やっぱり旨い。 質実剛健、お得感満載の四川料理 「古月」新宿御苑店の夜

2007年5月 1日 from 首都圏


辻調理学校の小山先生に教えていただいた「古月」。その時は本店ではなく新宿御苑店にお邪魔したわけだが、この御苑店が隠れ家的スポットで、週に一回新宿にヨガに通っている僕のランチスポットになりつつある。1500円のランチコースは5種類のおかずから2種を選ぶことができるのだが、これが実に素晴らしい技ものばかり。2人以上でいけばおかずをシェアできるのでお奨めである。

しかし最近、悲しいのだ。代々木の方にある教室からテクテクと歩き、甲州街道で新宿駅を超えて御苑の入り口を観ながら店の前に辿り着くと、「本日はご予約で満席となっております」という張り紙が、、、こんなのがここ二回連続であったのだ。汗だくの20分が無駄になった、、、仕方が無く、新宿三丁目付近にある中華の有名店に行き、2500円のコースを頼んだりするのだが、あきらかに古月の1500円ランチの方が美味しいのである。

仕方がないので、夜の席を予約。GW中というのに1日は満席とのことで、月曜日夜という最も空いていそうな日にする。

この店、夜の通常のコースも非常にリーズナブルである。

中国伝統家庭料理コース・4,800円
中国八大珍味コース・7,800円
季節のおすすめコース・8,000円

しかし、どうせ行くならすげーの食べたいなぁ、と思い、電話にて「もうね、お金、いくらになってもイイから美味しくてスゴイの食べさせて!」とお願いする。言ってて自分でもひゃぁ豪気だなぁと思ったが、良心的な店ならおそらく一番高いコースの二倍前後で収めてくるはずである。ここはもう腕を振るっていただきたいのでそんなお金持ち的なお願いをしてしまった。

僕らが入る前にご年配の一組がテーブルに着いていたが、程なくして帰られ、僕と嫁さんの2人だけ貸し切り状態になる。

「んん? 今日は俺たちだけなの?」

「いえ、団体さんがいらっしゃるはずなんですけど、、、来ませんね」

みると中央のテーブルにちゃんと5人程度のセッティングができているにもかかわらず、来ないという。予約をしておいて来ない客というのは店にたいして失礼千万だと思うが、なんなのだろうかなぁ。

厨房をのぞき込むと加藤料理長が「もうね、ヤマケンさんに何だそうか悩みましたよ!でもおそらく食べたこと無いものを出せると思いますよ!足りなかったらマーラー豆腐でも作りますから!」と笑ってくれる。楽しみだね~!

ということで始まったスペシャルコースである。

■前菜 クラゲの頭の和え物、野菜の甘酢漬け、薄焼き卵のナッツ、野菜巻き、厚切りのチャーシュー、レバーの燻製と揚げ餅、自家製腸詰め

この、クラゲの頭が絶品だった。

細切りのクラゲの食感が丸々としたゼリー状の頭部全域で楽しむことが出来るのだ。コルルルルリッという得も言われぬ歯応えを愉しんだ。

写真左のレバー燻製は、揚げた餅の上に乗っている。その揚げ餅が、あたかも山形県白鷹町のまあどんんな会の名物おやつ「凍み餅」にそっくりだった。これは、餅を厳寒期に外で干し、凍結と脱水を繰り返すことでスポンジみたいな高野豆腐状になったものを揚げて甘辛いタレにくぐらせたものだ。サリッという柔らかな食感と、中に染みていたタレと油が浸みだして美味しいのだが、それにそっくり。豚の燻製も臭みナシ、美味しい前菜。

それと厚めのチャーシューというか豚の焼き物が実に美味しい。表面に蜂蜜が塗られているようで甘さが残るのがまたイイ。中華腸詰めは、これまた僕の好物。この前菜をもう一盛り食べたいところだが、我慢。

さて次がいきなりビックリ料理である!

「これはあまり食べたことがある人、いないと思いますよぉ、、、」

とホールの前田さんが言いながら運んできたのは、綺麗に切りそろえられたキュウリの城の内に盛り込まれた炒め物。外側にピンクペッパー。

なんの変哲もない野菜炒めに見えるけどなぁ、、、
しかし、タケノコやピーマンの間になにやら白く細長いものがちらちらと入っている。これは一体何なんだろうか、、、

「これは、ラクダのこぶと野菜の炒め物です!」

えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

ラクダのこぶ!?


