静岡県期待の豚新品種「JD3X」お目見え in 青山 「助とら」

2006年9月 8日 from 食材


このブログでは何回も登場している、静岡県の中小家畜試験場。畜産とくに豚については名門といわれている試験場で、優秀な銘柄豚を輩出してきたところだ。その試験場が4年をかけて育種してきた銘柄豚候補が、都内でお披露目会をするという。幸いなことに、県が主催するお披露目イベントの案内をいただいたので行ってきた。

いつもはふぐ屋である「助とら」には椅子が50脚並べられ、講演会場のようになっていた。料理関係のジャーナリストさんなど顔見知りもちらほら。県がこうした食材の試食を兼ねた会をするというのはなかなかいいものだと思う。

さて大入り満杯で店内が蒸し暑くなるくらいの熱気の中で口上が始まった。

この方が、豚の育種担当(というか育種一筋って感じの方だ)さんで、JD3Xの特徴を説明してくださった。

”JD3X”とは、金華豚(ジンホヮ)と、フジロックを3回掛け合わせたという意味のコードネームだ。フジロックがなぜDなのかというと、銘柄名としてはフジロックなのだけど、その品種はデュロックという、強健性・産肉性に優れる品種だからDなのである。3回掛け合わせるというのは、まずJ×Dを掛けると、子豚が多数生まれる。その中で、金華豚の優れた肉質に関与する遺伝子と、フジロックの黒い毛を司る遺伝子を持っている子豚をDNA鑑定(血をちょこっと抜いて検査する)し、特定された子豚を育てる。
そしてその子豚が成長したらフジロックを掛け合わせる。その子豚を再度DNA鑑定し、また優良遺伝子を保持するものを選抜し、そこに再度フジロックを掛け合わせる。こうして生まれた豚がJD3Xとなるのである。複雑だけどおわかりになっただろうか?

J×D → 子豚をDNA鑑定し選抜
            ↓
           JD×D  → 子豚をDNA鑑定し選抜
                         ↓
                        JDD×D → JD3X

ということである。
こうした豚の育種も、DNA鑑定という技法がなければ無尽蔵に時間がかかってしまうところを、かなりの効率化ができるようになった。(DNA鑑定は遺伝子操作ではないのでご注意を)。

さて金華豚はご存じ金華ハムの原料となる中国の豚で、その肉質はうま味成分を多量に含み、サシも入る優れたものだ。この金華豚を導入し、日本向け品種に改良するということを静岡県中小家畜試験場では取り組んでいる。実は、一昨年の段階では金華豚の血が1/4入ったクォーター品種というのを試験的に育種していて、その肉を僕は食べたことがある!その過去ログも残っているが、非常に旨い豚だったのだ!

■金華豚とフジロックの掛け合わせ銘柄豚は、凄まじく旨かった!(前)http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2004/05/post_232.html

■金華豚とフジロックの掛け合わせ銘柄豚は、凄まじく旨かった!(後)http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2004/05/post_233.html

で、今回おめみえのJD3Xは、金華豚の血が1/8である。血が薄くなったと言われるかもしれないが、DNA解析で、金華豚のうま味成分や肉質を決定づける遺伝子が特定されており、その遺伝子を受け継いた子豚を母豚にしているということで、確実に金華豚の旨さが継承されているということなのである。

ここで素直に考えると一つの疑問が生まれるだろう。

「なんで金華豚をそのまま育てないの?そしたら1/1で純血で一番美味しいじゃん」

そう、その通りである。しかし、金華豚が導入されたとしても日本では経営が成り立たないだろう。純血の金華豚は、産肉性が低い、つまり肉がちょびっとしかとれないのである。脂身の部分が分厚く、精肉になる部分が極めて小さい。また、体重の増加スピード、子供を産む数(産子数)、病気への耐性(強健性)などにかなり問題がある。沖縄の在来豚である”あぐー”も同じだ。肉の旨さは誰しも認めるが、一頭からとれる肉の歩留まりが悪いのである。

参考までに、これがJD3Xのロースと肩ロースのキワの部分だ。

ごらんの通り脂が分厚く、芯の部分はそれほど大きくない(とはいっても、通常のトンカツ等に利用する部位としては並レベルについていた)。産肉性に優れるデュロックを3回掛け合わせて改良したのでもこういう傾向があるわけだ。純血の金華豚ではちょっと採算が合わないのである。

「でも、ブランド豚なら高く売れるのでは?」

といわれるかもしれない。でも、今までそう言う試みをしてきて、消費者はきちんと受け止めてくれなかった歴史があるから、このように育種をするのである。それと、公的な格付けでブランド価値を加味して評価してくれればそれも出来るだろうが、格付けは肉の目方などできっちりつけられてしまう。さきのJD3Xも格付け上はBランクになってしまうのだ(!)

