎えに来てくれていた。
「県の事業ですが、今日一日は視察されるということで、案内させていただきます。」
なんと休暇を使って案内してくださるという。一週間のコンプライアンス休暇というのをとらないといけないので、ちょうどいいんですと笑ってくれていたが、本当にありがたいことだ。
そして、石川の元気な農家巡りが始まったのである。
■「風来」 西田さんの野菜を観る
さてまず連れて行ってくれたのは、前回の講演の時に最前列できいてくれた西田さんの農場だ。と思ったら、自宅兼作業場兼、自然食品店になっている!
「山本さん、どうもお久しぶりです!」と握手。西田さんはバーテンダー、ホテルマンなどのサービス業を経て、就農した人だ。しかもその農業スタイルが非常に面白いのだ。
何が面白いかというと、、、持っている畑がたったの3反歩なのだ!
3反歩というのは、900坪ということになる。だいたい、日本の農家の平均的な面積が1ha程度だが、その1/3くらいだろうか。その面積で、先の写真にあるように他種類の野菜を作付けしているわけだから、それぞれの量は多くない。
これが、彼の畑。
ちょうど春作物に切り替わる前の端境期(はざかいき)だったため、作物は少ない。
メインのハウスが3棟で、その残りを露地野菜用のスペースとしているようだ。それら野菜を複数品目、宅配パックにしたてて販売しているのがメイン。ちなみに栽培は無農薬であり、化学肥料使用しない。有機JASなどは取得しないでやっている。
それにしても3反歩で野菜というのはなかなかにすごい。「よくそれで食っていけますね!」と驚くと、彼は言うのだ。
「家族が食べていけるだけの分しか栽培しません。それ以上やって儲かると言うことは、つまり働き過ぎってことですよ。」
もちろん、生産した野菜はすべて自力で販売する。県内の農場で研修した後、まずは自分で生産した野菜をリヤカーに乗せての振り売り(行商)から始めたそうだ。
「新規就農する人には、まず振り売りをしろと言いたいですね。振り売りができるようになったら、何でも売ることができます。」
京都などではまだ振り売り文化があるが、金沢でもやるんだぁ、と思ったが、最近は少ないそうである。そこで振り売りができるようになれば、一人前のコミュニケーション能力を持つことができるということなのだ。
「あと、野菜をそのまま売っているワケじゃありません。うちの母がキムチを付けるのが得意で、うちの白菜やキュウリなどをキムチにして販売します。奈良漬けや、鯖のこんか漬け(へしこ)なども。やっぱり、野菜だけではなくて、加工したものも織り交ぜないと。」
という言葉通り、店内のショーケースには自家製の漬物類が並んでいた。
「さてさて、じゃあ昼ご飯にしましょう、今日はうちでお昼を食べていってください!」
おおっと アグリファンドの田中さんの方で、粋な計らいをしてくれていた。お店で食べるのも嬉しいけれども、農家のご自宅のご飯ほど旨いものはなかなかないのである。
西田さんの奥様こころづくしの手料理。こいつがまた美味しいのである!
みごとな押し寿司!この辺じゃみんな造りますよ、ということだが、なかなか手が込んでいる。笹の葉にくるまれているのをとると、下にも油揚げなどが押されている。そして、米が美味しい!
「うん、うちの田んぼで自家用の米ですけどね」
おそらく、親戚に農家がいる人以外は食べられないだろうけど、農家の自家用米は美味しいものばかりなのである。
豚のショウガ焼きかと思ったら、ローズマリーと炒めた塩味。これがまた、アクのないスッキリとした豚肉で、非常に質がいい。仲間の養豚農家さんのものだそうだ。
美味しかったのがこのフォカッチャ。これは後述する、井村さんという麦農家さんの小麦を使ったものだそうだ。薫り高いし、だいいち焼き加減が絶妙。奥様、かなりの料理上手である。
紫キャベツと春キャベツの炒め物。食べてみると、独特の癖のある、旨味の強い調味料が使われている。おおおっと、これは魚醤の風味。そしてここは北陸ということは、、、
「これ、いしるが使われてません?」
「ピンポーン!いしるをさっと回しがけしてます」
いしるは、イカを原料とした魚醤だ。数ある魚醤のなかでも、イカの香りが強く出る、独特の風味だ。マイルドなキャベツが、非常にエッジの効いた味になる。
風来のキムチと牡蠣、卵とニラのスープ。実にこっくりとしていて美味しい!いや、やはり農家の食事は最高である。
「農家は面白いですし、食のことを伝える役目も持っていると思う。だから、うちはできるだけ消費者とコミュニケーションをとるようにしています。」
例えば、小さな畑にいろいろ植えられているのをマップにして宅配ボックスに入れている。
そうすると、それをみたお客さんが「観に行きたいな」と思い、実際に足を運んでくれることもあるという。いちど来たお客さんは、精神的な絆ができるから、ファンになってくれるのである。
料理上手の奥さんも一体になり、風来は頑張っている。このようなミニマムな営農形態で、きっちり食べていける農業を展開しているのは非常に面白い。野菜やキムチを食べてみたい人は、彼のWebを訪問して欲しい。
■無農薬野菜 風来 http://www.fuurai.jp/
(ちなみに、上の写真左側の笑顔の方は、後で登場されるので説明はしないでおきます)
さて美味しい昼食をいただいた後、一路 平松牧場へと向かう。
平松牧場は、加賀市で酪農を営みつつ、ジェラートハウスを併設し、牛乳のみならず加工乳やアイスクリームなどにして、直接販売するという経営をしている。
実は今、最も大変な農畜産業といえば、酪農である。トウモロコシなど、畜産の餌となる穀物が高騰している一方で、乳価は安く引き下げられている。これから少しは乳価が揚がるが、それでも店頭でミネラルウォーターよりも安い価格で牛乳が販売されている現状はおそらく改善されないだろう。
だから、酪農の経営では、生乳をせいさんして乳業メーカーに売るというこれまでのスタイルから、自分で加工して価値を高めて販売するという方向に転換しようとしている経営体が多いのだ。
ジェラートやソフトクリームなどを作るのが、なんとこの牧場の息子さんと娘さん。家族経営は強い!
