2008年4月23日 from 日本の畜産を考える
既報の通り、3月16日に僕の短角牛に、子供が産まれた。初産にして、待望のメスの子だ。二戸市浄法寺支所の短角牛担当・杉澤君に「名前、どうする?」と聴かれていたのだけど、この間ずっと悶々としていた。
何に悶々としていたかというと、この牛は最終的には肉にして食べようと思っているのである。その牛に対して名前をつけるということが、なんとも苦しいのだ。可愛らしい名前、考え抜いた名前をつけることで、余計に「でも食べるんだよなぁ、、、」という現実が迫ってくる。
前にも書いたとおり、メスが産まれたということで、今僕がオーナーになっている牛と同様に、子供を産むための繁殖雌牛として、長く生きてもらうのでもいいじゃないか、と思いそうになったことがある。やっぱりと畜に出したくないのだ。けれども、それでは当初から考えていた、「畜産農家の方々がどのような思いで牛を育て、出荷しているのか」を学ぶことができない。
だから、僕はこの子供を、最終的には肉として出荷し、自分で食べようと思っている。
しかし、、、実際に会ってみて、本当に参ってしまった。可愛いのだ、、、
なんだかもう、本当に参っちゃうくらいに可愛らしい子牛ちゃんなのである。
バンビのような、クリッとした愛らしい目に、綺麗に揃った足がほんとに可愛い。
きちんとおでこにはきれいなつむじが巻かれている。
名前をつけるという行為はとてもつらいことだなぁ、、、と思ってしまった。名前をつけさえしなければ、この子は「牛」なのである。けれども名前をつけてしまったら、モノではなく自分が向き合う対象になってしまうのだ。
ちなみに牛の個体登録においては、名称はひらがなでの登録になる。「さち」とは、この子に幸多かれと思ってそうしたのだけれども、そう思えば思うほどに、肉にするという行為が今から辛い。
これがさちの鼻紋である。指紋と同じように、牛の鼻はすべてユニークで、識別可能なのだ。
今回驚いたのは、母牛の変わりぶりだ。
以前は本当にデリケートな娘で、僕が近づくと、餌を持ってちらちらさせようが何をしようが、全く寄ってきてくれなかった。警戒心が強いのだ。
しかし今回は、そんなことはなかった。とくに人間にすり寄ることはないが、餌の乾草を与えようとすると、手から食べてくれる。子供を産んで、堂々とした感じだ。やはり、人間の世界と同様に、母は強いと思った。
牛は子供への愛情が強い。自分の子以外の子牛がすり寄って乳を飲みに来ても、追い返してしまうそうだ(なかにはその間隙を縫ってちゃっかり別の母の乳を呑む子もいるそうだが)。
この母子は、5月のはじめには、放牧に馴致(じゅんち)させるために牛舎の前の放牧場に出される。外の世界との邂逅である。それで十分に馴れたら、いよいよ「山上げ」。稲庭岳に拡がる大清水牧野の、180haの広大な牧野に放たれるのである。
ところでこの日は、種雄牛センターに寄って、僕の可愛い娘に種をつけやがった雄牛に会いに行った(笑) こいつがその失礼千万な雄である。でもまあ、可愛い子供も産まれたし、許してやろう。居並ぶ雄の中ではなかなか優しい目をしている。短角牛は、本交といって、人工授精ではなくきちんと雄と雌が○○○をして子を産む。
とはいっても大ハーレム状態だ。40頭のメスの群れにオスは一頭。この浮気者め、、、 大清水牧野にはまだ雪が残っていた。5月にはいると、バラ線(有刺鉄線)を上げて牛が逃げないように囲いをつくり、そこに牛を放つ。 牧野には爽やかな風が吹き、発電用の風車が回っていた。ここに短角牛が放たれ、悠々と草をはむ風景を、みんなに見せてあげたいものだ。
そうそう、今回は県との仕事で来ている。今年の9月か10月に、首都圏からこの短角の放牧風景や雑穀の収穫などを観てもらうためのツアーを企画することとなったのだ。別途お知らせするので、心の準備をお願いします。
もちろんそのツアー内では、これまでブログに書いたいろんな処を廻ることとなる。
「つぶっこまんま」の雑穀お膳も食べていただくことになるし、
「短角亭」では、たっぷりここでしか食べられない短角の肉や内臓を食べていただくことができる!
生のギアラ。最高だ!
何枚かは火を入れずに食べてしまったレバー。臭みのたぐいは一切無し。
朝6時56分の新幹線で東京から二戸に行き、午前中は役所で打ち合わせ。つぶっこまんまにて昼食、そして山に上がって子牛に会いに行き、牧野等を廻って短角亭へ。東京行き最終便の20:12の新幹線で帰る。どっぷり浸かれてしまうけれども、一日行程も可能だ。
二戸との本格的な付き合いが始まりそうだ。
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