2006年11月 1日 from 首都圏
本年初頭、日本酒の超・大傑作が生まれた。食前に飲んでも、食中に飲んでも素晴らしいバランスと世界観を発揮する、旨み・酸味・渋み・甘味すべてが包含され、凝縮された酒。このブログでは何度も採りあげている広島県竹原市にある銘酒蔵・竹鶴酒造が世に問うたのが、この「小笹屋 生酛(きもと)」だ。
この酒、おそらくワインのヴィンテージと同じように日本酒業界でマイルストーンとして受け取られるような酒だと思う。タンク二本で仕込まれたこの酒、発売とともに全国の酒販店・飲食店から注文が殺到し、当日で売りきれとなった。このため入手は現時点でほぼ困難であり、日頃から竹鶴酒造の酒をおいてある店に行ってあるかどうか訪ねるしかない。そしてもし発見できたらすぐさま買うべきだ。それだけの価値がある酒なのである。
ちなみに生酛という技術の何がすごいのかということについては、Wikipediaとかで検索して調べていただければ幸い。僕は酒について詳細を語れる人間ではないので、ご専門の方々の解説を観ていただく方がいいと思う。
この酒、僕は工藤ちゃんから譲り受けた。
「アニキ、この酒は飲まずにとっておいてください!後世に残すべき酒ですよ!」
と持ってきてくれたのだ。
ちなみに二本あるのは、同じものを二本ということではない。実はこの二本は別物なのである。
それは、瓶を裏返せばわかる。
裏面表示の「使用酵母」という欄が、左側の瓶は「協会6号」で、右側が「無添加」となっているのがわかるだろうか。これが違いなのだ。生酛という技術を行う際に、右側の瓶の方は蔵の中に浮遊する特有の菌を使っているのである。当然、味にも影響が出るわけだが、、、僕は無添加の方が好きだ。
この酒はタツヤンこと石川達也杜氏が、血を吐くような思いをしながら造った酒だ。いや、彼によれば「絶望しそうになったときにこの酒が助けてくれた」という存在だったらしい。そしてこの大傑作が生まれたのだ。3月に蔵の仕事が終了した後、秋まで熟成を待って販売される酒を「秋あがり」というが、この生酛は秋あがりのシーズンに発表された。蔵に全国の酒販店関係者が集まった「飲み切り会」にて、出席者みんなが絶賛したというのがこの酒なのだ。
さて そのタツヤンから連絡があった。
「蔵に入るシーズンの前に1週間ほど東京にいくから、飯でも食おう」
タツヤンに飯を食わせるというのは非常に悩ましいセレクションを強いられることだ。早稲田大学に在籍してた頃から旨いと言われる店を廻りまくってきたタツヤン。何といってもアルバイトに行ってたのが、まだその頃は阿佐ヶ谷で営業していた「バードランド」。ここで神亀の酒と出会っていた訳なのだから筋金だ。ヘタな店に連れて行くと「うーむ」と唸ったきり何も言わなくなるのである。
でもまあここは東京バルバリしかないよな。
「ああ~、 以前、蔵に一緒に来てくれた小池シェフの店だよね? ぜひ行きたいなぁ~」
ということで東京バルバリにて、僕のスケジュールに合わせて特別なランチコースを設定してもらったのである。
当然、「井のなか」の工藤ちゃんもついてきている(笑)
「へぇ~なんだかスゴイメニューだねぇ。居酒屋とは思えない」
とメニューを楽しむタツヤン。内容は小池君に任せてあるので、僕も黙って出されたものを賞味するだけである。
■ウニと温泉卵、コンソメのジュレ、トンブリのせ
この手の前菜が得意な小池君。ジュレ状のコンソメがしっかり効いていて旨い!
ウニのミョウバンの香りがしてしまうだけがマイナスポイント。それを抜くともっと旨くなると思う。
■蟹のタルタル、フルーツトマトのソースと一緒に
「ええっ すごいなぁ、フランス料理屋さんかい?」
とタツヤンが感動した一品。上のパリパリを崩してトマトのムースと蟹のタルタルを口に含むと「旨いなぁ!」との声が漏れる。
肉焼きの姿がイメージとして強い小池君だが、実はこうした繊細な魚介料理を造らせると超一級品なのである。
■イカの身にイカスミのリゾットを詰め、サフランソースで ブリオッシュを添えて
実は最近、東京バルバリではブリオッシュを自前で焼いている。このブリオッシュがやたら旨い!
焼いているのはイケメンスタッフであるリュウイチで、少しでも失敗すると小池君が「やり直し!」と厳しいらしい。しかしその甲斐あって本当に旨いブリオッシュに仕上がっている!
■白子に生ハムを巻いたものをパートフィロに包み、里芋のムースとセロリアックのソースで
個人的に本日のベスト。里芋のとろけるようなムースと根セロリの癖のあるソースが絡み、白子の旨さが際だっている。
そしてメインはタツヤン、工藤ちゃん、僕に一つずつ違う肉料理が並んだ!
ひえー 小池君そんなめんどくさいことしてくれてありがとう!
■鳩肉のサヴォイキャベツ包み
■ウズラ肉のパイ皮包み、トリュフソース
■あぐーのソテー
何も言うことはない。3人、シェアしながらむさぼり食べる。
そして厨房から小池君自身が出てきてスゴイのを出してくれた。
■ブイヤベース ルイユソースのリゾット添え
先日のブルギニオンでのブイヤベースが最高だったという話をした後だったので、小池君流に造ってみたらしい。
「もう昨日からスープ・ド・ポワゾンを作って2日がかりですよ! あ、貝の中に入ってるのはリゾットをルイユソースで和えたものですから、これをブイヤベースに入れて食べてくださいね。」
「いやぁー 一体どうなってるんだ? すごいなぁ、、、」
とうめきながらブイヤベースを食べるタツヤン。
いや、このルイユで和えたリゾを入れたブイヤベースの旨いこと旨いこと。イノシン酸中心の仕立てだったが、質実剛健な小池君らしい素晴らしいブイヤベースだった!
「あ~ いやぁ~ ものすごく旨かった!」
おお!
タツヤンが無条件に「旨かった!」ということは本当に少ないのだ。ヤッタ!
そう喜んでいたら、小池君が「まだまだですよ~」といいながら、皿をもって出てきた。
「竹鶴さんのお酒を使ってドルチェを作ってみました!」
■小笹屋竹鶴を使ったチョコレートスフレ
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
リキュールではなく竹鶴入りのスフレである!
これは問答無用。さっさと食べなければ!
スプーンをさっくりとスフレに入れると、トロトロ熱々のマグマ状の中身からプワンと心地よい香りが立ってくる。
「おお、竹鶴の味じゃん!」
「ホントだ! うちの酒で洋菓子を作ってもらったのはもしかすると初めてかな、、、」
ゴジラ石川、大満足・喜悦しながら食べていた。
いや、今回も脱帽の素晴らしいコースである!
「いやー 石川杜氏がいらっしゃるんですから、もう死ぬ気でやらせていただきましたよ!」
というが、マジで今回の内容は素晴らしかった。タツヤンからも「感動したよ!」という声が! うーむ よかった、、、
1週間の東京滞在で鋭気を十分に養ったタツヤンは、今週から蔵にはいって造りの準備をするそうである。生酛という凄まじい傑作を、第一回目のチャレンジで生み出したその翌年のシーズン。さてどんなドラマが生まれるのか、いまから本当に楽しみだ、、、
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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