ジャージー種とホルスタイン種の生乳をブレンドした牛乳をいただく。もちろんパスチャライズ殺菌なので、美味しい。ジャージャー種の乳100%だとちょっとくどいが、ブレンドすると非常に美味しく飲める。
ラムレーズンのジェラートも美味しゅうございました。
「あらセンセイ、ようこそいらっしゃいました!」と顔を出してくださったのが、農場長の奥様である。
さっそく、隣りにある牛舎を見学させていただく。
観光農園としても機能しているからか、牛以外にもいっぱいいる!こいつはロバ。
ウサギも可愛い!
そしてホルスタイン。
実は、いろんな牛の品種があるけれども、ホルは神経質なのが多い。けれどもこの平松牧場のホルスタインは気のよさそうな子ばかりだ。ストレスを与えない飼い方をしているからだろうか。
そしてジャージーちゃん。とっても可愛い品種なのである。
しかも人なつっこい。カメラを舐めんばかりに近づいてくる!
ひえっ危ない!カメラが舐められるところであった、、、
「そうだねぇ、うちはもう、濃厚な餌を与えて、たくさん乳を絞ってというやり方に疲れちゃったんだよね。だから最小限の頭数で、いい乳を絞るってことを考えてやっているから、牛も健康ですよ!」
と、平松牧場の長・忠利さんが仰るのである。
畜産業は、野菜や稲作よりもリスクが大きな業種だ。なぜなら、生き物を飼うという非常に不確定な要因と、牛舎や牛の導入など、初期投資の大きさが桁違いなのだ。みな莫大な借金を抱えて経営をしているのに、乳価は自分たちで決められず、生産原価を割ってしまう勢い。このままだと日本の酪農はどんどん減っていくだろう。事実、昨年と今年で、離農する酪農家が非常に多いのである。
だから、乳を自分で売っていくという方向性に梶を切りたい農家さんも多い。しかしそれもまたリスクである。そのリスクを背負って勝負に出ている酪農家を、応援してあげて欲しい。ナショナルブランドの、何が入っているのかわからないアイスクリームを買うのではなく、ちょっと足を伸ばして、酪農家が経営するアイスクリーム屋さんで買うだけでも十分だ。
■平松牧場のWeb http://w2272.nsk.ne.jp/~kaoru.h/
さてお次は米を中心とした生産法人である六星。ここはものすごく可能性を秘めた法人である!
以前、この六星から送られてきたかぶら寿司のことを掲載したことがある。かぶら寿司とは、北陸を代表する魚である鰤(ブリ)の切り身を大きなカブに挟み、麹でつけ込んだもの。日本で最も美しい漬物といえるであろう一品である。詳しくはこちらを。
■2006年01月04日 明けましておめでとうございます! (かぶら寿司)
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2006/01/post_708.html
つまり六星というこの生産法人は、米を中心にしながら野菜も積極的に生産し、なおかつこんな大きな直売所と工場まで建てて、加工品まで手がけているのである。
この生産法人の若き社長が、この軽部さん。
実は東京出身で、結婚を機に、嫁さんの実家を継ぐ形でこの六星に来た方である。もちろん他業種からの転身。だから、経営マインドをもって農業に取り組んでいる。
「あのですね、最近メディアが簡単に農業参入を謳ってます。ニートは農業をやれ、とかね。でもね、そんなに甘い産業なわけがないですよ!無責任にあおらないで欲しいですね。」
という。実に実に同感! 最近のメディア(テレビ・雑誌)は本当に無責任にそして無根拠に、農業ビジネスがイイなどと書いているように見える。書かれていることの多くが空虚である。ま、それはまた今度書こう。
で、この六星には、僕の大切な友人カップルが在籍している。川嶋タケ君と、菜穂ちゃんカップルである。農大出身の彼らは、全く躊躇無く就農を志す。どこにどんな農業者がいるのか情報がまったくないまま、全国を探している中で出会ったのが、この六星の会長さんだという。つまり軽部社長の義父さんだ。
実はこのカップルとの出会いが、数年前に僕と仲間達とで運営した「就農塾」のヒントになっている。「就農希望者向けの情報や講座が少ないんですよ」ということだったのだ。今では色んなところが就農希望者向けの情報を提供しているが、3年前はまだそんな状況ではなかったのである。
この日、タケはなんと僕と入れ替わりで横浜に出張。残念!久しぶりに会う菜穂ちゃんは実に充実した顔だったので、一安心である。
六星ではいま、お弁当の販売も行っている。いずれはイートインも、ということだそうだ。とてもいいと思う。なぜなら六星の農産加工品はことごとく美味しい。数年前に大根を送ってもらい、十数種類の大根の食べ比べをしたことがあるが、実はこの六星の大根がぶっちぎりで好評だったのである。
六星の強みは、社員に若い世代が圧倒的に多いことだ。10人ちかくの30代以下バリバリ若手が居る。そして社長も若い! 今後、大いに期待である。
■六星のWeb http://rokusei.se.shopserve.jp/
さぁて 長くなるのでいったんこの辺で。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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