新潟ってすごい!長岡~上越地域食の宝庫を味わってのけぞった! 巾着茄子の生産現場にて、本物の農家のすごみに触れた!

2006年7月17日 from 出張


関要肉店のメンチ&コロッケを味わい、さっそく満たされた気持ちでいる車中。ジンは幹線道で大きな川の橋を渡り、その川縁の緑地帯に車を走らせる。大きな川の河原は、冠水のおそれがあるものの、土壌が肥沃でかつあたりに民家もなく、農地としては最適な場所である。その広々とした空間に、濃い緑と紫のツートンカラーが生い茂る一角があった。そう、昨年のエントリから出てきた巾着茄子を生産して下さっている農家、小林幸一さんの畑だ。

挨拶もそこそこに、畑を見せて頂く。
一段目の実が収穫中で、三段目くらいまで着花しているという走りの時期。すでに茄子の樹勢は旺盛だ。

この時期はまだ首都圏で曇天が続いていたが、新潟は少し晴れ間が覗き、生育が旺盛になっていたということであった。

「今年も割と調子が良いですよ。今は樹勢が強い時期ですからね、これからしばらくこんな感じで育っていきます」

着果している巾着茄子の姿が、その生育の勢いを物語っている!

ヘタと実の部分の間が、黄緑色の部分と、やや薄目の紫、そして黒紫色と三段階の色変化になっていることがわかるだろう。この差が大きければ大きいほど、茄子の生育が旺盛なのである。つまり紫色のアントシアン色が発現する余裕がないくらいに実が大きく肥大しているということだ。それにしてもこの実、巾着状の筋がくっきりと入り、ずしっと重そうな見た目、たまらない美人果ではないか!

「うちはねぇ、ほとんど化学肥料を使わないで有機、堆肥やボカシだけで栽培してます。そうじゃないと思ったような茄子ができないんですよ!株間や畝間の堀り方とか、いろいろ工夫してます。」

という小林さん、もう巾着茄子に対する熱情が全身から弾けだしている!

小林さんが使っている種はずいぶんと原種に近いようだ。この花のつぼみにビシビシっとそびえるトゲの生命力を見て欲しい!
また、葉面にも画鋲のごときトゲがブツブツと出ていて、なまじな観光気分で訪れた客を刺しまくる。

週刊アスキーの撮影用に獲ってもらった巾着茄子はズシッと掌にその存在感を刻むものだった。泉州の水茄子や新潟の焼き茄子など、中が膨満としている軽い茄子の対極にある、密度の高い身肉だ。

それにしても素晴らしい茄子畑だ。丹精という言葉がこれほど似合うところもない。

土質はご覧の通り川縁にありがちな砂泥に、長いこと有機肥料を施して土壌改良をしてきているとのことだ。水はけがよく、かつ肥持ちのよい理想的な土質に近づいてきているという。農業は1年や2年の短いタイムスパンでは結果が出ないのである。

「さあ、うちで茄子料理を用意してますから、行きましょう!」

そう、なんとこの日の昼食、小林家にて茄子づくしを頂くことになっているのである!

畑からそう離れていない小林家に上がると、そこはもう茄子ワンダーランドであった!

我が家で、こうやるのかな?と試行錯誤した蒸し茄子、そして素揚げ茄子と甘味噌が並ぶ!
よく考えてみたら、本場新潟は長岡で巾着茄子を食べるのはこれが初めてなのである。

蒸し茄子は、「皮付きのも美味しいし、皮を剥いたのもまた美味しい、だから両方」ということでツートンカラーである。

ショウガ醤油につけて頂く。巾着茄子特有のアクが、蒸かして冷やすことによってか、なぜか甘みと旨みに変容し、独特の風味を醸している。色んな茄子を蒸かして実験してみたが、この巾着茄子ほどに身肉がしっかりして、かつ濃厚な風味を漂わせる茄子はなかった!

素揚げした茄子が綺麗に並ぶ。この食べ方は実はしたことがなかった!

「この甘味噌もね、うちで作ったんですよ。」

と奥様がころころと笑いながらおっしゃる。実はこの甘味噌が超絶・絶品!素揚げ茄子に載せて頂くと、これだけでご飯が3杯は食べられるくらいの旨み世界になるのである!

こうして思い出しながら書いているだけでもたまらない、食いたくなってきた!

もう一つの長岡郷土野菜、かぐらなんばんと一緒に味噌炒めにした巾着茄子は、シコシコという独特の食感を残していて、実に興味深い、茄子っぽくない仕上がりになっていた。

「山本さんはクジラは食べられるかしら?」

と奥さんが出して下さったのが、、、

「ふふ、これが長岡名物なんですよ!」

とジンが笑う、クジラ汁であった!

