2007年10月30日 from 食材
※記事完成しました!
三回目となった、「料理人のための食材研究会」、今回はジャガイモ特集である。
10種のジャガイモを準備したが、その中にまだ世の中には出回っていない新品種が4種類もあるという、超・ゴージャスというか、ここで食べて入手したいと思っても、まだ増産される数年後まで待たないと行けないというお預け状態で逆にツライとか、いろいろな考え方があるけれども、強烈な会になったと思う!
今回食べたのは下記の10品種。
ホッカイコガネ
こがね丸
はるか
サヤカ
シンシア
シェリー
コロール
インカのめざめ (新芋、一年貯蔵芋)
ノーザンルビー(新芋、一年貯蔵芋)
シャドークイーン(新芋、一年貯蔵芋)
このうち、
こがね丸、ノーザンルビー、シャドークイーンの三種は昨年発表されたばかりのもので、今年は種芋生産をしている段階。今年度の種芋は、まだ種芋の増殖に使われるため、一般で入手可能になるのは再来年くらいとなる。
そして、北海94号という系統番号で表されていた品種はさきごろ「はるか」という名前がめでたくついて、正式な登録品種となった。これなんぞは、来年から種芋生産に着手するため、3年後まではよほどのことがない限り手に入らない。
なんでそんな品種を入手できたかといえば、先日書いた、北海道農業研究センターの森先生のおかげだ。同センターには全面的に協力していただいた。むろん、この会の参加者が実際に食べた上での評価情報はすべて先生方にもお伝えしようと思う。
今回は10種類について、蒸かした芋と丸ごと一つ、ドンとお渡しした。卓上にはバター、塩、マヨネーズをおいておき、参加者は好きな食べ方で試すことができる。また、暖かい芋と冷えた芋との違いも味わいわけられていた。
もう一つの食べ方はフライドポテト。
すべて当日の朝に一度揚げしておき、供するまえに高温で2度揚げしたものだ。
さすが、エコール辻の日本料理課の先生方の采配、すべての試食用の芋がすっすっと出てくる。
■ホッカイコガネ
トヨシロと北海51号を交配させた品種で、1982年に登録された。
姿形は大粒・長卵形。
でん粉価は17程度で、煮崩れ度は低い。粘質系の肉質である。
調理時に変色がきわめて少なく、冷凍フレンチフライなどの加工用途に最適である。
肉質はやや粘質。メークインと比べ、煮崩れが少ないため、煮物やレトルト加工にも適している。
メークインのように大きく長い姿形のため、一部では「黄金メーク」「コスモメーク」という商品名で販売されているところもある。
■はるか
これが期待の新品種「はるか」だ。ごらんの通り目の部分(芽といわず目と書くそうだ)が赤いのが特徴。
皮が白く、芽の回りが赤くなるのが特徴。芽が浅いため皮がむきやすく、皮むき後の褐変も少ない。
姿形は倒卵形で、男爵よりも大粒。
でん粉価は16程度で、男爵よりも少し少ない程度。肉質はやや粘質で、煮崩れ度合いは少なく、水煮適性は男爵より優れる。
調理適性があり、さやかと同程度にサラダ用途に適している。コロッケ加工適性も有しているなど、汎用性に優れている。ただし、貯蔵により糖が非常に増加するため、調理時に注意が必要である。
最後の行にあるように、4℃前後で長期貯蔵しておくと、おそらくショ糖が増加し、実に甘くなる品種なのだ。参加者からもかなりの好評。メークインに取って代わる品種になるのではないかという予感がした。
■インカのめざめ
近年有名になってきたインカのめざめ、今年は堀立ての芋と貯蔵芋の二種をテイスティングだ。
通常のジャガイモは4倍体品種だが、本品種はアンデス地域の2倍体在来種とアメリカ品種を交配して選抜した品種である。原産地アンデスでは2倍体種が独特の風味と食味で人気が高い。その血を引いた本品種は栗やナッツのような風味を誇る。
インカのめざめはキタアカリの3倍のカロテノイドを含む橙黄色品種である。またタンパク質含量も男爵を遙かに超える。
細胞サイズがきわめて小さく、でん粉価は18と高いが煮崩れにくく、滑らかな食感である。
姿形は非常に小さく、卵形である。
食味に優れる反面、栽培は非常に技術を要する。また、収穫後の休眠期間が非常に短く(10日程度)、すぐに芽が出てしまう。
左が新芋、右が一年貯蔵芋だ。色も全く違うのがおわかりだろう。
貯蔵芋は驚異的に甘くおいしい。料理する余地がないくらいだ。これは、通常のジャガイモではなく、ショ糖増加型の芋だからで、ほかの通常品種を長期保存してもこんなには甘くならない。インカのめざめとその近縁種でなければ出てこない性質なのである。
当然参加者からは驚嘆の声が寄せられた!
