2006年7月 5日 from 出張
さて長かった秋田編もいよいよ完結だ。雪の降る2月からここまで続いたのも珍しい。
魂のしょっつるを醸す諸井醸造所を出てからしばらくは快晴。昼飯をとる。
「やまけんさん、冷やかけ納豆蕎麦が有名な旨い店があるんですよ!」
お!いいですねぇ!!ということで「安澄」(←安曇ではないので注意)へ。
■安澄本店
秋田県潟上市昭和大久保字虻川境1
018-877-3659
この店、秋田市にも支店があるようだが、断然本店が旨いという。
ここはお勧めの冷やかけ納豆を食べるしかないだろう。それも大盛りで!ということでみな、冷やかけ納豆(工藤ちゃんと僕が大盛り)をオーダー。
程なくして運ばれてきたこの冷やかけ納豆が圧巻であった!
大鉢にドデーンと盛り込まれた蕎麦量は非常に多い!その上のトッピングもかなりの分量である。納豆、ネギ、天かす、鰹節、蕎麦のスプラウト、大根おろし、パセリにイチゴ。なかなか思い切りのよい蕎麦である!
「うおおおおおおおおおおお 燃え上がりますね、このプレゼンテーション!」
まずはよく全体を混ぜ込んでいただく。果てしない蕎麦の海から麺をすくいすすり込む!
ほどよい塩梅の冷や出汁が絡んだ蕎麦麺は白っぽい中細麺で、機械打ちだと思うがたおやかで美味しい。納豆、天かすその他の具材が絡むと端麗な蕎麦の風味にいろんな彩りが加えられて乙な味だ。
卓上の七味は辛味より香り成分が強く、これをかけることで蕎麦の風味が全く変わる。大盛りの分量は凄まじいモノがあったが、最後まで飽きることなく完食できた。
いやー旨かった。
「さてやまけんさん、これから由利本荘市までちょっと時間がかかりますよ。」
「あ、そのまえにちょっと合流して頂きたいところがあるんですよ!」
実はこの日、僕らは秋田在住のとある重要人物と再開することになっている。その人は食い倒れ日記に多大なる貢献をしてくれている方なのだ!
道程にある道の駅で待ち合わせをしていると、、、向こうから懐かしい顔が!
おわかりだろうか?(わからないよな(笑))
僕に有楽町ジャポネのジャリコ親方を勧めてくれ、そしてあのトルコ料理の超名店・阿佐ヶ谷「イズミル」を紹介してくれたおうさるさんである!
実はおうさるさんは先頃、実家の家業を継ぐために秋田に戻られたのである。月に一回は東京にきているということだが、秋田で会えるというのはなかなか感慨深い。
おうさるさんの登場と共にいきなり晴天だったのがかき曇り、横殴りの雪が降ってくる!
「さあ、出発しましょう!」
道中ゆっくりしながら、小一時間で由利本荘に着く。
「ちょっと早めに着いてしまいました。時間調整で中華そばでも食べますか?なかなか味のある店がありましてね」
そりゃぁいくっきゃないでしょう!
由利本荘の街道筋にポッと民家のごとく建っている店の横に車を寄せる。
「この店は僕もしらなかったなぁ、、、」
とおうさるさんが言う。そういえば県職員の佐々木一生さんとおうさるさんを引き合わせるのも初めてだ。お二方のコンビが凄まじい秋田シナジーを生み出す気がする。
この店、生そばが看板にでているけど、ほぼ全ての客が中華そばをたのむそうである。
引き戸を開けると、座敷にぎっしりと客が詰まった店だった。
座敷に入る途中に中華麺が並んでいるのを観ると、なんだか心躍る黄色のちぢれ麺だ。
写真を撮らせてね、とお願いすると「綺麗に撮ってね」と言われる。わかりましたよー 店内は薄暗いんだけど、被写体がいいから美味しそうに写ってくれるだろう。
なんと大盛り中華520円である。いくっきゃない。まだ1時間前に食べた蕎麦を消化しきってないけどいっちゃうのである。
出てきた中華そばがこれである。このたたずまい、実にオーソドックス。風雪に耐えて生き残ってきた基本形が提示されている。
北海道や東北を回っていて思うのだけど、北国のラーメンの位置づけは、関東以南のそれとは全然違うと思う。それは、冬の厳しい寒さをしのぐために必須の食べ物として位置づけられているということだ。富良野や旭川ではスープを冷まさないために油膜が5ミリくらい張られたのが出てくるし、北国一帯で塩分濃度が若干濃いめだ。これは寒さの中で動けるように血圧を上げなければならないからだろう。
この清吉のラーメンは、優しい味の鶏スープにメンマとネギ、そして一口大の肉片がころころと入っている。
「これ、鶏肉ですね!」
そう、鶏もも肉を醤油で長く煮たような感じ。これがこの中華ソバの優しい存在感を決定づけている!
