2006年2月 6日 from 出張
熱狂の一夜が明けた朝、はっきりいってかなり眠い。10時にはロビーに昨日空港に迎えに来てくださった面々(町会議員センセイ、Uターンサポートセンターの西さんご夫妻、鍼灸士のいずもとさん、ボディーガードさん、カメラマンさん2名)が揃っている。なんで種子島ではこんなにたくさんの人が出迎えてくれるのかというと深~い事情があるのだけど、それは内輪の話なので割愛させて頂く。
さて本日は種子島内をかなり自由奔放に飛び回る設定で、午後に商工会議所にて講演をすることになっている。
「まずは直売所にでも寄りましょう!」
と、中種子町内の直売所へ向かう。
ちなみに種子島は縦に長い島で、北から西之表市(にしのおもてし)、中種子(なかたね)町、南種子(みなみたね)町という3つの市町から成っている。とにかく鉄砲伝来とロケットが有名な島だが、それ以外にも特色が多い。例えば観光スポットとして奄美大島や屋久島があるが、それらと大きく違うのは山がないということだ。島内で標高が一番高いところでも282メートルしかないらしい。従って平地が多く、農業には向いている。ただし凄まじい風が吹くため、時期が限られるのが難であり、主作物はサトウキビやサツマイモ、茶といった耐性の強いものになる。
「ここが中種子の直売所です!」
ここ数年で全国的に巻き起こった農産物の直売所ブームだが、実際これによって地元の兼業農家の副収入的な位置づけが期待でき、盛り上がっている。
野菜には特にみるものがなかったが、沖縄同様、島らっきょうが出ていたので夜食用に一袋買う。それと、地元のお母さん達の加工グループによる瓶詰めの焼肉のタレがいかにも旨そうだったので買い求めた。りんご、バナナ、玉ねぎなどフルーツと野菜をたくさんすり下ろして味噌や醤油などを加えたタイプのものだ。旅に出るなら、こういう直売所は必ずチェックするといい。僕は旅先(出張先)では必ず地域のスーパー(全国展開している大手ではダメ)の調味料や惣菜コーナーを物色するが、直売所はさらにディープに、地域の食文化が反映された世界観を堪能できる。
さて一路西之表市に向かって北上する中、ふと運転してくださっていたIターン組のM氏が「ここがね、ちょっとやまけんちゃんにみて欲しいスーパーなんだよね」と言って車を停める。
「浜上(はまがみ)ストア」というこの店、どこにでもありそうな小さな万屋(よろずや)的佇まいだ。
「ここにはね、生け簀があるんだよ~!」
生け簀か、魚が売りなのね。
店に入り、惣菜や野菜のコーナーを眺めるが、とりたててみるものはない。ふうんと思いながら鮮魚コーナーをふらりと廻ってみて驚いた!
マジでスゴイ生け簀だ!デカイ水槽に多種多様な魚の入ったコンテナがずぶずぶと放り込まれ、さながら水族館状態である!
「この店にはね、種子島内のおもだった料理屋からの注文がくるんですよ。だから港に揚がった一番いい魚がここに来るんです!」
へええええええええええ
ちなみに生け簀の脇には魚を捌く部屋があり、そこにはなんともひょうひょうとした顔のおっちゃんを先頭に4人の男女が、素晴らしい手際のよさできっぷよく魚を捌いていた。
その足下には大型の魚がまだビチビチとはね回っているではないか!よく見るとどの魚も血を流している。この時点で血抜きをしているわけである。そりゃ鮮度がいいはずだ!
そしてその部屋の手前の氷蔵ケースの前にドンと置かれたトロ箱の中に、何か僕の目に主張してくるものがある。
ん? これは、、、
この中央にある魚はもしや!?