クジラのコロの部分(皮と、その下の脂身を干したもの)を戻し、巾着茄子と共に味噌仕立ての汁にしたこの一品、実に滋味深い! クジラのコロの絶妙な油分が汁に溶け出し、コクと独特の鯨肉の香りを添加している。それによって、ただのみそ汁とは一線を画す料理に仕上がっているのだ。しかもそこに巾着茄子の、煮込んでも溶けない、シャクシャクというはっきりした歯触りが加わるのが楽しい。思わずお代わり。

奥様はこの辺では由緒正しい家のご出身であられるそうだが、実に明るくコロコロと笑いながら、素晴らしい料理を披露して下さった!

「もう、いつもうちの人は熱中し出すと止まらないんですよ。」

「わはは、まあそうだけど、あんたらは熱心だねぇ、、、こんなにうちの茄子で驚いてくれる人は初めてだよ」

と半ば呆れられる僕だった。

「はい、おにぎり食べて下さいね。中には巾着茄子のみそ漬けが入ってますよ」


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
きらきらと光っているようなおにぎりだ!

大きくかぶりつくと、意外に歯ごたえのある具に歯がめり込む。そして適度な塩気と甘い味噌の香り。巾着茄子は身肉がみっちりと密度が濃いので、漬け物素材としても非常によいのである。その漬け物も、浅漬けではなく本漬けに耐えるものなのだ。感動していると、みそ漬け、粕漬け、そして芥子漬けを出してきて下さる。

蒸かし茄子に適した初期の収穫が終わって生育の後期になると、実が堅くなる。そのころの規格外品を漬け物にしていくそうだ。地元の企業がこの巾着茄子の漬け物に取り組んで商品化をしている。昨年僕もいただいたが、芥子漬けがマジではまるほどに旨いのだ。

それと、茄子には関係ないけど、ビビッタのがこのきゅうりだ。

何気なく出して下さった浅漬けキュウリを囓ったとたん、ジンと目を合わせて「おおっ」といったきり沈黙してしまった。あまりにも旨いのである!

キュウリの旨さとは、その大部分が食感である。食感を左右するのは、皮の硬度と中の身肉の硬度の差異である。市販されている主流のブルームレスキュウリは、皮が固いので日持ちがする。だから流通しているわけだ。しかしこのキュウリを塩漬けすると、浸透圧で中の水分がある程度出て行く。中の身肉は脱水されてふにゃっとなる。しかし皮は固いままだ。従って通常のキュウリの漬け物は、皮が固く中が柔らかい、グニャボリっという食感しかしない。しかし、自根栽培をしていたり、昔から伝わっている自家採取の品種を作っている農家のキュウリは、皮の硬度が身肉とそれほど変わらず、相対的にキュウリ全体が柔らかにポリッと歯切れよい食感になる。こうしたキュウリは生でももちろん旨いが、塩をして適度に脱水するとえもいわれぬ漬け物になる!これは食べたことのある人にしかわからない世界だ。

そしてこの小林さんが何気なく卓上に並べてくれたキュウリの浅漬けのすごいこと!
長岡の市場仲卸をしているジンまでもが「ムムッ?」と声を挙げたことからも、勘違いではないことがわかるはずだ。

「こ、これって小林さん、すごいキュウリですよ、、、」

「そうかい?何本か作ってるだけなんだけど、、、自根だからかね。」

「こ、これって出荷してますぅ??」(←ジン)

「してるさぁ、少ない量だけど、、、」

いやマジで素晴らしい!
芸術的なまでの皮の歯触り。断面写真をみていただければ、その薄さがおわかりだろう。頭がからっぽになりそうなポリッとした食感とキュウリの香りのバランスが最高なのだ。実は後日、NHKラジオの食材でキュウリを特集したとき、小林さんのこのキュウリを送ってもらった。もちろんスタジオでは大絶賛であった!

市場業者も驚く生産農家、小林さん。あくまでマイペース、自分が作りたいものを、作りたい方法でひたすら生産する。書ききれないほどの金言をいただきながら、とにかく茄子を食べまくった(笑)!

長岡で巾着茄子を生産している農家さんは、もちろん小林さん一人ではない。でも、ジンは僕を連れて行くなら小林さんと決めていたようだ。それは、お会いしてみてよーくわかった。やはり人の熱が、作物に同化されるのである。巾着茄子の名農家・小林さんの名前を忘れてはならない。

また今年もシーズンになれば、ジンが巾着茄子や梨茄子の産直販売をしてくれるだろう。そのときはここでお伝えしたい。

とにかく小林さん、本当にご馳走様でした!素晴らしい茄子料理、そしてキュウリでした!未だに忘れられません、、、