2008年8月20日 from 出張
ホロホロと崩れそうな白身肉に、グリーンの鮮やかなペーストが添えられている。いったいこれなに?と食べてみてビックリ、肉質は実にホロホロと気持ちよく崩れ、実に味わい濃ゆく、軟骨のバリバリ感も味わえる逸品である。緑のペーストの適度な酸味と強い刺激のある香りは、身肉の独特なクセを押さえてあまりある。
これ、 実はエイの肉である。エイはもともと、死ぬとアンモニアを発生させて腐敗の進行が遅くなるので、内陸ではサメの肉とともに重用されたという。けれどもこのエイは鮮度の佳いものを茹で上げたもののようで、実に上品かつパワフルな味であった。
「これはヤマケンに、うち(竹鶴酒造)の社長から差し入れ。ワシは今日は行けんから、せめてこれを食わせてやってくれって持たせれくれたんだよ」
と、広島空港に迎えに来てくれた石川タツヤンが言う。ありがたいものだ。
竹鶴酒造は広島県竹原市にある伝統ある酒造で、今や純米酒好きで「竹鶴」の名を知らぬものはいない銘酒を産み出している。石川達也は、30代でこの蔵の杜氏に就任した若きホープ、というより、40代半ばにさしかかった今はもう中堅か中核といったほうがいいだろうか。竹鶴と僕の関係は過去ログにあるので、関心のある方はぜひどうぞ(懐かしいなぁ、2004年のエントリだ、、、)。
■広島・竹原に名門酒造あり~ 竹鶴酒造 極秘潜入酒池肉林ルポ的私信 その1
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2004/03/post_181.html
さて今回は出張の前泊で、タツヤンのご自宅へ泊めていただくことに。これもまた2004年3月26日のエントリにあるけれども、4年ぶりになるのか!過去ログみると、俺もタツヤンも、そしてタツヤンの美人奥さんである良枝ちゃんも若いなぁ!
それにしても、久しぶりなのだけれども、石川家の超重要日本酒専用冷蔵庫(でもたまに今日のおかずとかが入る)は、レアな酒で埋め尽くされていた。
「この美和桜っちゅう酒が本当によく頑張っていてねぇ、実にいいんだよ」
ということでいただく。
むうぅ、、、
確かに綺麗な飲み口ながらストロングな酒! 食中酒としてもいいし、酒だけでも最後まで呑みきりたくなるような佳い酒だ。
しかし面白かったのは、タツヤンが「実はねぇ、このところ一番注目してる酒がこれなんだ」と出してくれた酒だ。
これ、なんと大手酒造メーカーの「沢の鶴」の酒である。「山吹色」は酒の色で、白い磁器の猪口に注ぐとたしかに山吹色である。純米酒ファンならいうまでもないだろうが、酒には本来色がつく。これを炭濾過すると綺麗な透明になり、端麗ですっきりした、雑味のない味になる。しかしそれは逆に、酒本来の味である渋みやうま味を除去していることにも繋がる。まあ、好みだけどね。
「山吹色の酒」は、大手メーカーである沢の鶴が極力濾過を抑えて造った商品だ。しかも純米、そして生もと! これは珍しい!そして、、、確かに旨い。実にまともでまじめな酒の味がする。紙パック酒として出ている商品は買う気になれなかったけれども、これはイイ。
「ある会でこの酒の製造担当の人に出会ったときには、嬉しくって激賞しちゃったな。こういう商品が大手さんから出ることで、日本酒好きの幅が拡がればいいよね!!」
とタツヤンは言う。自分の酒が売れることよりも、他人が佳い酒を造る方が嬉しそうな、限りなくいい人なのであった。ちなみに彼が上の写真で着ているTシャツは、北千住の焼鳥「バードコート」のものである。そう、まじめな人はまじめな人を知る。バードコート野島さんとタツヤンもまた友なのである。
さて、エイである。
広島ではエイは茹で上げて蓼酢で食べるそうだ。
「蓼酢がビリビリと辛いかもしれんけど、それがまたエイの肉に合うンよ」
という。 この蓼酢、竹鶴社長が自分で蓼をごりごりとすり鉢で擂って造ってくれたものだそうである。ありがたや、、、社長、ゴチになります。
刺激的な辛さがあるという蓼酢、移動中に揮発してしまったようで、それほどビリビリとは来ない。しかし、これぞ日本のハーブペースト。粗野で高貴な香りがする!酢味噌の味とマッチして、独特の香りがするエイの肉に実によく合うのであった。心づくしの食卓を囲む。タツヤン&良枝ちゃんの二人の息子達も元気いっぱい。いつか彼らも酒造りに関わるのだろうか。 痛飲しながら世はふけていったのであった。
そして翌日。
僕はあの伝説の店に向かった。
そう、これも2004年くらいから読んでる人か、「やまけんの全国出張食い倒れガイド」(4×4マガジン社)を買ってくれた人しかわからないネタだが、、、
広島冷麺の元祖、「新華園」である!
おそらくムックとしては初めてであろう、同店を記事にさせていただいてから、実に初めての訪店だ。がらっと引き戸開けると、おやっさんと奥さんと娘さんが僕をみて
「あらっ 一人で来たの?」
と歓待してくださる。ここの作法通り、まずはカウンターに勝手に腰掛けたりせずにベンチに向かおうとすると、おやっさんが「いいから早うここにきんさい」と目の前のカウンターに通してくださる。素晴らしきご縁に感謝。久しぶりにいただいた冷麺は変わらぬ味。まっとうな作り方、余分なうま味の一切ない切れのよい辛みダレ、時間が経っても美味しい麺、山ほど載せられたキャベツが甘い、素晴らしい冷麺であった。
広島は佳い。9月17日には、消費者向けの畜産に関する講演で再訪します。いまから楽しみだ。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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