2006年4月 7日 from 食材
標題の件については最近いろいろと動きが多い。しかし相変わらず報道を観ると、解釈の微妙なものがあったりするので、私見を書き連ねておく。
■食品安全委員会 プリオン専門調査会の委員の半分が退任
Web上でもいろいろと記事があるようなので、詳しくは引用しないが、日本の食品安全についての専門調査・諮問機関である同委員の調査会の半数が退任した。そのほとんどが輸入に対する「慎重派」とされることから、米国産牛肉の安全性の審議の経緯について不満があった人達が辞めた、また辞めさせられたのではないかという憶測が一部であるようだ。
ちなみに本日7日付けの日本農業新聞紙上で、退任した山内一也東大名誉教授が「私たちは、官僚が敷いた輸入再開へのレールから降りられなかった」としている。また、答申の内容で、アメリカ側で輸出条件が遵守されると仮定すれば国産とのリスクは非常に小さいとされているが、委員会としての科学的な結論はあくまで「リスクを評価することは困難だ」というのが科学的な結論だとしている。やんわりと、政府やマスコミも含め、あたかも「安全性が確認された」という風に解釈されたことを批判しているわけだ。
この発言に対して、同委員長である寺田氏が「あとからそんなことをいうのは、それはおかしい」と表明しているようだ。
基本的に、何かを審議する委員会というところは全員が同じ傾向であっては意味がないわけで、様々な視座・知識を持った人達が多角的に議論を行うから意味がある。そういう観点から言えば、意見が分かれるというのはある意味健全と言える。しかし今回は6名が退任してしまったわけで、ちょっとゾッとしてしまう。何にゾッとするかといえば、世に出された答申の内容は、あれで本当に大丈夫なの?という点での「ゾッ」と、もう一つはこれから人選されるであろう新しい委員の人達が「慎重派なのかそうでないのか」ということだ。これについては、食品安全委員会からのアウトプットを分析しながら検証していくしかないだろう。
■アメリカで家畜のトレーサビリティシステムが導入されるというが、、、
アメリカのジョハンズ農務長官が、2009年までにNational Animal Identification System (NAIS)を導入するというリリースを出した。字面からするに、日本における牛の個体識別データベースのように、家畜の出生・移動・死亡歴を記録するものだろう。
いちおう僕はトレーサビリティの専門家ということになっている(笑)ので、これには大いに関心がある。が、気になるのは、共同通信などが同リリースについての記事を日本語で「2009年までに完全導入」と書いていることだ。「完全導入」という言葉は、なにも気にせずに読むと「米国の全ての家畜にトレーサビリティが適用される」というように感じないだろうか?(感じない人ももちろん居るだろうが)
実はそうではなくて「システムが完全に稼働するのが2009年」ということであって、2009年に全ての家畜のデータが揃うということではないのだ。実際には、家畜の情報を登録するかしないかは、当面は義務化せずに任意で実施するようだ。
アメリカでは畜産団体がかなり政治的に強く、しかも牛の個体識別には膨大なコストがかかるため、トレーサビリティには反対している団体が多い。その人達がたかだかあと3年のうちに、義務化されているわけでもないのに全家畜を情報登録するだろうか。かなり難しいのではないかと推察する。法律で義務化することになったら米国もいよいよ本腰を入れるのかと評価できるのだが、、、
ちなみにご存じだろうが日本では牛については全頭の個体情報の登録が義務化されている。
これについて日本はよくクレージーだと言われるが、ことこの問題についてはクレージーでもいいんじゃないだろうかと僕は思う。少なくともアメリカに対してきちんと非を問うことができるからだ。
アメリカの輸出産業はマーケティングが巧く、世論を導くリリースや広告などを多用する。というか日本がそういうのがヘタなんだけれども、すくなくともこの記事において僕が懸念しているような記事の誤読がないことを祈る。
ちなみに、しばらく前にアメリカのある中堅食肉業者が、自分の出荷する牛肉について全量BSE検査を実施しようとしたところ、国からダメを出されたという事件をご存じだろうか。「お前だけそんなことやったら国全体でやらなきゃいけなくなるだろ!」ということだろうか。この食肉業者は果敢にも農務省に提訴した。
それと、よく「牛肉の安全性についてこんなにウルサイのは日本だけだ」ということを知ったかぶる人が筆者の周りにもよくいるのだが、全然そんなことはない。お隣の韓国では、米国で発見された3頭目の患畜について、米国がその年齢さえもきちんと調査を出来ていないことに憂慮を示している。
ということで
マスコミがあまり採り上げなくなったからといって、BSE問題はなくなったわけでは全然ないのだということでした。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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