宮崎のトマト農家新門夫妻からいただいたのは、水耕栽培にして有機肥料を用いるトマトであった!これは驚き!

2008年2月11日 from


先日の宮崎・鹿児島出張ではかなり重要な人たちに出会ったのだけれども、その中でも僕の驚きを促進させてくれたのが、宮崎県北でトマト農家を営む新門(しんかど)夫妻だ。

実は1年ほど前に、僕の友人の生産者からの紹介ということで一度メールをいただき、そのトマトを送っていただいたことがある。その時いただいたトマトは、現在のトレンドである高糖度トマトだった。名の通った農法を実践して生産したそのトマトは高品質なものだったけれども、「うん、けっこうあるある」という感じで、琴線に触れるところまではいかなかった。

その新門さんが、「やまけんさんいらっしゃるなら観にいきますよ!」と、講演に来てくださったのだ。この日、一次会は先に書いたような会だったので、二次会に合流していただくということになった。

その席上でも様々な話を伺った。

「○○農法は辞めました。高額な生産費がかかりますし、販売ルートも安定しません。それよりも、消費者が買いやすい価格で十分に美味しいというラインをやっていくのが自分の道だと思ったんです」

という彼の栽培するトマトは、水耕栽培のものとしてはかなり高品質のものといえるすばらしいものだった。
ちなみに水耕栽培とは、土を用いず、ロックウールなどを培地にして育てる栽培方法だ。水槽内に養液を流すことで肥料養分を摂取して育つ。土を用いると、同じ作物を続けて栽培すると連作障害というのが発生する。様々な要因があるが、同じものを造ると連続して土壌から一定の養分が吸い取られ、また菌類の増殖のバランスも崩れることで発生すると考えられている。しかし水耕栽培ではこの連作障害の心配がない。ハウス内で機械制御するため、設備投資の初期コストはかかるけれども、環境をコントロールすることが出来て、収支の見通しも立ちやすいので、最近よくある農業への新規参入時にはこれを採用するケースが多い。

しかし、失敗するケースも多い。設備投資がかさむから資金繰りに困る生産者も居るし、また期待通りのパフォーマンス(収穫)が得られない場合も多い。しかしなにより一番水耕栽培で問題だと思うことがある。もちろんそれは僕の個人的な意見なのだが、、、水耕栽培品で美味しいモノには滅多に出会うことがないのだ。

たとえば水耕ホウレンソウはよく「無農薬のサラダホウレンソウ」というようなキャッチフレーズで出回っているが、たいがい美味しくない。トマトについても、糖度を高めるという目標には到達しやすいと思うけれども、味が薄っぺらいモノが多い。糖度だけが高く、酸味とうま味が足りない。結果的に奥行きのある味にならないのである。なんでそうかというと、これも個人的な見解だけども、使っている養液肥料が化学肥料だからではないかと思う。

こんなことを書くと、いろんなところから「何いってんだ!」とおしかりを受けるだろうが、、、
化学肥料を使うのと、有機質肥料といわれるものを使うのとでは、安全性とかそんなことではなくて味に大きな差が出ると、僕は経験的に感じている。

最近、ちまたで「有機農業」に対してネガティブなことを言う人が多い。いわく、「有機農業だからって安全とはいえない」とか、「有機農業は環境汚染の原因になる」などなど。これらについてはいずれキッチリと書きたいと思うけど、意味のない議論だ。それより何より重要なのは、有機農産物が「安全・安心なもの」としてしかとらえられていない現状が口惜しい。

僕からすれば、100%有機質肥料で栽培するんだから、慣行品(化学肥料を用いたもの)よりも旨い可能性が高いということができるのが、有機農産物だと思うのである。

これに反対する人たちが良く言う言葉が、

「植物は土中にある窒素やリン酸・カリなどを無機物として吸収する。有機肥料を用いたって、微生物などに分解されて無機物になってからから吸収されるから、味に影響があるわけがない」

ということだ。しかし、最近の研究では、作物によってはアミノ酸やタンパク質の状態で直接吸収することができるということがわかりつつある(←ということだ。この辺は僕も聞きかじりなのだが)。つまり無機肥料を与えるのとは違う効果があるといえる素地ができてきている。

だいたい、現代科学は土中にある成分のすべてのはたらきを解明しているわけではない。その科学が作り出した不完全な肥料よりも、有機肥料の方が、未知の有効成分が含まれているのかもしれないではないか。

