2006年10月27日 from
朝4:00目を覚ます。今日は漁師の村松さんの船でブリの養殖の現場を観に行くのだ。しかし窓の外からは、かなり大きな雨音が聞こえてくる。
「雨かぁ、、、」
僕は晴れ男の部類にはいるので、出張先での雨は本当に珍しいことだ。さてどうなることやら。
「清水マリン」は実に最高だった。今度は普通に泊まってみたいと思う宿だ。玄関で村松さんのお迎えを待っていたら、先に清水マリンの朝ご飯準備部隊が到着。昨日のヨーコちゃんが鍋釜類を運ぶ。
「もう本当に普通に、ご飯と味噌汁と魚の干物の朝食なんですけどね」
いや清水マリンの朝食は凄まじく旨いはずだゾ!
そうこうしているうちに、漁師の大将・村松さん到着!
「いやぁ、定置(網)の魚を獲りに行ってたら送れちまったわ。今日揚がったばかりの魚を食べさせたくてなぁ!」
車で10分ほどで彼の家に到着、、、家というよりは要塞のような3階建ての構造物である。1Fは漁のための設備・整備庫になっている。もちろん海に面していて、驚いたことに家の目の前に自分の船着き場があり、養殖の生け簀まであるのだ!
これが3代続く漁師・村松さんの城だ。しかもお子さんは3人男!
「もうみんな海の男になっとる」
さすが、後継者難は無縁という感じである。
「蒲江の海は本当に豊かでなぁ、魚が無くなる時がない。漁師をやっててよかったち思うとる人間がおおいんじゃぁ。 さあ、上に上がって朝飯を食べようか!」
海を見下ろす2階の居間に通していただき、台所で立ち働く奥さんの後ろ姿をみながら、村松さんが「これ、面白いもんだぞ」と木札をポンと机の上に置く。
村松家の先代に出された漁業組合証である。いわゆる鑑札だろうか、「村松」の「松」の漢字が昔の字になっている。昔の漁風景はいったいどういうものだったんだろうか。
「蒲江の湾では魚だけじゃなくて、バカ貝(青柳)が大量発生したりしてたんだ。その都度、バカ貝の占有権を主張する集落があったり、いろいろ争いごともあって大変だったんじゃ」
豊かすぎる海ならではの問題で、その資源の権利争奪合戦が繰り広げられていたということだ。漁業に関する法整備も順次行われてきたので、その都度いさかいが生じてきたという。
「さあ、そんなことより飯にしよう!」
と、机の上に奥さんの料理がうわーんと並ぶ。ここで確認しておきたいのだが、あくまでこれは朝飯である。
「これはな、アオリイカ。今の時期のアオリイカは旨いぞぉ!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
朝から高級なアオリイカの刺身である!
むろん毎日こんなのが食卓に揚がる訳じゃないらしいが、それにしても東京の料亭でちょびっと切られて刺身になってくるアオリイカの風情とはとにかくボリュームが違うんである。
鮮度良すぎて、弾力が強くて、身を噛みしめるという感じである。
「一日おいとくと、今度はトロッと柔らかくなってきて、味ものってくるんだけどな。今日は歯ごたえを味わうイカじゃ」
いや、この味は漁港でしか味わえないだろう、ご馳走である!
そしてカマス。昨晩の清水マリンでは一塩したものが焼かれていたが、これは生を塩焼きしたものだ。しかも、つい先ほど定置網から揚げてきた魚なのである!
「この時期は定置にカマスばかり引掛る。定置網には一週間単位でかかる魚が変わるんだ」
このカマス、身がホックリして、何より干物では味わえない爽やかな香りがある。大分名産のカボスを絞りこんで食べると、これだけで最高の酒肴としていただける味わいだ。
さてその横に、トンカツか?という揚げ物が。
「これがな、わしら活き粋船団のブリカツじゃあ!」
「活き粋船団」は「いきいきせんだん」と読む。村松さんら養殖ブリの漁師達が出資金を出し合って立ち上げた会社で、蒲江湾の海の幸を加工して販売する会社なのである。その商品の一つがこのブリカツなのだ!読んで字のごとく、ブリの身をフライにしたカツである。
「これをな、小学生の学校給食でブリカツバーガーにして食べさせたりすると、子供がムチャクチャに喜ぶンじゃぁ」
そりゃあそうだろう、傍らにある活き粋船団のチラシには、このブリカツとレタスにタルタルソースを一杯つけたものがバンズに挟まれてバーガーになっている写真があって、ムチャクチャ旨そうなのである!
ちなみにこのブリカツ、魚とは思えないコクのあるしっかりとした身肉のブリのため、実に食いでがある!トンカツの肉を魚をつかって代用品にしたものは多々あるが、はっきりいってこのブリカツはこれだけで一ジャンルを形成できる味である。
さて!
ここからが漁師料理の本番である!
この、醤油ヅケにされたブリの身、実は単体で食べるものではない。
「じゃあ、温めし(あつめし)にするかぁ!」
とやおら中腰になり、各自の分の白飯の上にこのブリのヅケを並べ始める。
このヅケのことを、大分全域では「りゅうきゅう」という。醤油だけではなく酒・みりん・ごまのすり下ろしなどを適宜混ぜ(この辺、各家庭でレシピが違う)、漬け込んでご飯にかけて食べるものだ。これを蒲江一帯では「温(あつ)めし」と呼ぶのである。
「熱々のご飯に載せて食べるから「あつめし」というような気がするんだけど、ほんとのところはようわからん」
そうそう、この村松さん、わからなかったり記憶が確かでないことになると、このようにきちんと「わからん」と話してくれる。こういうところからも誠実な人なんだなぁ、と思うのだ。
さて、りゅうきゅうがご飯の上に並べられ、青ネギの小口切りと海苔、わさびが載せられて「あつめし」のできあがりである!
「ポイントはなぁ、ブリの身を欲張って厚くしないことなんじゃ。薄い方が旨い」
なぁるほどぉ!
さてこのあつめし、実に最高に旨い!
薄切りブリの身にしみている村松家特製のタレが絶妙な加減なのである!
「でな、そのまま食べるのはちぃっとにしといて、この熱々のカツオダシをかけるんじゃ」
と、でかい急須にたっぷり入った、本当に熱々のダシをここに注ぐ!
瞬間、ブリの身は半生に火が入り、ブリとタレに入っていた胡麻の油分で透明なダシが白く濁る。かき混ぜてすすってみると、カツオの風味が醤油ダレにとけ込んで旨い!そしてブリの身の味が、加熱されたことで活性化して凄まじい旨さになっているのだ!
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお こいつぁ 旨い!」
おかわりをしたかったんだけど、「すまんなぁ、りゅうきゅうの分量を間違えて、これしかないんじゃあ」ということだったので、一杯をありがたくいただいた。いや、超絶絶品である。
あつめしについてはこのページに詳しいので、関心のある方は読んでいただきたい。
■大分合同新聞の動画サイト
http://www.oitatv.com/ippin/index.php?id=72
もうひとつ、僕の心にしみた料理がある。それは「ぶえんじる」。
「無塩汁」と書くそうで、昆布やカツオダシは何も使わずに生の魚を煮てダシと具とし、味付けは味噌で薄くするだけ。漁師が沖で漁の最中に作って身体を温める汁なのだ。この日の魚はアジだったが、これがしみじみ、旨かった。
「いっとくけど、いつもこんな豪勢な朝飯じゃないからな(笑)。 さあて、出かけるかぁ!」
いよいよ海、である。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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