2006年11月10日 from 出張
久しぶりの福岡出張だ。九州にはけっこう縁があるのだけど、実は福岡に降り立つことは少ない。大好きな食材がいっぱいあるんだけど、なぜなんだろうか、自分でもようわからん。
さて福岡には僕にとっての重要人物がいる。アジアネットの田中豊さんという方で、対中国ビジネスの総合的なコンサルティングをしている。特に最近は日本の農産・加工品をアジア各国へ輸出販売するビジネス支援を中心にされている。前にも紹介したが、彼の書くブログ「ニッポンを売る!」は非常に面白い内容だ。
■ニッポンを売る!
http://asianet.cocolog-nifty.com/nippon/
食品の世界では、中国の発展が世界的な食料需給バランスを大きく変動させていくのではないかと戦々恐々としている状態だ。具体的にどうかという話をしているとものすごい長さになるので書かないけど、、、 しかし田中さんは言う。
「日本人は中国を一面的に見すぎるきらいがありますね。人件費コストが低い国、競争力の高い国だから驚異だ、という論調が強いですが、中国の内部を深く観察すると、大いなる矛盾を内包している国だということがわかるはずです。貧困に喘いでいる人たちもたくさん居ますし、人件費が低いのは不当に低いのであって、中国国内では非常に大きな問題が生じているんです。そう言う状況をきちんと把握して、日本に何が驚異で何がチャンスなのかを見極める必要があるんじゃないでしょうか」
何を隠そう農業問題に関しては、対中国関係の意識は田中さんから伝授されるものが多いのである。
「まあしかし せっかく福岡に来ていただいたんだから、魚の美味しい店をと思いましてね! 博多の大きな店でもいいんですが、どうせならヤマケンらしく、漁師がやっている小さい店にお連れしますよ。」
やった!
僕はそういう店に行きたいんである。
車は空港から高速に乗り、福岡ドームを横に見ながら郊外へ疾走する。20分くらいで国道202号線ぞいの店に到着。
■漁師小屋
福岡市西区周船寺3-26-12
092-806-6698
なんとこの店の斜め前に、あの”棒ラーメン”で有名なマルタイラーメンの本社工場がある!
ここであの棒ラーメンが出来ているのか、感激である。
知らない人もいるかも知れないが、棒ラーメンというのは九州スタンダードのインスタントラーメンで、通常の袋入りラーメンのように縮れてカタマリになっているのではなく、麺がそうめん状の棒になっているものだ。この代表的なメーカがマルタイ。僕もよく造っていたものだ。田中さんいわく、
「子供の頃、大坂や東京で売っている袋入りラーメンをみた時、あれは何であんな形状なんだろうか、もしかするとマルタイのようにまっすぐにする技術がないんだろうか、と思っていましたよ(笑)」
ええええええええええええええええええええええ
それ本当ですかぁああああああああああああああああああああ
福岡出身の人は本当にそう思っている率が高いのかもしれないな、、、
そんな郷愁を帯びたラーメンがマルタイなのである。
さてさてお目当ての店、漁師小屋がある場所は、国道沿いではあるけど、あまり飲食店が周りにない、場所である。店構えも見た目にはよろず居酒屋のような感じだが、引き戸を開けて店内にはいると、、、
いきなり生け簀(いけす)が!
そう、ここは漁師であるおやじさんが獲ってきた活き魚をその場で料理してくれるという極上の店なのである!
「あらまあいらっしゃい、奥に座敷を用意しましたからね」
と小柄なおかみさんが通してくれる。他の若い衆も元気がよく、いい印象!
品書きをみると、博多の中州の活き魚店より明らかに安い感じ。これは期待出来るというものである!
「やまけんさんがイカを食べたいって仰ってましたので、イカは頼んでありますから、、、」
と田中さんが言い終わらないはしから、そのイカの活け作りが出てきた!
ついさっきまで生け簀で泳いでいた、ぶっくりと太って肉厚なヤリイカである。写真ではわからないけど、当然ながら足の部分がまだうようよと動いているのである!
みよこのミルキーに透き通る身を!
やっぱりこいつは活き作りで食べられる場所にいかないと味わえないのである。
もう行儀悪いけど甘めの醤油にわさびをトロトロに溶いちゃって、イカを浸しながら食うんである。イカの身が「シコォッ」と余韻を残す歯ごたえを感じさせ、4口噛んだくらいから甘味がジュリッジュリッと染み出てくる!
「いやぁ~ やっぱり福岡にきたらこれですよねぇ」
といっていると、次なる皿が、、、
なんと鯖(サバ)の刺身である!
「おお、これは脂が乗ってますね」
と田中さんも声を上げるほどのサバの身である!
