ブラウンスイス種の乳牛を食べる!

2006年9月15日 from 食材

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畜産関連の団体職員であるY氏から、「ブラウンスイス種の肉が手にはいるけど、食べたいならとっておきますよ」という連絡があった。そりゃぁ食べないわけにはいかないでしょう!ということで虎ノ門に所用を作っていただきに上がる。

ブラウンスイス種とは乳牛の品種だ。

■参考:畜産ZOO鑑
http://zookan.lin.go.jp/kototen/rakuno/r422_4.htm

「乳牛を食べたりするの?」

と思われる方もいるかもしれないが、酪農で乳を搾っている乳用牛も、もちろん牛肉になっている。というより、比較的価格が安い牛肉は、乳用種であることが多い。牛肉になる牛は大別すると下記の通りだ。

■肉用牛(黒毛和牛など) → メス → 生まれたときから肉用に飼われる。
                   オス                 
                    ↓
         オスは肉が堅くなるので去勢される → メスと同じく育てられる


■乳用牛(ホルスタイン、ジャージー等)
 → メス → 乳牛として飼われる → 高齢になると廃用
          オス                     ↓         
        ↓ ↓
  オスは肉が堅くなるので去勢される → 肉用牛として出荷

このほか、乳用牛に和牛の種を掛け合わせたF1というのもある。

乳用種と肉用種は大きく肉質が違う。乳用種は健康に頑健に育って、たくさん子を産み、たくさん乳を出してくれることが望ましい。だから、草を中心に食べさせて骨格をしっかりさせることが重要だ。したがって肉の歩留まりは悪い。また、日本人が好きなサシもあまりはいらない。当然肉としての評価は、現行の格付け制度下では高くない。

肉用牛は全く反対のベクトルで、サシが入って肉の歩留まりが高ければ格付けが上がるため、骨は可能な限り細く、肉がたくさんつくように、人間でいえばそれこそステーキのような、栄養価の高い濃厚飼料(コーン中心だ)をやたらと食べさせ、つまり極めて不健全に育てる。サシがバンバンに入るということはつまり生きている牛としては凄まじい高カロリー生活をしているということだ。そのアオリで出荷前の肉用牛は目が見えなくなってしまっていたりするらしい。これは仕方がないことで、サシの入った牛肉をありがたがる人が多いから、生産者もそうして育てているのだ。

で、乳用牛の肉は現行の格付けでは評価が低いのだけど、本当はそれはおかしい。冒頭の写真をみていただければお分かりの通り、赤身中心の極めて健全な肉質だ。(もちろん全ての乳用牛がそうだというつもりはないよ!)
サシが入っていない分、味覚が脂分でマスキングされないため、赤身肉の旨みをきちんと味わうことが出来る。サシが入っていないから相対的に肉が堅いと感じる向きもあるかもしれないが、それは廃用牛という、乳のでなくなった、年齢を重ねた肉を食べているからだろう。肉用にして適切な時期の乳用牛を食べても、堅いという感想をほとんど持たない。

しかも今回いただいた肉は、日本では希少なブラウンスイス種の肉だ!これは興味深い。

「やっぱりバターでさっと焼いて醤油で食べるのが一番ですよ。牛肉の最高のソースは醤油ですから」

とY氏が言う。確かにそうだ!ということで早速食べた。
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この肉はレアで食べても意味がないはずなので火をしっかり目に通して、ニンニクバターと炒めて醤油で味を付けて食べた。肉を口に運ぶと、存外に柔らかい。どうやら廃用牛ではなく肉用に餌を食べさせていたらしい。ジュワッと脂があふれ出すことはないが、かみしめるごとに肉の旨みがギシッギシッとしみ出てくる。しみじみ旨い。

和牛ブームはそろそろ見直すべき時に来ている。

牛は人間数十人が生きていけるだけの穀物飼料を食べて生きている。その穀物飼料(特にコーン)はほとんどが輸入だ。日本の食糧自給率は40%(先進国中で最下位だ)だが、穀物だけに絞ってみると、なんと20%台後半という低い率になる。コーン、大豆、小麦はほとんどが輸入であり、その中で畜産飼料に占める割合は非常に高い。

今までは豚肉を主に食べていた中国でも、牛肉食ブームがきて、穀物の純輸入国になってしまった。今年は、全世界的にトウモロコシが豊作だったにもかかわらず、価格は高騰している。なぜか?中国の輸入量増大と、エタノール燃料への転用のためだと思われる。つまり今後、飼料の価格は高騰していくので、食生活を肉に依存していると大変なことになる。

ただ、肉をたべちゃぁイケナイ、という話はナンセンスだ。だから現実的な解として、日本が他の国に迷惑をかけない範囲で、例えば家畜に食べさせる餌の50%くらいは自給をして、その範囲で育てられる肉を食べるにとどめた方がいいんじゃないか、と僕は考えている。

そのとき、牛や豚に率先して食べさせるべきは、濃厚飼料と呼ばれるコーンなどではなく、粗飼料(そしりょう)と呼ばれる草だ。乳牛や短角牛は基本的に粗飼料と濃厚飼料を健康バランスに留意して給餌する。だから健全な肉(サシがあまり入らない)が出来る。

正直なところ、日本人は肉を食べ過ぎなのだ。ほんの20年前までは肉はご馳走だった。今はどうだろう?普通に食べている。しかしこの「普通」は普通ではなくて、地球環境や他の国々にいろいうと負荷をかけながら得ているモノなのだ、という意識を持つことが、この時代では必要なのではないか。

むろん、僕も焼き肉などの牛肉料理が大好きだ。不健全といいながらサシの入った牛肉も食べる。ただし「ありがたい」と思う頻度に押さえているつもりだ。だから、今回食べたブラウンスイスは滅法旨かった。

ちなみにこのブラウンスイス種の肉は、島根県の超・名門乳業メーカである木次乳業(きすきにゅうぎょう)の乳用牛らしい。さすがはノンホモパスチャライズ牛乳の先駆者である木次乳業の牛である。本当に味わい深いものだった。

ごちそうさまでした。