首折れ鯖ではないかぁああああああああああああああああああ
トロ箱3分の2くらいの長さの鯖の、下方にある首がベコンと折れ曲がり、鮮度の高さを表す深紅のエラが覗いているのが分かるだろう。この地方特有のゴマ鯖を、水揚げ後すぐに首を折って脊髄に針金を通し、鮮度を保持したものだ。
「これは屋久島近くの沖で揚がったやつですね」
うおおおおおおおおおおおおおおおおお
青魚好きの僕としてはちょっと身の毛が立つほどの興奮である。
ちなみに首折れ鯖の右側にあるのはミズイカ(アオリイカ)だ。こんな素晴らしい魚がどんどんと置いてあるのだ!
ぐああああああああああああああ
悶絶である。
スケジュール的にはそろそろ次の地点へ向かわなければならないのでゆっくりはしていられない。
でも食いたい!
でも捌いて刺身にして、醤油を買って、んーーーーーーーーー どうしよう!
「おっちゃん、刺身にしてくれたりするの?」
「おお、いいよぉ!醤油もわさびもあるからよ!」
ま、マジ??
あとの問題は価格である。
首都圏では滅多に食べられない首折れ鯖。おそらく料理屋に行けば半身で2000円くらいはするんじゃないだろうか。うーん しかしぜひとも食べたい! しょうがない一匹2500円以下だったら食べようじゃないか!
「おいちゃん、この首折れ鯖、いくらくらいで刺身にしてくれるの???」
「えーとね、これはちょっと大型だからな、、、」
うーんとちょっと考えたおっちゃんが、次の瞬間に大日如来のごとき後光を発した。
「えーとね、通常は700円だけど、これは900円。」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
ドンッ!
シャッ!
ツーッ
スッスッスッ
と、おっちゃんの真横の特別リングサイドで撮影しながら驚倒! みてくれこの切り身の長さ!
都内の料理屋でチロッと出てくるようなケチなもんじゃない!
しかも半身ではなく一匹分なのだ!デカイ発泡スチロールトレイにギッシリと首折れ鯖の刺身が並べられる!なんと壮観な光景なのだろうか!もう、下半身がくがくの興奮状態である!
刺身醤油とわさびを付けてもらって、生け簀の水槽の脇にのせて食べさせてもらう!
「いただきまあああああああああああああす!」
みてくれこの美しい、透き通るようなゴマ鯖の身を!
ちなみにこのゴマ鯖に合わせるのは当然、鹿児島でスタンダードな甘い醤油である。醤油に甘草エキスやサッカリンなどが入った甘い醤油を嫌う関東の人が多いが、僕はこれも大好きだ。その地域でその味があるということには絶対に意味がある。それを味わずに、その地に来たという実感がどうしてもてようか。
醤油にまぶしたゴマ鯖の身を二切れ一度に口に放り込む。
トロリととろける、、、ではない!
モッチンモッチンとした、強くヤワヤワな弾力に満ちあふれた食感である!
タンパク質がまだ分解していない、本来の鯖の身が持つ弾力が身を支配しているのだ!
これが鯖だとすると、いつも食べている鯖はすでに加工品と言ってしまった方がいいと思うくらいの素晴らしい食感である!
ぐわああああああああああああああああああ
同行の皆さんにも奨めるが、みな一切れつまむだけである。ということは僕が箸で一度に4切れくらいガバッと食べないと終わらない!っていうかそういう理屈でとにかく食う!
こんな贅沢が他に在ろうか!?
もう最高である!
鮮度抜群の首折れ鯖を一本丸ごと、これだけで腹一杯になるくらいたべて900円である!
このためだけに種子島に来ても良いではないか!
しかもこのひょうひょうとした浜上のおっちゃんが最高である。
「うちの息子がよ、六本木で店やってっから、もしなんなら顔出して」
とくれた名刺は「春夏秋冬」という六本木の店のものだった。今度いってみようか。
ちなみに探してみたらなんと浜上ストアは、干物の通販をしている!
■浜上ストア
http://seitengai.com/hamagami/
さすがに鮮魚は買えないが、トビウオのあの濃厚い美味い干物が買えるのである!いや素晴らしい。
おっちゃんや店の人達に御礼を言って、車に乗る。朝のけだるさは吹っ飛んだ!
「やまけんさん、次に行く場所もまたディープなんですよぉ、、、」
旅はマダマダ始まったばかりなのだった。 (つづく)
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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