ミズとみずとアマユリ来る!

2007年5月27日 from


山形県朝日町の阿部さんから、今年も嬉しい連絡が来た。

「やまけんちゃん、明後日は家でメシ食う?
明日の早朝か夕方にでも山に入ろうかと思ってサ(目星はつけていくけど、博打みたいなものだから当てにはならないけど…)
山のものがいつもの年より早めでサー
一昨日見たらアマユリがねー(正式名称は、オオナルコユリでしたかー)、、、」

おおおお! アマユリ!

アマユリとは、文字通り野に咲くユリの仲間であり、球根ではなくその茎と花があまりに甘美に美味しい、素晴らしい山野草である。まだ読んでない方はこちらをご参照。

■2006年06月04日
アイラブ ユリ科植物! ギョウジャニンニク、アスパラガス、アマユリの饗宴 その2
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2006/06/amayuri.html

■2006年06月20日
可憐なアマユリの花を食べて、罪悪感と恍惚と感動を味わってしまった!
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2006/06/post_824.html


まったくもう、この阿部さんのご自宅というのが、朝日町の山間部にある、誰でも一瞬で郷愁を感じざるを得ない家なのである。昨年の5月、木々が萌出て、田に水が入る一番美しい季節に行って、その風景にノックアウトされてしまったのである。

さて届いたアマユリは、阿部さんが山で採ってきてくれた野生のものと、球根を庭に植え替えて数年目になるものの双方だ。

ユリ科植物は本当に美味しい。このアマユリはタマネギやニンニクではなくアスパラガスによく似ている。特に食感が似ているのだけど、でも見た目は本当にユリである。実際に花が咲くとこれもまた、どうみてもユリなのである。

アマユリの茎部。アスパラ同様、下部は多少硬くなりがちだ。

調理法は簡単、とにかく茹でるだけ、、、
塩を少し落とした湯でさっと火を通し、マヨネーズで食べるだけで十分に旨い。いや、十二分に旨い!
茎の部分はシャクッと、アスパラを少し強くした食感。しかし、ほとばしり出る汁は明らかに甘い!そして、ほんの少しとろみがあって、ツーと糸を引く。もう、極楽の美味しさなのだ。


で、このアマユリに加えて、東北地方限定山菜であるミズも送ってくれたのだ。

ミズは、これも山にはいると沢山生えている山菜で、赤ミズと青ミズがある。写真のはおそらく赤ミズだと思う。

週刊アスキーの連載「旅三昧」の取材で阿部家に遊びに行った際、このミズをつかった「ミズのタタキ」を教わったのである。先生は阿部さんのお母様。

ミズは、葉を取って茎の部分を使う。葉を取るときに、皮も一緒に剥ける。皮を剥くことが結構大事である。

洗ったミズをまな板の上ですりこぎで叩く!
ここで特有のとろみが出てくる。
ミズは湯通しするといきなり蛍光色のような緑色になるのだけど、阿部家では生の方が美味しい、ということで生のまま叩くのであった。

それを醤油と酢、砂糖、鰹節を加えて和えるだけでできあがり。
これが実に実に、地味深く美味しいのである。ミズがもっている糸引くトロみと、透明感あふれる風味が相まって、暑くて食欲のない時でも箸が進むのである。

そして、もうひとつ「みず」が入っていた。
といっても、こちらの「みず」は「水」である!

これ、阿部家の自宅前の「庵の井戸」で汲んだものだ。
つまり、アマユリと赤ミズが育った山の伏流水なのである!

阿部家の井戸の水はキンキンに冷たく、ここでパインソーダを冷やしていたのだ。
その際に手で水をとって飲んだときには、あまりに冷たくてその味の素性がよくわからなかった。
しかし今回、この水を飲んでみて、本当にびっくりした、、、

なんと透明感溢れる柔らかな水!
秋田県の銘酒「白滝」の酒造で呑んだ水も甘く柔らかかったが、この阿部家の水は別種の味ながら、舌の上で水の粒子がほろほろと崩れていくように柔らかい!

僕の家では数年前からシーガルフォーの浄水器を使っているけど、元となる水の違いをまざまざと見せつけられてしまった、、、

ちなみに、昨今のミネラルウォーターのように水を遠方から送ってくるという行為は、本来は褒められるものではないと思う。ヴィッテルやエビアンなど、海外からもの凄いエネルギーをかけて採取・運搬し、結果的に多量のニ酸化炭素を排出しながら水を飲むということが、環境経済的にみて許容されるはずがないとおもう。

先日、あるシンポジウムで、宮城大学のセンセイであるアン・マクドナルドさんと同席したのだけど、パネルディスカッションのパネラー席にはヴィッテルのPETが置かれていた。これをみてアンさん顔をしかめ、「これ、どうかと思いますよ。なぜ日本の農林水産業のイベントで、海外の水を置きますか?」と言っておられた。全く同感。

僕は、基本的に人は自分が起居する地域の水道水を飲むべきだと思っている。
それが不味い、というならば、余所の水をもってくるのではなく、自分の地域の水を美味しくするための活動をするべきである。

先日書いた、岩手県陸前高田の牡蠣養殖者のみなさんも、よい牡蠣を育てるために、森に植林をしている。都市部に住む人が「水が不味い」というならば、その不味い水を産み出している環境要因を解きほぐし、改善する方向にいかなければウソである。

しかし!
そういう話とは別世界で、この阿部家の水は旨すぎた、、、
月に一度はこの水を飲みたい、、、
でかいポリタンクで送ってもらおうか?いやしかしそれだと水がすぐに悪くなるな、、、
冷蔵庫を一個、新しく買うか?あ、それは単に環境負荷を倍増するだけだ、、、
自分の環境感に従うか、本能の赴くがまま美味しい水を飲みたいと願うかのジレンマである。

ともあれ、
アマユリ、ミズ、そして水によって、僕の心は一瞬あの山形県朝日村の美しい風景の中に飛ぶことができたのである。