そろそろ日本の農業を守るということについて、真剣に書いていこうと思う。 世界では、食料の輸出をストップする国がたくさん出てきているということをご存じですか?

2008年3月24日 from 農村の現実

めでたく本も出たので、これまで出版までは封じていた、時事問題とくに農業関連のお話を書き進めていきたいと思う。僕の新しい本のタイトルは「日本の「食」は安すぎる」というものだ。
このタイトルに僕はどういう意味を込めているのか。
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最近、食の安全関連の本がよく見かけられるようになったが、その多くが「どうすれば安全な食品を、、、」とか「○○○はいけない」とかそういう内容であるようだ。それらの本は無意識的に「消費者のために世の中をどうすればいいか」を書いているように感じられる。

しかし、そういうアプローチは世の中を何も変え得ないのではないか、と思う。
つまり、これから必要なのは「消費者どのように変わるべきか」ということなのではないか、と問いたいのだ。

その一番わかりやすいアプローチが「価格」だ。

日本の食品の価格は、実は世界的にみても、安いといえるかどうかはともかく、「高くはない」といえる。よく、諸外国の物価と比較して、日本の食品が高いということが言われるが、年収や家計費との食費の関連でみていくと、実はそれほど「高い」とはいえないはずだ。

それに、ここ10数年の食品価格は明らかに安かったと思う。それは、内外価格差で安く買うことができる輸入食品が原材料になることで実現しえた価格だからだ。その辺は改めて言うまでもないと思う。
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しかし、状況は変わった。

・いままで輸入していた先、つまり輸出国の力が相対的に強くなってきている。
・また、国際的に原油と穀物の価格が上昇している。

これによって、今までのような安い価格では食品を製造販売することができなくなっている。
日本の食品は、原油と輸入穀物にかなり依存している。たとえば日本の畜産は8割以上の飼料を外国に依存しているのである。それら輸入原料が高騰することで、原価が上がっている。
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しかし消費者はこれまでの価格(輸入品ベースで安くなった価格)をゼロと考える。輸入品がたとえば30円上がったとすれば、ゼロ+30円と考えるだろう。けれども実際は、国産コストは輸入品より高いため、ゼロではなくたとえば20円程度の元々のコストがかかっている。これに高騰分を足して50円でようやく元がとれるということになる。しかし、それを理解する消費者がどのくらいいるだろうか。

そうした考え方から、スーパーなども価格をなんとか据え置きにしようと、メーカーや納品業者に対して強いプレッシャー(価格を上げるなという)をかけている。そのプレッシャーに勝てず、もうやっていけないと廃業するメーカー、生産者は非常に多い。日配品、たとえば豆腐や納豆の業界はひどいもので、10年前の業界の顔ぶれが相当に変わってしまったという話だ。

本でも書いているけれども、そんな追い詰められたメーカーや生産者が、まじめに安全な食を作り続けるということを遵守できるだろうか?彼らからすれば、正当な価格を支払ってくれない非情な顧客に、そんな義理を立てる必要があるのか?と思うのではないだろうか。

そう、安全なものを求めることは庶民の権利だ。
でも、安全なものを作る人たちを支えることは庶民の義務なのではないか。

だから、まず「日本の食をなんとかしたい」と思うのであれば、まずは純粋に「価格を上げる」ということころから始めなければならない。それを実行できるのは消費者しかいないのである。
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すくなくとも日本の食を考えるということであれば、ここらへんを出発点とするのが妥当だと思う。そんなことを細かく書いたのが僕の本である。

もちろん、ここへ来て株価の話やら社会格差とかいろんな話が出てきているので、日本という国を総合的に考えなければならない。が、あまりにも一般の空気が「消費者は保護されるべき存在」のままなので、あえて本書をぶつける次第だ。

ちょっと話題を変える。
日本農業新聞という新聞をご存じだろうか?農畜産業の業界では最大の新聞で、実は1月1日からこの紙面で「やまけんの舌好調」という食エッセイを、土曜日を除く毎日連載していたりする。
こんなのだ↓
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まあ僕の連載はどうでもいいのだけど、この日本農業新聞は、食に関心のある人にはもっと読んでいただきたい新聞である。

実を言うと、、、、僕は現在、この新聞しかとっていないのである。そのことを連載担当の方にお話ししたら

「ええっ 業界関係者とはいえ、ヤマケンさんみたいな非農家でうちの新聞しかとってないってひとは、初めてかも、、、」

とびっくりされてしまった(笑)

しかし、実は日本で広範に食に関係する情報を採ろうと思ったら、この新聞は外せないのである。考えて欲しいのだが、加工食品や外食の情報は、日経MJ等の、どちらかといえばマーケティングよりの紙面から情報を得ることができる。しかし、加工食品や外食などの根幹である「素材」「原料」の情報を採ることができるだろうか? 一般紙では現実的に難しいだろう。

