2006年9月12日 from 首都圏
このブログには、僕だけのルールや基準がいくつかある。例えば気合いを入れたエントリを集中的に書いたあとはしばらくその店からは離れる、というのもその一つだ。あまり同じ店が出すぎると「どうせお金貰ってんでしょ」といわれたりするし(もちろんそういうことはブログ開設以来、一切ない。)、また他の同じような業態の店に行って、本当にあの店は飛び抜けて旨いのか?ということを自分に確認させる時間を作るためでもある。こうしたことは最近、読者の人からちらほら「褒めすぎだよ~」と言われることがあるので、割と自分に厳に命じているところだ。
しかし、東京バルバリのお料理ジャイアンこと小池シェフに関しては、その禁を破らざるを得ない感じだ。
「もう、やまけんさんには二度と同じ料理を出したくないんですよ! 毎回、ご来店の全日は何を食べさせようか考えてます!」
と言ってくれるのは嬉しいんだけど、本当に同じ料理を食べたことがあまりない!
定番のあぐーカツレツとかはもちろん毎回頼むわけだけど、最近は「料理は任せるから、予算はこれくらいで」とお願いすると、思いもよらないコースが仕立てられていたということがあまりに多いのだ。
自分の味覚を確認するために料理関係者を連れて行っても「う~ん なんでこんな価格でこんな料理が出せるのかわかりません」と言われる。唯一の欠点は「ガツン系の料理」ばかりでちょっとキツイということだったのだけど、「わかりました、さっぱり系の野菜中心のものを入れましょう!」と克服してきている。
そういうことで、今回は静岡県の中小家畜試験場の岩澤さんと養鶏家の青木さんが上京してきたので、食べに行ったのだ。以下、料理名はメニューとは違うと思うが(料理名が長いんですよ、、、)ご容赦。
■前菜 名古屋コーチンの生ハム、フルーツトマトと黄色トマトのガスパチョ ジュンサイのせ
若シャモの育種をしている岩澤さんと、プロ養鶏家である青木さんだけにピクッと反応。コーチンの弾力強い胸肉を、塩分で脱水して生ハム化しているらしい。通常のトマトと黄色トマトの二色ガスパチョが、適度な酸味を肉に与えていていい塩梅だ。もちろんここにも得意技であるジュンサイが使われていて、ソースに粘りけを演出している。
「うーん ほんとに生ハムだ、、、これ、うちでもやってみようかな。」
と青木さんが唸っている。
そして次に運ばれてきた一皿の見目鮮やかさには一同ビックリ!
■鮭一匹丸ごと 鮭の切り身に白子のムース、イクラのせ
サイズの見当がつかないかもしれないが、切り身が10センチ程度の長さなので、かなりでかい鮭であること間違いない。軽く塩された身に乗っているムースが、白子のマイルドなうま味の生きたクリーミーなムースだ。
切り身でこのムースとイクラを巻いて食べる。フレッシュな鮭の風味に爽やかに濃いムースのうま味、そしてイクラが炸裂してビュっと飛び出てくるジュースによってまさに鮭全体の味が確定していく。
「これ、鮭一匹丸ごと仕入れてるな、、、」
と思ったら、後できいたらまさしくそうだった。
「一匹買って腹捌いて、イクラを採って、、、あ、白子はオスからとってます」
ということだった。うーん、今まで肉、肉、肉!!!!という料理が多かったのできつかったんだけど、この流れは素晴らしいゾ。
と思っていたら、すごい美麗な一皿が運ばれてきた!
■あん肝とラルド、パイ皮で挟んだレモンマヨネーズソースかけ
おおおっ と一瞬どよめく一同。
お料理ジャイアンのくせに、なんでこんなに美しい料理を創り出せるのだ?
