2006年3月16日 from 出張
午後から商工会議所の方々に講演。皆さん真剣に聴いて頂いた。やっぱり問題意識は北でも南でも一緒なんだなと思った。その後、種子島ではピカイチという鍛冶屋さんを覗きつつ、夜飯に移る。例によって腹はほとんど減っていないのだが、、、
場所は、ここも種子島内のキーパーソンが集まるという居酒屋「串まさ」。
ただし、串まささんの料理を堪能する会、ではないのであった。
「地元の婦人会で、種子島の食材で郷土料理を作っている会があるんですよ!今日はそこから料理をつくりにきて頂いてるんです」
厨房内にいる、割烹着すがたのこのお母さんがそうらしいのである。
「今日はね、うちらの代表が他の用事でいないのよぉ。だから私じゃあんまり説明できないんだけどごめんなさいね」
とおっしゃるがなんのなんの。実に素晴らしい切り盛りで料理を楽しませて頂いたのである。我々がビールを飲んで談笑して横で、ドンドンドンドン!と種子島の食材を創意工夫した料理群が並んでいくのだ!
まずは鹿児島を代表する魚、キビナゴ三連発である。
■キビナゴの串焼き
■キビナゴの甘辛揚げ
■キビナゴの南蛮漬け
種子島で使われるキビナゴは、鹿児島本土で料理に使われるそれよりも若干大きめのものらしい。
「その方が、味がダイナミックになるんですよ!」
いただいてみると、確かに小さなキビナゴの頼りなさ、はかなげなさとは対極に、一つ一つの要素がくっきりと浮き出てくる、骨のある味だ。タレに漬けて唐揚げにするような濃い味のものでも、ガシッと魚自体の香りが立っている。
■トビウオのテリーヌ
この、ぎせい豆腐のようなつくりのテリーヌがまた佳い。高タンパクにして低カロリーな、非常に健康にいい料理ではないか。
■(料理名忘れました。いずもとさん西さんコメントで教えてください!)
昼の「珊瑚礁」でも食べた、干し大根を戻して酢でナマスのようにしたものと同じだと思う。鹿児島の甘い味付けを酢の酸がキリッと引き締めるのだろう。
■フカ(さめ)の干した肉を揚げたもの
サメを食べる文化が種子島にもあった!
皮の表面のギニッとした少し堅い食感と、身肉のシットリとした食感のコントラスト、以外に淡泊な味わいがナカナカに面白い。
■唐イモの唐揚げ
これが実に出色のできばえだった。
ホッコリと上がった芋は、予め味が付いているのだろうか、甘辛いような味付けであった。
芋を素揚げするのではなく片栗粉をまぶして揚げられているだけでなんでこんなに美味しいのか?鰹節をまぶしていただくこの料理、長いもや里芋などでも美味しそうだ。感動。
元気な料理家のお母さんの話を聴きながら、種子島の郷土料理シーンは、伝承をそのまま受け継ぐだけではなく、きっちりと時代に合わせた新解釈・新郷土料理を創造しているのだな、と感じ入った。最終日前の夜にこういった食事を催してくださるあたり、水先案内人の西さん、いずもとさんのセンスを感じてしまう。
ちなみにこの日も色んな人が集まった。
この方は茶農家の下嶋さんだ。
種子島といえば、日本で一番最初の新茶が摘まれる地だ。茶農家さんも当然ながら多い。しかし彼の話によれば、いまその茶畑密集地帯に産廃工場が建設されてしまいそうな動きがあるらしい。
「個人では動きようがないんですが、有害物質の問題などがあって、我々茶農家は反対なんですよ」
今後、当該の人をどのように呼び込むかを考えなければいけない種子島で、資源を潰してしまうような動きをしているというのが非常にアンバランスだ。現在反対署名運動などが展開されているそうだが、撤廃されることを祈っている。
さてこの日一番感動した一皿がこれである。
「これはね、黒糖のムースよ!」
ムースというよりブラマンジェか?
「前日の夜に小鍋に少し水を張って、その中に固形の黒糖をつけておきます。朝になったら水を吸って溶けてますからね。それを火にかけて、生クリームを入れてゼラチンを溶かして固めるだけ」
それだけなのに、このとてつもなく奥深く気高い風味はなんだろう!?
ダイナミックレンジの広い雑味成分。甘み、酸味、渋み、苦みなどが全て微量に、絶妙なバランスで舌を優しく刺激する。とてもじゃないがグラニュー糖では出せない味だ。素晴らしかった!
宴も終わりの頃、一旦はお帰りになった料理家のお母さんが、タッパーを携え帰ってきてくれた。
「これも食べてもらおうと思って!」
これは紫芋のきんとんだ。
鹿児島では、アントシアン色素を多量に含んだ紫芋が多く育種されているが、それを使ったものだ。
そしてこの一品にとどめを刺された。安納芋のポタージュだ。
人参とセロリをバターで炒め、安納芋を入れて牛乳などで煮てミキサーにかけたものだそうだが、この豊饒な旨味、甘み!
「安納芋が甘いから、玉ねぎは入れない方がいいのよ。甘くなり過ぎちゃうからね!」
本当にそのままで十分に甘みの強い、ふくよかな力強いポタージュであった!
いや、脱帽である。良いもの、いい動き、そしていい人の顔を見せて頂いた。
さていよいよ明日は種子島最終日である。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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