もちろん、本当の原料事情は、たとえば米とか麦とか大豆の専門誌(そういうのもあるのだ)をみなければならず、しかもそういうメディアは専門用語に彩られていて、正直いって素人には歯が立たない。その点、日本農業新聞は紙面を見ていただければわかるが、非情に平易に書かれていることが多い。和牛の評価の記事なんかは専門用語びっしりだけど、1ヶ月読み続けていればなんとなくわかってくるものも多い。

それ以上に、記事執筆の視点で、重要なものが多い。
たとえば、現在農業新聞で連載中の特集「食ナショナリズム」は多くの人が読むべき情報だ。
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実は現在、世界で進行しているのは、穀物の輸出国であった国が、自国の食料消費をまかなうために輸出をストップしているという事態だ。少なくとも8カ国が禁輸に踏み切っている。詳しくはリンク先をみていただきたい(本当は紙面を買ってあげて欲しいのですけど)。

それが、当たり前なのだ。
世界的に天候が不安定になり、エタノール燃料にコーンを使われることになり、食べ物が枯渇していくかもしれないという状況で、自国の食料確保を優先するのは、当然のことなのだ。

一方で、多くの日本人が「太陽が明日も昇るように、食べ物もどこからか手に入るさ」と思っている。

しかし、まだ気づいていないようだが、日本はもう「国産が高ければ海外から買えばいい」とは全然言っていられない状態なのである。

こんなことに関する情報を、わざわざ記者を各国に派遣して特集記事として書いている新聞がほかにどれだけあるだろうか(いや、僕が読んでいないだけかもしれないので、すでに取り組んでいる新聞社さん、すみません。)。ということで、農業新聞、お奨めである。

もちろん、日本の経済の根幹を成り立たせている製造業、とくに輸出でその糧を得ている自動車産業などを優先しなければならない事情がある。それを考えないで食をどうしろこうしろというのは無責任であることも承知だ。
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しかし、、、オーストラリアの大干ばつ、米国のコーン需要の増加、荒れ狂う異常気象によって減産が続く諸外国の穀物、そして気温上昇とともに頻発するようになった家畜や作物をおそう伝染病、、、

今後、おそらくいや確実に、世界の食はもっと高くなっていくのである。製造業に頑張ってもらい、お金を稼いでいただく一方で、足下の自国の食状況を改善することに本気で着手しなければならないはずだ。

そして、その改善の方向性について言いたいことがある。

いま、メディアなどで農業などについて「こうすべきだ」と盛んに言われている事柄群がある。
たとえば、

「農業は株式会社組織が中心となってやったほうがいい」とか、
「土地を集約して大規模化した方がいい」とか、
「農協という存在が悪なのだ、もう農協はいらない」とか、
「卸売市場はもういらない、中抜きをして流通の効率化をすればいい」とか、
「農家は儲かってる。車もたくさん持ってるし、、、」とか。

誰でも上記にあげたうちのいくつかは「え、そうなんじゃないの?」って思うだろう。

でも、第一次産業に少しでも身を置いた人なら、「そんなに単純な話じゃないよ!」と思うはずだ。

たとえば「農協組織が悪」だなんておかしい話だ。農協組織の○○がよくない、という話ならわかるが、とにかく農協を潰せば農業がよくなるという論には、「あんた何をもってそういうワケ?」と問わざるを得ない。僕の経験からすると、農協不要という人に限って「なんでそう思うの?」と聴くと、「えーっと、、、」と口ごもって、具体的な問題点を言えないことが多い。

農協が足かせとなって農家の活動や収益が制限されていることはたくさんある。しかし、その逆に農協があることによって農家の経営が成り立っていることも、制限されていることと同じかそれ以上にあるのだ。そうしたことをもっときめ細かく識り、理解するところから始めなければならないのではないだろうか。

しかし今やもっと重大な問題は、先に挙げたようなステレオタイプな農業批判を隠れみのに、もっと重要なことがなおざりにされているということだ。先に挙げた輸出国の禁輸状況もしかり。マスメディアや経済界は意図的に、本質的な問題から的をずらし、国民に間違ったメッセージを送っているいるというのは思いこみ過ぎだろうか。
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今、高齢化が進んで耕作を放棄せざるを得ないような農地を、巧みに間接的に買い集めているような新興企業がけっこう出てきているという。そうしたところに、かなりの銀行などのマネーが注入されているようだ。

こうした状況が、僕は非常に怖い。そんな輩に日本の食料生産を任せてしまっていいんだろうか。
この国は本当に今、岐路に立っている。そしてそのことは、国民に知らされていない。

だから、これから遠慮無く、こういったことについて書いていきたいと思う。食い倒れ的エントリしか読みたくねーヨ!という方には目障りかもしれませんがね。申し訳ありませんね、これは私の個人的メディアなので、書きたいことは書かせてくださいね。

そんな決意表明をしながら、明日は宮崎県の地鶏調査に行って参ります。