この清吉そばの中華、実に優しく歴史を感じさせる味だ。激旨!とか濃厚!とかそういう価値観ではない、毎日食べたくなる中華そばだ。僕のブログにラーメンが出ることは本当に少ないのだけど、それはげんなりするほどにいろんな味が加算されたラーメンが多いからだ。僕は要素が切りつめられたラーメンが好きだ。清吉の中華は、かなり僕の好みだった。
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さあ!
この度の終着地点にやってきた!
昨晩、能代のべらぼうナイトで絶妙なお燗番をしてくださった秋田酒バカ一代・浅野さんが「これはすごい酒蔵ですよ、、、」とおっしゃっていた齋彌酒造店である。屋号ではわからないだろうが、「雪の茅舎(ぼうしゃ)」という酒を醸している酒蔵である。
■齋彌酒造店(さいやしゅぞうてん)
http://yukinobousha.jp/index.html
実はこの蔵のことはくる前からその伝説をいろいろときいていた。
野菜の食べ比べ企画を執筆させていただいている季刊「やさい畑」家の光協会刊の編集者である、自身ものんべえのカンキさんも、
「もうねぇ、お酒の本当のオーガニックってアレしかないわよ! だってね、櫂(かい)入れをしないのよ櫂入れを!」
と大騒ぎしていたものだ。そう、この蔵では「櫂入れをしない、濾過をしない、割り水をしない」という三つの「ない」を実践している。他では滅多にないことだ。ちなみに神吉さん、勢い余ってこの蔵にきっちり取材をされている。
そう、この国には食品に「オーガニック」とか「有機」と名付ける場合は、必ず有機JAS制度という法律に定められた基準を守り、認証機関から認証を取得する必要がある。
オーガニックという言葉の雰囲気を広義に受け取り、よくカフェとかでも「オーガニックフード」というのをみかけるが、本当に認証をとった食品を出す店は少ない。オーガニック認定を取得する敷居は本当に高いのである。しかし、「雪の茅舎」はなんと日本酒で初めてのオーガニック認定を取得したのだ。
■有機米使用清酒認定第1号
有機米使用清酒 雪の茅舎 純米吟醸
http://yukinobousha.jp/organic/index.html
山田錦などの酒米ではなくあきたこまちを使用しているのは、酒米をオーガニックで栽培する農家がまだ日本全国どこにもないからだと思う。しかしながら飯米使用の酒であってもこれはすごい!日本酒のオーガニックを取得するためには、原料米が有機認証を取得していることはもちろん、酒造りに使用する酵母や、その手順などもオーガニックといえるように他と分別されている必要がある。それをクリアして認定を取得したのだからすごいことなのだ。もっとすごいのは、米を栽培しているのは蔵人自身であるという。恐れ入った。
さて引き戸を開け酒蔵内へ。
非常に折り目正しそうな齋藤浩太郎社長が出てきてくださる。
「皆様、遠いところからこんなに小さな蔵へようこそおいでくださいました。」
自己紹介をゆったりとし、「やまけんの出張食い倒れ日記東京編」をお渡ししたりしていると、若おかみさんが自家製の奈良漬けを振る舞ってくださる。
この奈良漬けの漆黒さ加減!
当然、この雪の茅舎の酒粕を使って漬け込みしているのだろうが、実に黒々として、酒粕の香りが粘っこく立ってきそうである。
この粕漬けというか奈良漬けを管理しているのが若おかみさんだという。
どちらかというとまじめ実直という印象の社長にくらべ、若おかみは快活によくしゃべる明るい人だ。
「もうね、家庭の味なんですよこの奈良漬けは!とてもお客様にお出しするレベルじゃないんですけど、、」
どこがですか!凄まじい完成度ですよ!
白瓜の肌の白さが一片も残っていないこの黒々とした奈良漬けのテクスチャをみていただきたい!
