2006年7月28日 from 首都圏
週アス総編集長であるF岡さんに、かねてから「食いしん坊の会ってのがあってね」と聴かされていた。かの名門料理学校であるエコール辻の要職にあられる小山先生とデジタルハリウッドの櫻井さんが中心となって、美味しいものを食べるという会だという。その会が新宿御苑前の中華料理店で行われるということで、参戦させていただいた。
ちなみに
このブログでも採り上げさせてもらい、かつ東京版食い倒れ日記の表紙写真にもなっている築地「旨いもん屋」は、もともとF岡さんに連れて行ってもらった店だが、ここを最初にF岡さんに教えたのは小山先生なのである!小山先生とはまったくの別件でエコール辻を訪れた際に初めてお会いした。当然「初めまして」と挨拶させていただいたのだが、小山先生は笑って「ブログで観てるからなぁ」とおっしゃられる。なんと東京版食い倒れ日記も買って頂いているという。この小山先生が実に面白い方であることは、それ以降だんだんと認識していったのだ、、、
さて
はっきり言ってF岡さん、小山さん、櫻井さんら妙齢の男子中心の会であろうと想定していったのだが、さすがにそんな無粋な会ではなく、美味しい料理に感度高く、かつ麗しき女性陣が集う、実に目の保養になる会だった。F岡さん小山さんありがとうございました、、、
会場となった「古月」は、本店を上野・池の端に仰ぐ支店だ。
■古月
http://www.kogetu.co.jp/mall/index.html
(新宿店)
http://www.kogetu.co.jp/mall/yume014.html
古月本店のご主人がちょうどこの日、大阪の辻調に授業にいかなくてはならないということで、お弟子さんが鍋を振る新宿店にて、ご主人による特別メニューをいただけるということになったそうだ。新宿御苑周辺を久しぶりにぶらつくと、面白そうなミニコミ本をもとめてこのあたりの専門書店に足を運んでいた高校生時代を思い出す。そしてこの辺はかなり名店が集中する地域なのである。丸ノ内線新宿御苑駅を地上に出たらすぐに御苑のほうに歩き、御苑外周を少し歩くと、「古月」は上品に、静かに佇んでいた。
会の面々が集まり、新参者の挨拶をさせていただいて茶をすすりながら特別メニューを眺める。
各料理の下にその郷土が書かれている趣向だが、山東、上海、北京、潮州、四川とそれぞれバラバラで関心をそそる。だいたいにおいてこういう時には前菜の出来が全てを暗示する。
運ばれてきた前菜盛りは、すでにそのたたずまいから旨そうで、つまらない分析心は吹き飛んでしまった!
申し訳ないことに料理の名前と内実が一致しないのだけれども、鴨肉を漬け込み焼いたものに甜麺醤をつけて食べるのが異様に旨い。適度に脱水し新たな旨みをまとわせた鴨肉は、それだけ一皿大量に食べたくなってしまうものなのだ。写真がぼけてて失礼。
次に出てきたのが鶏と豚の内臓である。
古来中国では精肉よりも内臓肉を珍重したとものの本で読んだことがあるが、その逸話に違わぬすばらしい一品!実はこの日最も印象に残ったのが本品である。ヌーベルシノワ的美しさのある盛りつけだが、盛られているのはガツと砂肝。質実剛健な造りだ。
砂肝を口に運ぶ。念入りに油通しされているのか、砂肝特有のジャリジャリ感があまり感じられず、柔らかくクニュッとしながらも超弾力を発してカリッと音のする食感が素晴らしい、サーチャー醤のような風味かと思ったが、聴いた限りではごくシンプルな調味らしい。
そしてビックリしたのがもう一本のガツの旨さである!
