2006年6月 6日 from 出張
(その1から続く)
素晴らしい昼食をいただいた「入船」を出て街道を走る中、すぐに横殴りの雪が降ってきた!さっきまでの細々と晴天がみえていた風景から全く変わってしまう。
「これが秋田なんですよ。最後の旅程まで、気が抜けません。ほんとにタイトロープのスケジュールなんですよ!」
と佐々木一生さんが言う。車は次なる目的地、白神山地のふもとにある秋田県山本郡八峰町八森へと向かう。「山本郡」などという郡があるとは初めて聞いた。しかも、これから訪ねる酒蔵はなんと「山本合名会社」というのである。しかし山本合名会社といってもどの酒だかを分かる人はあまりいないだろう。
しかしこのロゴをみれば、「あっ みたことがある!」と思われるのではないだろうか。
そう、銘酒「白瀑(しらたき)」を醸すのが、この山本合名会社なのである。
ちなみに僕は昔、この”瀑”という漢字を何と読むかわからず「しらばく」と読むかなぁと思っていた。「ナイアガラ瀑布」というからね。お恥ずかしい限りである。
車は八森に入るが、もう視界がほとんど1メートル程度しかなく、超危険。しかしさすが秋田地元民である佐々木氏、無事に山本合名会社まで到着である。
玄関を開けると、事務室から職員の皆さんが「おー 雪ン中ようきてくださいました」と声をかけてくださる。
「ほんとうによくおいで下さいました」
とにこやかに穏やかに迎えてくれたのが、山本常務だ。
「やまけんさん、彼は実は東京のレコード会社で働いていて、あの○○○○○○の担当だったんですよ。」
と聞いてびっくり!まじですか!?
「ええ、そうなんですけどね。いろいろとこの酒蔵をどうしようかという問題があるなかで、帰ってこようと決心しまして、、、」
というこの山本さん、僕と同期の35歳であることが判明! なんだか食い倒れ関連で色んなところを廻っていると、同期の桜が頑張っているのをよく目にする。とても嬉しいのである。
さて蔵の中をみせていただく。ちょうど洗米をしているところだ。
「うちは最近、杜氏が交代したんです。前の杜氏も非常に有名で実力の高いかただったんですが、新しい古内杜氏は若くてチャレンジ精神があり、色んなことを試してくれています。とても面白い状況になってきているんですよ!」
滅法冷えた空気がシンと満ちた空間の中に、限りなく清浄感あふれる水が湛えられたタンクがある。
これが白神山系の水だ! 思わず柄杓から呑ませていただく。 キンと冷えたその水をしばらく口の中で転がしていると、期待していた以上に柔らかく、そしてほのかに甘さが感じられる。
よく天然の湧き水を呑むと「甘い」という表現が出てくる。糖分としての甘さなのかは分からないが、本当に舌の味蕾に甘さのような感覚が呼び起こされるのだ。含まれているミネラルの組成が細胞レベルで反応するんだろうか、確かに甘いのである。
居酒屋伝道師である工藤ちゃんも一気飲みだ。
「いやぁああ、柔らかいですねぇ、、、だからあの白瀑の酒質に結びつくんだなぁ」
とブツブツとつぶやく工藤ちゃん。
蔵の若衆はビシッビシッとした所作で働く。こんにちはと声をかけると折り目正しく、そして迅速に「こんにちはっ」と声が返ってくる。仕事中だからと思い邪魔をしないようにしていたのだが、新しい杜氏の古内さんと目が合うと目礼をしてくださる。まさに男の現場である。
「じゃあ、上に行きましょう」
と、麹室などをみせていただく。と、麹室の脇に積まれたものに目が行く。広島の竹鶴酒造でもみた「麹蓋(こうじぶた)」である。
「これも杜氏の発案なのですが、麹蓋を使って麹をつくってみようということなんです。結果は良好ですね」
麹室の中には入ることはできないが、切り返しされた麹があたたかく布にくるまって静かに醗酵を進めているところを覗かせていただいた。
こうしてつくられた麹と、蒸し上げた米と合わせてタンクに仕込まれるのである。
このタンクを下から見たのがこの風景だ。
「ちなみにうちは、ボトリングを手でやっているんですよ、、、大変な作業なんですけどね」
と山本常務が連れて行ってくれたのが、倉庫スペースの横で、4合瓶に酒を注入し王冠を締める道具のある作業場だ。
「こうやって中身を詰めてから、この機械でキャップを締めるんです」
なんとこうやって手作りで作られていくのだ、酒は。
僕はいままで数軒、こうした地方の小さな酒蔵を廻らせていただいているが、そのほとんどがこうして自分たちの手でボトリングし、ラベルを貼っていた。大メーカーならともかく、多くの酒や調味料がこのような世界なのだ。ジーンと来るではないか!
さて肝心の利き酒である。すっかり冷え切ってしまっているので冷や酒がかなりこたえるのだが、白瀑の生酒の酒質を一言で言うなら、「八森の水の味!」といえるだろう。徹底的に柔らかく、甘い香りだ。これは甘口の酒ということを言っているのではなく、酒質のベースとなる水分の質がそうだ、ということである。
工藤ちゃんもその清らかな酒質に感動しながらつぶやく。
「そうですね、白瀑は燗よりこのまま冷やか常温でいただくのがいいですね。綺麗なお酒ですよ!」
まったく。「綺麗」ということばがこれほどに合う酒はないだろう。
「やまけんさん、今夜、能代市内で飲み会をやりますけど、そこに山本常務も参加してくださいますから。」
ということでいったん酒蔵を辞する。山本常務の実直そうな、八森の水のような印象を与える顔が忘れられない。
そして先日、嬉しい知らせが届いた。全国新酒鑑評会にて、この白瀑が2年連続の金賞に輝いたという。山本さん、おめでとうございます!
「さてやまけんさん、次はこの八森が全国に誇る豆腐を食べにいきましょう!」
(つづく)
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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