これが!?
口に運ぶと、ほのかなプチンという歯触りの後、スッと溶けてしまう。
これ、ごくごく上質な脂である。

「そうなんです、らくだのこぶって脂なんですよ。チルドで入手できるんですが、これを炒めてみました。熱いうちじゃないと意味がない食べ物ですので、ささっと食べてしまってくださいね」


いやぁ これはなんとも しょっちゅうは食べられないシロモノである。結論からいうととても美味しい!豚の背脂のようなギトギトしたものではない。変な話し、実に油っぽくない脂なのである。脂の融点なんかも他の家畜とは全然違うんだろう、ラクダというと臭みがないのか?と思うのにまったく臭さがない。上品な動物性油脂を含んだ、ごく柔らかなヤシの実のような食感。いやそれとも違う。とにかく形容しがたい空の上のような味である。

オープンキッチンではないけど、厨房の中がよく見える店なので、わっせわっせと次の皿の準備をしている姿がよく見える。お、くるな!と期待に胸が躍る瞬間である。

そして来たのが、ハトである!

「ハトの燻製になります。添えてあるのは楠(クス)の葉なんですが、これで燻しました。本来の四川では合鴨を使う料理なんですが、いいハトが手に入りましたので、、、」

上に乗っていたもも肉の部分をひっくり返すと、赤みの残った中から肉汁が滲みだして細かい脂の粒がきらきらしている。一羽分丸ごとを燻製にしたものを、中華鍋で油を回しがけながらパリッと揚げて切り分けたのだろう。

可愛らしいハトのももにかぶりつくと、柔らかく火の通った肉と、ほとばしる肉汁から非常に上品な燻煙香を感じた。桜のチップなどの強力な香りではなく、非常に地味に綺麗な香りだ。それより何より、燻製にかける前に、塩分濃度の濃いピックル液に漬けていたのだと思うけど、ハトの血の香りとは違う不思議な香りがした。

「これ、普通のピックル液に漬けたの?」

「いえ、中国の技法なんですが、ウーロン茶をとても濃く煮出して、そこに香辛料をいれ、塩分を強くして漬け込んでいます。」

ウーロン茶か!
なるほど 発酵茶の成分とタンニンなどのポリフェノール類が肉の臭みを消して旨みに消化させているんだろう。濃く出した茶につけ込み、クスの葉で燻製、、、それを聴いただけでなんとなくこのハトの肉が上質に感じられてくる。美しい技法ではないか!

胸肉の部分もとても綺麗に熱が廻っている。野生ハトだからだろうか、胸肉も退屈な味ではなく、たっぷりした肉汁と綺麗に揃った筋肉繊維の歯触りを楽しむことが出来た。

ちなみに付け合わせに出ているのはインゲン豆と挽肉、干しエビとオリーブの炒め物だ。これも中国料理で、イタリアのオリーブとは別種のもので、中国オリーブを使うものらしい。これ、とても中国家庭料理ぽくて美味しい。その中国オリーブを使ったものが食べたい、、、

■鮫の皮、アワビ、魚の浮き袋のサンラータン

いや~ 中華美味食材てんこ盛りである。

鮫の皮の「ザリッ」としていながら柔らかい食感と、魚の浮き袋の、ゼラチンのようにとろけそうでいて、柔らかい上等なキクラゲのような歯応えのある食感が堪らないが、この料理で旨いのは白湯である。
この店の湯は非常にまじめに美味しい!
余分な味、無し。しっかりととられたスープはそれだけで旨い。これに胡椒と黒酢をかけ回してサンラーにしていただく。

アワビは干しアワビではなくて生。ヤワヤワとした絶妙な食感を味わえたが、どれくらい煮込んで居るんだろう、、、?フレッシュ感がありながらヤワッと官能的な食感だった。

■春餅の卵と野菜包み

息抜きになる感じの、上品な春餅。

フワッと加熱された卵と野菜を甜麺醤で甘辛く食べる。

ダックとか肉が入っていないのが、逆に爽やかで一息つくことができた。

さてメインは二品である!

■スッポンのオイスターソース煮

ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

スッポンがデカイ!

白飯が食いたいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

と猛烈に逆上して白飯にかけていただく!