サックリとナイフを入れ、できるだけ全要素が一口ではいるようにバクリといただく。パイのサックリ感とあん肝の上質な油分を含む旨さ、そしてあきらかに自家製のレモンマヨネーズの上品でさわやかな酸味が、一瞬にして口の中で咀嚼され、嚥下されていってしまう!こいつぁ、、、言うことがない。
後でシェフに恐る恐る訊いた。
「パイ皮の生地は冷凍をつかったり、、、」と言ってる途中で、
「ンなわけないでしょ! あのね、もう寝ないで毎日つくってるんですよ。ホント、大変なんですから!」
、、、大変失礼いたしました、、、
この一皿を作るためのパイ生地、あん肝の蒸し、レモンマスタード、ラルド全てを小池シェフが手で造っているのである。商業ベースの創作系居酒屋とは思えないワザだ。
■茄子と秋刀魚のなんとか。酸味のある煮浸しのような料理(←笑 すみません)
この料理についている秋刀魚の肝のペーストに注目。
これはよく彼が多用するもので、肉でも魚でも、それ自身の内臓を使ってこくを出したりするためのプラスアルファをしていくのだ。この料理、オイルで煮てあるくどいものかとおもったら、酸味のある煮汁で実に清々しくたべることができた。
■坊ちゃんカボチャのラザーニャ
■バルバリ鴨の瞬間燻製
店名にも由来するバルバリ鴨は西崎ファームのもので、ジューシーで臭みもなく、実に味わい深い品質のものだ。強めの塩をし、内面をロゼに仕上げ、肉汁がまんべんなく全体に還元されるベンチタイムをおいてからグワッと瞬間的に燻製をかけるらしい。
燻煙香をまとったバルバリ鴨は、内側の血の香りと燻煙香の合体と、皮目のパリっとした食感と血の滴りそうなしっとり感との対比と融合で、すんばらしく濃厚に旨い!
付け合わせもクリームマッシュされたポテトのような感じの練られた物体が楽しく、野菜も甘い。
さてそしてこの日、最高に僕らを驚かせ、笑わせたのがこの一品だ。
■短角牛のメンチカツバーガー
うわああああああああああああああああああああああああああああああああ
このタイミングで(もう腹が結構きついのに)こんなんがきたかぁ!
しかしコレは笑える。古くからの読者の方も笑えるはずだ。
過去、三浦半島の長島農園で数回のダッチオーブンパーティをしてきた。
その中で忘れられないエピソードとして、北千住バードコートの皆さんが、奥久慈シャモの照り焼きチキンバーガーなどという凄まじいものをつくってくれたのだ!おそらく今後二度とできないだろうが、、、
■そのときのエピソードはココ
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2004/11/post_403.html
実は先日、東村山の草門去来荘に行くみちすがら、小池君に「いやー あのバーガー、ホントに旨かったんだよ!バーガーもああいうふうにやれば素晴らしい料理になるんだねぇ」と話をしたのだ。彼のことだ、「よっしゃバーガーか、じゃあ次回はやまけんサンにこいつをぶつけよう」と虎視眈々と狙っていたに違いないのだ。
味?
旨いに決まっている!
短角牛の赤身中心の身からは、料理番組のような不条理なまでに流れる油のようなしみ出るものはないが、肉に内包するうま味は黒毛和牛の数倍ある。このメンチカツも見た目の重さほどはしつこさが全くなく、純粋に牛肉の強い香りと肉の旨みが前面に出てくる仕上がりだ。もちろん、バーガーバンズも小池シェフが焼いたものである。ちょっともう脱帽。
しかもそれに添えてあるのが、松茸のコンソメである。
実は彼はあの小さい厨房で、コンソメを夜な夜な引いている。ありえないレベルの店だ、、、
この後、例のハモと鮎のパスタ大盛りとドルチェ盛り合わせ。お二人が静岡に最終便で帰るので、急いでがつがつと平らげて店を出ようとすると、小池君が三階に上がってきてくれた。
「どうですか、おいしかったですかぁ~?」
岩澤さん青木さんもムチャクチャ喜んでくれているみたいで、よかったよかった、、、
実はこのジャイアン、今月結婚式を挙げることになっている。不肖ワタクシめもスピーチをさせていただくことになっているのだけど、それもあるんだろうか?最近の彼の腕の冴えは尋常じゃない。
とにかく、一番すごいのは、可能な限り既製品を使わず、自分の手作りでおこなっているということだ。毎晩客が引けてからコンソメとか燻製類とかの仕込みをして夜遅くに帰宅。しかし昼の営業もあるから、10時前には出てくるというヘビーローテーション、身体のことが心配だ。
そんな身を削っている小池シェフの料理だ。僕と同じように食べたいのであれば、必ず予約をして、その際に「やまけんさんに出してるような感じでセレクトして欲しいんですけど」と言うことだ。
ただし!
そういう頼み方をする際にはきちんと予算を明確にしておこう。ここに挙げた料理を食べようと思っているならそれなりの価格になるので、ちゃんとその辺はきっちりしていただきたい。僕はこの店にはきちんともうけて貰って、スタッフも潤沢に入って、無理なく高いレベルの料理をずっと楽しみたいのだ。だから、そんなに安くなくていいと思っている。
ともあれ、東京バルバリのカウンターに座ったなら、ジャイアンに「結婚おめでとう!」と言ってあげるといいと思う。まだちょっと先の話だけどね。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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