そう言うわけで、肉を大きくし、成長するまで死なないように強健性をつけることが重要なのだ。養豚場を見学にいくと、いかに多くの子豚が成長せず死んでいくかを観ることが出来る。家畜も野生動物と同じく、常に死の危険に瀕しているのだ。

というわけで掛け合わせというのがある。
しかし、先の過去ログにある、いわばJD2Xが非常に旨かったので、JD3Xにはかなり期待できる。
これがJD3Xの肉(ロース)だ!

きめ細かいサシが入り、柔らかな肉質であることがみてとれる。しゃぶしゃぶ用肉にしてあるので柔らかいのも当然かもしれないが、もう少し厚い肉も食ってみたかった。

こちらはバラ。脂の質が素晴らしい金華の血がどれだけ入っているかを知りたい。

さてこの肉はコラーゲンしゃぶしゃぶという料理で食べるのだそうだ。

ぷるんぷるんの煮こごりは、JD3Xの豚足や顔、骨などからとったコラーゲンタップリのスープだそうだ。これでしゃぶしゃぶをするのである。

料理人さんによれば、「脂身が指で持っているだけで溶けちゃうんですよ!」ということだ。融点の低い、さらさらした油質なんだろう。

さてしゃぶしゃぶを何もつけずに味わってみる。

端麗だ、、、

なるほどね、こういう味だったか。僕の予想とは少し違った。金華ハムのあのまったり拡がるうま味を受け継いで、濃厚な味がする豚になっているのかと思ったが、育種の方向性としてはきめ細かい食感と、端麗で上品な味わいを求めていったようだ。確かにくせが全くなく美味しい。しゃぶしゃぶ用豚としては非常に優れているのではないか。
ただ、僕が期待していたのは濃厚なうま味を持ち、もう少しガツンとアタックのくる豚肉だった。そういうのも育種の方向性にあるとうれしかったな。

ただしこの辺は、飼養管理方法でそうとうに変わってくる。特に肥育日数と餌の中身で味は変わる。今回は試験的に育てているだけなので、今後に期待だ。ポテンシャルはムチャクチャ高いので、相当旨い豚になることは間違いない。くどさのない、溶けるような肉質の豚肉に、僕が飽きてしまっているというだけなのである(贅沢な話だが、、、)。

静岡茶の風味で煮た豚足。

濃厚なゼラチン質を持つ豚足もあっさりと仕上がっていて、上品。下品さが全くないので、豚肉の女王という感じがする。

メロンソースで食べるローストポーク。

料理法によって評価が変わるが、このように水分を抜いて焼き上げる料理だと、豚の力強さが欲しい。いまのJD3Xでは少し味が優しすぎる感がある。やはり現時点ではしゃぶしゃぶ用が最適だろう。個人的にトンカツで試してみたいが、、、

なんとモツ煮も出ていた!
やはりこれからは精肉だけではなくて、内臓も含めて提案できないとおもしろみがない。
モツはムチャクチャ旨かった。臭みがほとんど無いのが功を奏していて、食感も上質、非常に上品に食べられる。この日はレバーが無かったが、それこそトロケル旨さだろう、、、

コラーゲンのジュレをかけた竹炭練込みうどん。

ジュレ自体には濃厚なうま味があるだろうとおもったが、結構これも端麗な味だ。

やはり改良の方向性としては、ガツンと濃い味をどこかに発現して欲しいなとおもったのである。

ちなみにこの方が、試験品種であるJD3Xを育てている、名養豚業者であり精肉屋さんでもある「とんきい」の鈴木さんだ。

こんなところでお会いできて光栄だ。率直な感想を述べさせていただいた。

「うーん そういう意見もあるんですね、、、」

と考え込まれておられたが、一般的にはすごい豚だと思います。あくまで私のようなガツンとしたのが好きな人間の意見だということでお受け取りください、、、

ちなみにこの日、JD3Xだけではなく、もうこのブログではおなじみの駿河若シャモも料理されていた。

この若シャモは非常にうま味の濃い鶏なので、好評を博していたと思う。

なんにせよ、これからは品種の深化の時代だ。
面白い品種が世に出て、それをいろんな人が評価するという流れを創り出していくことが、この国の食材の未来に繋がる。ということで、新しいものが売り出されてたら、みんなで買って食べて、あーだこーだ言いましょうね。