奈良漬けを嫌うひとはプウンと香ってくる酒粕の香りをいやがるものだが、よく熟成された粕漬けになっているせいか、香りはおとなしめで、その分、全体的な旨みが濃い。酒からこんなに旨み成分が分泌されるか!という驚きがある。
蔵の中へ案内してもらう途中、「ここで私が奈良漬けをみてるんですよ」という部屋を覗かせて頂いた。
この蔵の奈良漬け、好きな人ははまってしまうこと間違いなしの味である。
さて、天洋酒店の浅野さん、編集者のカンキさんが褒めそやす「雪の茅舎」の生ける伝説といえる杜氏、高橋さんと対面である。
農家で、自分で酒米を作る杜氏。酒造りと農業が一体だったいにしえの伝統を、淡々と守り続けている方である。しかしその語り口は実にわかりやすく、素人にも受け入れられるような説明をしてくださる。希有な方であると感じた。
仕込みの終盤ではあったが蔵内をみせていただく。内部は掃除の行き届いた綺麗なしつらえだ。
有機JASの認証を取得するには、有機製品とそれ以外の製品がきちんと分別管理されていること、そしてそれが可能であるように施設内が整理されていることが必要だ。その認定を取得したと言うことは、この蔵がきわめて整頓されているということを表している。
この麹室、壁がすべて木でしつらえてある。
ステンレスにするか木にするかの選択だったそうだが、木のほうがよいという。
「木は湿気や温度を吸収し、調整してくれるんですよ。長い目で観てもこちらのほうがいいです」
麹には昔ながらの麹蓋を使用としているという。これは、僕が工藤ちゃんとよく見学に行く蔵に共通していることだ。
それにしてもこの高橋杜氏からは、プラスのエネルギーがブワッと放射されているように感じる。明るい気質が酒造りや人との関係性にも影響を及ぼしているのではないだろうか。
これが「櫂入れをしない」タンクである。
「酵母が動いてくれるんですから、櫂を入れてかき混ぜる必要なんてないんです。だからタンクに仕込んだら、うちでは作業終了。具合をみるだけです」
「さあ、酒を利いて頂きましょう」
と杜氏のお部屋に戻ると、利き酒の準備ができていた。
何度も書いていることだけど、酒に関しては僕は門外漢なので、詳細な感想は載せないでおこうと思う。
しかし、個人的に最も食中酒としてセレクトしたいと思ったのは、「雪の茅舎 山廃純米」だ。
ふっくらしたボディに少し酸味を感じ、心地よい。火入れをしてあるので落ち着いた印象がある。この次は例のオーガニック認証酒を試してみようと思う。
それにしても秋田の酒とはなんとも奥深い。
昨今の純米酒ブームでいろんな酒蔵にスポットが当たっているが、造りのおもしろさではこの雪の茅舎は特筆できるのではないだろうか。あとは、もっと燗に合う酒を造ってくれるとうれしい。
「いや 本当に感動しました、どうもありがとうございました!」
と蔵を辞する。
我々の姿が見えなくなるまで、玄関からこちらを見送って頂いた。雪国・秋田県のまっとうな人たちがそこに居た。今年初頭に仕込まれた雪の茅舎、10月以降の秋あがりにどんな味になっているだろうか、それを期待したいと思う。
いやー
秋田県は深い!
今回のエントリ、書き出しからここに至るまで実に長かった!
でも、信じられないことにこの旅は一泊二日だったのだ!!!
マジ? 密度が濃すぎて自分でもよくわからない状態なんだが、、、
■第一回~の過去エントリ
第一回「入船」
第二回 「白瀑」
第三回「グリーン豆腐と天洋酒店」
第四回「喜久水」
第五回「べらぼうナイト!」
第六回「諸井醸造所の魂のしょっつる」
こんな旅ができたのも、秋田県の職員である佐々木一生さんのおかげだ。
僕は、農産物の仕事で各県を回っている。でも、全国どこにいっても言われるのが「うちの県は口べたで、、、」という言葉だ。全県がそんなことを言ってたら始まらない。もう、口べたではすまされない時代なのだ。かといって、広告代理店的手法でお金をかけて売り出すというのも不毛だ。地道に、その県のことを好きになるファンを増やしていくしかない。
その地道で、しかし着実な途を突っ走っているのが佐々木さんだ。今回のコーディネーションは本当に恐れ入った。まだまだ資源がある秋田県。次回は3泊くらいの旅程で、ぜひいぶりがっこ生産風景を見に行きたいと思う。
佐々木さん、そして秋田の皆さん、本当にお世話になりました!
また伺います!
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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