豚の胃袋であるこのガツは鮮度がよく、内壁部の食感がコリッと見事に決まっている。旨みも十分、いい仕入れをされていると思う。
次に、冬瓜の出回り時期であるこの季節には定番といえるスープだ。
冬瓜をくりぬいた中に湛えられているのは、フカの軟骨と卵白のスープだ。冬瓜は農家に特注して大きさ・形をそろえてもらっているという。通常は大きめのものをくりぬき数人分にするが、一人一人に出すためにこうしているとはなんとも贅沢なことだ。身体を冷やす瓜類だが、こうして熱をかけることである程度陽性に転じ、腎臓を暖めるので、食べる機会があればこの季節に食べておいた方が良い。
で、このスープが実に絶品!丸鶏だろうか、滋味深く柔らかい丸みのある味わいのスープだ。湯が美味しい店ははずれない。食いしん坊の会のメンバー一同口数すくなく、冬瓜の皮の縁までスプーンでひっかき、実を食べている。
次にでてきたのが、仕込み豆腐にもずくのような藻が入った一品だ。砂漠でしか生えないという特別な藻
の植物だそうだが、春椿という感じが料理名に入っていることからわかるように、常緑の葉が豆腐に一枚載っている。初めての食材だ、、、
それ自体丁寧に仕込まれているであろう、控えめにしかし明らかに中華の旨みが加えられた豆腐の断面にその藻が仕込まれている。もずく様ではあるが風味は明らかに違い、もっと植物的、草のような風味、印象がある。でも深く分析する余地もなくトロトロと溶けてしまったのでこれももっと食べてみないとわからん!中華は食材もあまりに広い範囲に膨大に点在している。日本の野菜のルーツは、そのかなりを中国大陸経由に負っているから、正直言って互しがたい。しかも中国の農産物は土質のせいか、味が全体的に荒々しい濃さを主張する傾向がある。そういや僕は中国にはまだいっていない。いつか全州を回ってみたいものだ。
さて主菜の登場だ!
この土鍋料理が本日の極めて忘れがたい一品となる。このトロトロの流体の下に煮込まれているのが、豚の頭肉である。
もう一品はニガウリと牛肉の煮込みだ。
ご飯が出てきたので、せっかちな僕は両方ともかけて頂いてしまう。どちらかというと牛肉とニガウリの一品はそれほど新鮮みがない。実際、丁寧な味には感じたが、想定の枠を超えないものだった。
しかし!
豚の頭肉の煮込みがあまりに素晴らしかった!
このとろとろの流体の正体はなんとおから。3リットルくらいのおからを鍋で煎り続けることで水分が飛び、茶色く色づくまで煎りあげることで香ばしさが生じる。もとは大豆だからね。そして、豚の頭の部位ごとに食感と火の通りが違うため、別々のタイミングで煮込み、オカラに旨みをたっぷりと吸わせて供するわけだ。
ぷるんぷるんとコラーゲン層たっぷりの豚頭肉から旨みが溶け出ている。白飯にその煮汁をにじませながらかっ込むと、よくある三枚肉の煮込みなどとは数段奥深さの違う旨みがジュルッと染み出てくるのだ!本当に内臓肉、頭肉は旨い!噛みしめるたびに旨みが発せられる。これを生むためにどれだけの時間がかかるかと思うと頭が下がる。この料理が食べられるなら御苑まで喜んで足を運びたい!
「いやぁ~ マジ旨ですよ!」
調子に乗ってお代わり2杯。4杯目はさすがに「申し訳ございませんもう白飯が、、、」と無くなってしまったが、あと一杯食いたかった!
この古月新宿御苑店の料理長である加藤さん(左)と、右はその二番手をしておられる女性で、なんと辻調の卒業生さんであった。本当に見事な料理でしたよ、、、
この日の中華は本物であった。というのは、この時期に滋養のある料理を出そうとすると、かならず茶色を基調とした地味な色味のものになってしまう。それをいやがりきらびやかな色彩の料理を出すのは空虚だ。本日の料理は全て茶色かくすんだ色づかいだった。これは虚ではなく実をとるという店の方針だろう。そして食後の満足感は、中華街の定番料理を食べるコースとは別種の、清々しいものがあった。
デザートの亀ゼリーをいただいて閉会。
美人度高く、半ば合コンかと半分期待半分恐々としたが、女性陣もひたすら旨いメシをかっ込む豪女ばかりであった。こういう会にしては久々にいい会で楽しませて頂いた!
「じゃあ、僕の中島みゆきを聴いてよ」
という小山さんに着いていく。櫻井さん、F岡さんによれば「ちょっと他じゃ聴けないよ」ということだったのだ。その歌は、、、
まさにオリジナルであった。
何を歌っても小山オリジナルになってしまう。
モー娘。の楽曲でさえも小山オリジナル、別物となっていたのである!
聴かずに帰った方々は、確実に損をしている(笑)
本当にオトナの夜を堪能した、久々に無条件に面白い一夜であったのだ!
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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