そういうことで、僕は安全性などではなく、味の観点から有機農業を支持するのである

ちなみに、有機農業には「堆肥などから流出する窒素が環境を汚染する」とか「硝酸態窒素がたまりやすく人体に害がある」などという批判があるという先述の件については、そんなの化学農法でも同じだろ?という反論をしたい。有機肥料であろうと化学肥料であろうと、過剰施肥すれば自然環境を汚染し、植物体に硝酸態の窒素として残留することは同じである。つまり、有機農業でそういうことが起こる場合は生産者の技術不足であり、そこが改善されれば問題にはならないのである。有機農業を全否定する根拠には全くならない。

話がだいぶずれてしまったが、この夜、新門さんからおもしろい話を聞いたのだ。

「実は、水耕栽培で使う養液肥料に、100%有機のものを使える技術があるんですよ。それにいま、チャレンジしてます。まだまだ生産は安定しないんですが、今度送りますね」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおお
それは非常におもしろい!

実は、有機農業は土耕栽培でなければならないという原則があるので、水耕栽培で養液成分を有機肥料にしても有機栽培とはならない。けれども、そんなことはどっちでもよくて、その味がどんなものか知りたい!

そしてそのトマトが届いたのである。

品種はタキイのヒット品種である桃太郎ヨーク。
それを、かつお煮汁とカキガラ、草木灰、石灰で栽培したものだという。

ごらんの通り、レンズキャップとくらべても二回りほど大きい。何が言いたいかというと、大玉なのである。食味を考えると、大玉にするよりも中玉程度で獲ることが多い。大玉にはなりにくいし、なったとしても味がぼけることが多いのだ。

しかし!
びっくりした、、、このトマト、すんげえ旨いのである。
何が美味しいかというと、糖度と酸度のバランスがとれていて、そのうえ旨味成分が非常に複雑なのだ。まさに、僕がいままで水耕トマトに抱いていた「薄っぺらい味だなぁ」というのが払拭された味だったのだ。これにはびっくりした。

大玉にもかかわらず、甘さを示す筋が先端に走っている。が、甘さを追求しているわけでもない。それより重要なのは旨味なのである。食べた後に余韻が残る複雑なアミノ酸が生成されている。


それにしてもおもしろいのは、その有機養液の栽培法だろう。
僕はてっきり、有機100%の養液資材が販売されているのかと思ったのだ。しかし、使っているのはカツオ煮汁とかカキガラなどだという。

「まさかそれを生で入れませんよね?」

「いえ、生でいれるんです」

マジ? そうすると、有機物が水中で腐敗発酵するなどして、肝心の根を傷めてしまうのではないか。

「いやいや、そうならないように、土耕栽培でいう「土作り」のように「水つくり」をするんですよ。水槽内に菌層を培養して、発酵させながら植物体に吸収させるんです」

↑上記は、興奮しながらの会話(電話ね)だったので間違いがあるかもしれないのだけど、そういう趣旨の内容だった。実に実におもしろい!

ちなみにこの技術は野菜茶業研究所の研究として公開されているものだそうだ。

■並行複式無機化法と有機質肥料を使ったトマト養液栽培
http://narc.naro.affrc.go.jp/chousei/shiryou/kankou/seika/kanto18/11/18_11_13.html

■有機肥料による養液栽培技術の開発
http://vegetea.naro.affrc.go.jp/joho/20060118youeki/youekisaibai.html

ここでは、「養液中の微生物によって有機物を無機化し、吸収させる」ということを主眼にしているので、先に僕が感じていることとして書いた「無機化していない状態の物質を吸収する」ということは全く関わりなさそうだけれども、結果としてこれだけ今までの水耕ものより旨いトマトを食べたら、そこの部分の関わりについて考えざるを得ない。いやーまったく驚いた。

何にしろ、この方法で栽培したトマトは旨い。もちろんまだこれから先がある旨さ(つまりもっと伸びしろがある)だが、現時点でも水耕品とは考えがたい味である。もちろんこの栽培方法にはまだ問題もあって、端的に言えば十分な収穫量を得られぬままに終わってしまうことが多いそうだ。しかしそれにしても福音だと思う。

新門さんのトマトは、宮崎県内外のレストランに採用されているそうだ。この有機質養液トマトが安定生産できるようになったら、もっとおもしろいことになるだろう。ちなみに新門さん(夫)は筋金入りのサーファーである。サーフィンしながらやれる職業を探して農業に行き着いたという。サーフィン天国である種子島に家を求め、そこに渡る前にちょっと立ち寄った宮崎にて、ある農家と知り合いになって居着いてしまったという、なかなかにおもしろい人生を送っている。

新門さん、これからもこのトマトの栽培技術の行方を楽しみにしています。ごちそうさまでした!