「な、なんですかこの甘さは!」
と皆びっくり。
でもね、本当はこれに加えて、さらに2年貯蔵ものも食べさせたかった。残念ながら2年ものはもう払底してしまっていたのだ。
今回、専門家である北海道農業研究センターの森先生に教えていただいたのだが、インカのめざめを貯蔵すると甘くなるというメカニズムがよーくわかった。
通常のジャガイモも、大なり小なり、低温貯蔵(4℃が理想的な気温)で長期保存をすると糖分が増えることがわかっている。しかしここで増加するのは還元糖であり、いわば老化して甘くなるという表現にできるようなものだそうだ。
対してインカのめざめは、これら通常のジャガイモとは学名も違う全く違う品種であり(二倍体品種である)、特徴としては低温貯蔵するとショ糖の含有量が上がっていくのである。ショ糖は還元糖にくらべダイレクトに甘さを感じる特性があるため、やたらと甘い印象が強くなるということだ。
なお、デンプンが糖化していく量が大きくなるにつれて、芋自体のテクスチャはねっとりとしてくる。本来もっている粉質系の特性が変わることを念頭に置いた方がいい。つまり甘くなればなるほどねっとりしてくるので、どの辺の度合いを期待するかあらかじめ考えた上で調理する必要があるように思う。
■こがね丸
これが僕の一押し品種である。
こがね丸は、あのフライドポテト用の名品種「とかちこがね」の子供である。ほくほく美味しく、冷めてもおいしいというとかちこがねの特性を受け継ぎつつ、栽培しやすくなっている。
「こがね丸」は、多収・低グリコアルカロイドの「ムサマル」を母、調理加工適性全般に優れる「十勝こがね」を父とするジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種間の交配集団から育成され、フライ加工に適する。
大きさはホッカイコガネより短い。
でん粉価は19程度で高く、煮崩れ度合いは中。粘質と粉質の中間的な肉質である。
フライドポテトの適性が非常に高く、肉質は「ホッカイコガネ」よりやや粉質の中である
。冷めても美味しい特性を持つ。
光によるグリコアルカロイド(えぐみ)の増加が少ない。
ちなみに「こがね丸」の名付け親は、先日のエントリにもでてきた岡田君らしい。
この品種、昨年発表だから、再来年まで待たないと市場には出回らないが、業務用需要のみではなく、一般消費者にも食べてもらいたい品種だ。とにかく、実に実に美味しい品種なのである!
■コロール
ジャパンポテトが取り扱う、フランスのジェルミコパ社で育種開発をした品種。
収穫直後から甘味が強く、食味に優れている。肌艶も良く、見た目に優れる。
でん粉価が上がるとホクホクするが、基本的には粘質系。
内部に異常が発生しやすいため、栽培できる産地が限られる
■ノーザンルビー
これも昨年発表の新品種だ。
紫肉品種「キタムラサキ」の開放受粉種子より選抜された。
切断面全体が赤色で色むらが無くアントシアニン色素(主要成分:ペラニン)の含量は2mg/g程度である。このため、綺麗な赤色の果肉と、アントシアンによる健康増進という付加価値を訴求することができる。
でん粉価は16程度。煮崩れ度合いは中。
調理用(水煮、チップ等)の特性を持つ。
■さやか
業務用のポテトサラダに使用されているのは、実はほぼこの品種である。純白の果肉、淡泊な味わいが、マヨネーズ等の調味料と合わせると引き立つのだ。
楕円形で形のよいイギリス品種PentlandDellと、害虫抵抗性の強いR392-50 の交配品種。多収性に富む。
大粒で揃いがよく、姿形は卵形。芽が浅いため、皮むき後の歩留まりが高い。貯蔵性に優れ、緑化しにくい。
でん粉価は16程度。煮崩れ度合いは中。粘質と粉質の中間的な肉質である。
皮むき後の褐変、調理後の黒変は非常に少ない。
クセのない味で白い果肉なので、ポテトサラダ等への適性が高い。
光によるグリコアルカロイド(えぐみ)の増加が少ない。
■シャドークイーン
これもノーザンルビーとおなじ昨年度品種。
なんと親はノーザンルビーと全く同じなのだが、全然違う肉質。今回、色物的な取り上げ方をしたのだけど、なかなか旨い品種であった。
ノーザンルビーと同じく、紫肉品種「キタムラサキ」の開放受粉種子より選抜された。
「キタムラサキ」および「インカパープル」より濃い紫肉をしており、アントシアニン色素(主要成分:ペタニン)は約3倍に相当する。
でん粉価は19前後でやや高いが、果肉は粘質系である。
用途は調理用で、他の紫色系品種である「キタムラサキ」および「インカパープル」に比べ食味が良く、チップとフライの変色も少ない。
■シェリー
フランスのジェルミコパ社で育種開発をした品種。
赤皮で艶があり、見た目がキレイ。
食味が良く、糖が増えやすい。
でん粉価は低く、粘質系で煮崩れしにくい。
休眠が長く、シワになりにくいため、長期貯蔵に最適。
ポテトグリコアルカロイドが増えやすいので、光に当たらないように管理する。
読んでて疲れたろうけど、
参加者はこれら10品種を全部蒸し、揚げで食べたのである!
最後は芋はもうみたくない!という感じだったはずだ。
しかし参加してくださった方々は一様に「おもしろい」を連発。
たしかにジャガイモはなす、大根にくらべると特性の違いがわかりやすいんだな、と思った。
恒例のエコール辻の日本料理課の先生方による創作ジャガイモ料理。
ヴィシソワーズ風に仕上げた二種のジャガイモすり流し。
写真ではわからないが二層になっていて、上がインカのめざめ新芋、下がはるかという組み合わせ。コンソメではなく出汁でのばして和風に仕上げたもので、思ったよりも二種の芋の風味の違いが際だっておもしろい料理となった。
こちらはノーザンルビーを麺状にしての酢の物。
千切りにした後、糖で処理をしてからタスマニアマスタードと二杯酢で味付けをし、湯葉揚げの上に乗せてある。これが実に絶品で美味しかった!生のジャガイモをこうやって食べるのをよく見かけるが、これほどおいしいのは初めてだ。まさに辻グループ校の面目躍如の瞬間であった!
というわけで
すさまじくジャガイモ摂取量の上がった週末であった、、、
皆様お疲れ様でした。
次回、1月にはネギの食べ比べをすることになっている。関心のある方はぜひご参加いただきたい!
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