東京にいると、サバは〆サバで食べるものと思ってしまうが、以前、種子島で首折れサバを食べたときのように、やっぱり刺身が一番旨い! 新鮮なサバは臭いなど全くしないのだ。鮮度がよければシャクシャクという音の出そうな歯触りと、そしてやはり甘さが4口目くらいからしみ出してくる。美味なり!
「いやぁ、今日はどうやらアタリですね。このサバは予想以上に美味しいですよ!」
と田中さんもホクホクである。
「はい~ 次はね、カワハギ。肝をポン酢に溶いて身につけて召し上がってくださいね!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
美しい!
ハギよ君はなんと美しいのだろうか!
そして何より このとろける肝!
この肝をポン酢に一杯溶かして、、、
半透明な、むこうがわが透き通って見えるカワハギの身を落とし、、、
巻いて喰う!
実に微細に淡泊な白身であるカワハギの身に、油分濃厚でフォアグラをさっぱりさせたような肝がまとわりついて、どっちを味わったらいいの!?という豊饒な味わいが口に溢れんばかりである!
あー もうこの三品だけでも至福の境地である!
「やまけんさん、天ぷらとか塩焼きもありますよ。」
「うーん 穴子の白焼き食べてみたいですねぇ」
「あ、今日の穴子はちょっと大きくて太いので、お二人だとちょっと食べきれないかも、、、」
という若いあんちゃんの言葉に、おお?っと思う。
でかい穴子? そうか、漁師さんがそのまま魚を出してるから、規格外の太さの穴子が手にはいるのか!
「それ、半分を白焼きで、半分を蒲焼きにして穴子丼にしてもらうってできますか?」
「ええ、できますけど、、、ちょっと多いですよ?」
と躊躇しているあんちゃんに、田中さんが
「あのね、この人は大丈夫! 絶対食べるから!」
と、声をかけ、オーダーは通ったのである。
そして当然、僕はこの穴子を捌くところを見学させて貰ったのである!
厨房に行くと、漁師のおっちゃんが手袋をつけ、穴子を生け簀からワシッとつかんでもってくるところだった、確かにムチャクチャ太くてデカイ!
厨房の床にボン!と落とすと、穴子が暴れる暴れる!
暴れる穴子をギッとつかみ、のど元にぐいっと包丁を入れると、一瞬にして穴子は天に召され、静かになった。
目釘を打ち、サーッサーッと捌いて背開きに。電光石火の早業である!
いや、凄まじい穴子であった。大サイズのウナギくらいのでかさである。
さてその間に、活きイカ刺しの楽しみである、げその天ぷらが運ばれてきた!
生のイカも旨いが、火の通った、特に天ぷらにして脱水して旨みを凝縮したイカの身は死ぬほどに旨い!
官能的なクニュリンとした食感がえもいわれぬ感覚を呼び起こすのだ!
そして、、、
これが大穴子の白焼きだ!
大サイズのウナギどころではない。タップリ3センチはある身肉の厚さだ。小骨も「小」がつくのがちっと違うかも、と思うくらいの立派なものである。味は、デリケートさはないが大味でもない。つまり分厚い穴子そのものである!
そしてこちらが蒲焼き!
甘辛いタレに潜らせて焼いた穴子丼。このタレはかなり甘い!
そうか、九州ではタレの甘さがかなり強烈なんだな。しかし少し鋭さのかける大穴子の身には、これくらい甘いのがちょうどいいかもしれない。
そして、この料理風味噌汁がまた最高なのである。
何が最高か、、、
魚のアラがふんだんに入っていること、ではない!
タマネギの薄切りがあまーく煮込まれてタップリ入っているのである!
実は僕は玉ネギが一番好きな野菜である。オフクロが造る味噌汁やスープには必ずタマネギの薄切りが入ってきていた。子供の頃初めてラーメンやというのに行ったとき、出てきたラーメンのスープにタマネギが浮いていないのをかなり不思議に感じたことを覚えている(笑)。
この漁師汁はタマネギの甘さと麦味噌の風味がビッタリマッチしていて激うまなんである!
うがぁーーーーーーーーーーーー
旨い!
久しぶりに何も考えずにワシワシワシワシワシワシと喰いまくり、激情気味なんである!
食い終わり、しばし放心。座敷でゆっくりさせて貰って、出るときには息子さんらしいあんちゃん(左)と、仲居をしてくれた、ちょっと美形っぽいあんちゃん(右)がいる。
「二人は兄弟?」
「いえ、同級生です!」
いや、仲のいい、非常に気持ちよい接客の二人だ!
この店、本当に接客が非常に気持ちよい。一流ホテルに居るよりも全然居心地がよかったゾ!
やはり福岡は懐が広いのである。感じ入りつつ、田中さんの車の中で爆睡したのである。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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