スッポンのゼラチン質がトロトロで、スッポンの旨みが全て出きった汁がオイスターソースでコックリととろみが付けてある。遠慮無く白飯にかけて餡とスッポンの肉を喰らう。

瞬間的にトロトロと溶け出すスッポン、そして身肉から強い旨みが流出し、オイスターソースとニンニクの風味が鼻の香り感覚器官を連続的に突き刺す!

ぐぁああああああああああああ
こいつぁ旨い!
これで2杯白飯を食べました。

■魚(ハタ)の蒸し物 高菜と中国ベーコン炒めのあんかけ

ハタという高級魚を蒸すのだ、きっとあっさりと葱だけで蒸してくるだろうと思ったら、これまた中国の家庭料理のような高菜とベーコンの炒め物を載せてきた。

ちなみにさっきから家庭料理と言っているのは、プロっぽくないと言っているわけではなくて、この店ではあえてやっているんだろうけど、こういう家庭料理風の地味なしつらえで、その実はもの凄い内容のものを作ってくるといいたいのです。

実際このハタの蒸し物、よく醗酵した高菜漬けの酸味と、ベーコンの燻煙香という癖のある組み合わせが乗っていることで、上品かつ繊細なハタの肉が、通常の清蒸とは別物の味になっていた。まあ、ハタは旨い魚なので、あえてこういう作りにしなくても楽しめたと思うのだけども、けれども料理長の狙いはよーくわかった気がする。通常の清蒸ならば、どこでも美味しいのが食べられるわけだから。あえて古月の御苑店で食べるならば、こうしたアレンジが愉しいわけだ。

「一応これでひととおりになりますが、、、足りなければマーラー豆腐でもお作りしますが、、、」

「いやもうぜひぜひ!マーラー豆腐お願い!」

ちなみにマーラー豆腐はマーボー豆腐と同じである。料理長は四川料理をメインに修行してきているので、この店のマーラー豆腐、絶品である。

土鍋にフツフツと沸き立つマーラー豆腐。
巨匠マーラーの交響曲第2番「復活」の大胆不敵な出だしの音楽が聞こえてくるようではないか!!

当然ながら花椒がタップリ使われている。

「手加減無しの本場四川並のマーラーをお作りしましたよ!」

というが、僕にはまだ花椒が足りないので卓上でバリバリと挽いてかける。

マーラー豆腐はやっぱりご飯にかけて油まみれになって食べるのが吉!
舌にビリッとくる感覚と、舌の中程から根本までになんともいえない痺れ感(これぞ”麻”だ!)が走ってジーンとする。

ご飯、さらに2杯食べました。
ちなみにこの店のマーラー豆腐はきっちりと豆腐を煮込んでいる。

豆腐を割ると程よく脱水され、周辺部に汁が浸透しているのがわかるのである。
麻婆豆腐にもいろんな造り方があるが、ここのも旨い。ああ、書いていてまた食べたくなるほどに旨かった。

デザートはタピオカ、豆、白キクラゲ、ゼリー、マンゴームース、バジルシードの甘味。

いやー
堪能しました。

オプションのマーラー豆腐までつけてもらって一人14000円程度。これだけ圧倒感を味わったのだから安い。それにしても通常コースで8000円の上限だから、この店は出てくる料理の内実に比べてホントに安いと思う。

「いやー旨かったッス!」

と伝えると、加藤料理長、紅一点の本田さんがニマっと笑う。

「いやー 今回はメニューがなかなか決まらなくて、、、昨日試作したんですけど失敗したりしましたよ。今日は心臓バクバクしてました」

え、試作までしてたの?モウシワケナシ、、、これからは通常コースで頼んでご負担を減らしますね。

最後まで見送っていただき、気持ちの良い夜を締めることができた。

古月 新宿御苑店は、「ガツン!」とした定番の中華、酢豚とかエビチリとかを愉しみたい向きにはあまりお奨めしない。

そうではなくて、一見は地味(「地の味」という意味である)で、ひねりがきいていて、その裏にはきっちり手を入れられ綿密に仕事を施された味が横たわっている。そうしたものを食べてみたいという好奇心のある人に向いた店だと思う。最近の様子をみているときちんと予約していくのが吉。

今度は本田さんが修行してこられた点心を食べてみたいです。ごちそうさまでした!

■古月 新宿御苑店
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