2007年4月10日 from 食材
さきほど、種子島の市会議員である長野ひろみ女史から電話があってしったのだが、、、
日本橋三越本店7F催事場で、種子島の沖ヶ浜田の黒糖が催事販売されているらしい!
三越のWebをみてみたら、ありました鹿児島フェア。
種子島・沖ヶ浜田の黒糖は、二年前に現地に行ってその伝統的な製法にびっくらこき、その1年後に私がdanchu誌に初めて書かせていただいた食材紀行レポの主テーマとなったものだ。
沖ヶ浜田の黒糖生産組合では、組合を構成する4世帯が自分の畑で育てたさとうきび(現地ではオウギという)のみを使い、黒糖を製造している。その黒糖の原料は、さとうきびを絞った汁と、pHを調整するために投入する食用の生石灰少しだけ。それをひたすら煮詰め、煮詰まったのを釜に移し、混ぜて結晶を粗くして固める。この単純そうにみえる工程の中に、非常に多くの叡智が詰まっているのだ。
黒糖はこんなにもダイナミックな造り方をしているのである。
かたや日本では砂糖の生産に大きな危機が忍び寄りつつあることをご存じだろうか?
日本とオーストラリア間でFTAが結ばれようとしているが、農業分野の交渉が非常に問題となっている。オーストラリアは農業分野での関税撤廃等を主張しており、そのターゲットは「牛肉・小麦・乳製品・砂糖・豚肉・米」だといわれている。これは非常に大きな問題をはらんでいる。
というのは、海外からの輸入関税が財源となっているものがいくつかあって、砂糖はまさにそれなのだ。
砂糖原料を日本に輸入する場合には関税が徴収される。それが財源となって、日本国内で砂糖の原料となるさとうきびを生産している農家に一定額が交付されている。
日豪FTAで農業分野も譲歩してしまうと、この関税が撤廃されることで国内のさとうきび農家はオーストラリア産の安価な原料の前になすすべもなく敗退し、国内砂糖原料の生産は全て倒れてしまうのではないかという観測があるのだ。
ちなみに同様な事情に追い込まれるのはさとうきびだけではない。肉牛子牛の生産農家に対する補助も関税から出ている。これが撤廃されると、牛肉の単価は確実に上がる。国産牛の単価はBSE問題以降ずっと高止まりだが、今後はもっと高くなるかもしれないのである。
いや、それ以前に、そんな高い牛肉は買えないよということになり、消費は完全に輸入牛肉に傾くだろう。当たり前だ、オーストラリアからの輸入牛肉は関税撤廃によって現状よりも安くなり、国産牛肉はこれまでよりも高くなるのだから。肉牛農家もやっていけなくなってどんどん離農することになるだろう。
しかし
こういうことを書くと、必ず「なんだ、さとうきびや肉牛を生産している農家は国から金を貰っているのか!けしからん」などと言うやからが出てくることが予想できる。
「砂糖など、国産である必要はないのだから、自由経済の中で最適な選択をすればいいじゃないか」
というのが某経済新聞が書きそうな話である。
しかし、僕からすれば砂糖や塩といった、人間活動の基礎の基礎となるような必須調味料を全量海外に依存してしまうような国になってしまうことのほうがそら恐ろしい。
それに日本にはさとうきびで生計を立てているひとがどれだけ居ることか。鹿児島、沖縄では、気候的にさとうきびしか営利作物として栽培できない地域がある。その人達の収入源を絶て、といっているのと同義なのである。
どうもマスコミの一方的にして無知な報道のために、日本の農家は補助金でぬくぬくと暮らしているというようなイメージが強いようだが、今日の農家の収益状況は非常に厳しいのが現実だ。「ぬくぬく」などとんでもない。農家に対する補助金は、それでも「顔が見える日本国内で、基本的な食料生産を絶やさないために」と交付されるものだ。その価値を認めないという人は、ぜひ輸入食品だけで1年間暮らしてみるといい。
どこぞの会社に公的基金を導入うんぬんと騒ぐお国柄だが、人間が生きていくために必須である食料を生産する体制を、国内に担保するということにこそ公的基金を使うべきだと僕は考える。中国やインドをはじめとするBRICSが台頭する中、国力が弱まる日本が海外の食料を買うことができる状態がいつまで続くのか?
現にコーン・大豆・小麦などの主要穀物は高騰を続けており、今後の輸入継続が危ぶまれているのだ。この国のマスコミはなぜかそういうことは積極的に書かないけれども。
砂糖ひとつをとっても世相が大きく変わろうとしていることが透けて見える。
なんにしても
種子島・沖ヶ浜田の黒糖だけは、一つの文化として後世に伝えていきたいものだ。切にそう思う。
明日、僕も時間を見つけて日本橋三越に足を運ぼうと思う。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
本サイトの著作権はやまけんが保持します。出版物・放送等に掲載される場合はご連絡を下さい。トラックバックはご自由に。