2008年12月22日 from
富士酢の飯尾醸造から、同社が契約している農家が作った無農薬コシヒカリの販売の案内が来た。
富士酢は、もの凄いお酢だ。JAS規格に定められている米酢の定義では、一リットルの酢に米を40g使っていれば「米酢」と表示してよいことになっている。しかし、実際には40gでは、一リットル分の酢を作れるアルコールを得ることはできない。だから、大手メーカーなどでは、米だけではなく、雑穀由来のアルコールなどを添加して水増ししている。
一方、富士酢は米以外は使わない。純粋に純米酒を仕込み、できた日本酒に酢酸菌の膜を移植し、桶で寝かせるとお酢になる。その熟成時間は半年から2年。これを静置醗酵という。大手メーカーでは全面換気といって、ぶくぶくとエアーを入れて発酵促進することで一日で酢を造ってしまう。
で、富士酢の原料は、すべて無農薬米なのだ。一般の人は、無農薬栽培の農産物を簡単に入手できると思っている人が多いが、「どんなことがあっても絶対に買うよ」という信頼関係が確立された契約栽培でなければ、生産されることはほぼ無い。とても尊いものなのだ。
飯尾醸造では、昔からの契約農家さんに、無農薬米をつくってもらっている。無農薬で栽培するのは大変だ。だから、雑草抑制のために紙マルチというものを使うが、その資材費も飯尾醸造が出している。
そして、五代目見習いの彰浩君からこの契約栽培米の買い取り価格を聞いて、ものすごくびっくりしてしまった。
魚沼コシヒカリより、ぜんぜん高いじゃん!
これだったら、丹後周辺じゃなくても、全国の生産者が「俺にも作らせろ!」って寄ってくるよ、と言ったところ、彰浩君は持ち前のまじめな顔を崩さず、言うのだ。
「うちは昔から、地元の生産者さんを大事にしたいと思っているので、、、」
うーん 痺れるじゃねーか!
その飯尾醸造が産み出した傑作「富士酢プレミアム」は、JAS規格に定められている領の8倍もの米を使った、ゴージャスリッチなお酢だ。
このお酢については以前も書いたのであまり多言しないが、とにかくこれを使ってみれば、お酢の違いというのがすぐにわかってしまう。900mlで2500円という価格は、大手メーカーの5倍だ。そう聞くと「えええええええ、高い!」という人が多いけど、じゃあ900mlのお酢がどれくらい使えると思っているのか、と訊きたい。一日一日に分けていけば、一回数十円だ。それで享受できる美味しさ、素晴らしさは、大手メーカーの安い酢とはとても比べものにならない。まあ、選択の問題だから、好きな人が買えばいい。けど、一度も試さずに「高いからイヤ」というのは、実に勿体ない話だ。これを味わってみれば、酢というものが旨味の塊であることがイヤと言うほどにわかるはずなのだ。
さて、
今回の飯尾醸造からのレターには、彰浩君が直筆した手紙が印刷されている(直筆の印刷って変な言い方だけど)。
それはこういう内容だ。
不況のあおりを飯尾醸造も受けている。このままだと全量買い取りができなくなるという危惧があり、無農薬コシヒカリを販売するということだ。
こういう、弱みとも思えることを、さらけだして消費者に「相談する」ことができるのが、飯尾醸造の強いところだ。そこには、飯尾醸造のエゴはない。生産者と蔵本、そして消費者の関係性のなかで、なんとか解決できないだろうかという問いかけがあるのだ。
これを支えないで、消費者もくそもない。関心のある方は、ぜひ末尾の飯尾醸造の米販売の部分を見て欲しい。
ちなみに、飯尾醸造では蔵人が総出で棚田を世話し、米を作っている。
下から二枚目の写真は、飯尾社長その人である。
万に一つもないとは思うが、この蔵が傾いたりしたら、日本の消費者の目は節穴だというしかない。
もちろん、僕はこの米を食べた。
もちろん、客観的にみて素晴らしく美味しい米だった!ということを書いておきたい。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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