2005年9月21日 from 食材
とうとう念願が叶う。大分県から講演の依頼をいただいたのだ。実は、僕の人生の中で、47都道府県中まともに足を踏み入れてないのは大分だけなのだ。ようやくこれできちんと大分にいける。
九州は柑橘が沢山採れる地であるわけだが、大分といえばカボスの大産地である。カボスと言えば秋刀魚。目黒で開催された秋刀魚祭りのために県の担当者さん上京されていたので、事務所に挨拶にきてくださった。
手みやげはもちろん、カボスである。一箱がっちりといただいた。家に帰って箱を開けると、濃緑色のゴルフボール大の見事な果実が眼にとびこんできた。思わず、自分の部屋に作った野菜撮影セット(笑)に駆け込んで「綺麗だね~ 綺麗だよ~」と声をかけながら撮影しまくってしまった。
最近はカボスとスダチとユズの区別が付かない人が多いらしいのだが、それぞれ全く個性の違う柑橘なので注意。この時期のカボスは強い香りを保っており、数滴料理に垂らすだけでその存在感を主張するのである。
皮の濃緑色とコントラストを成す輝かんばかりの黄色の果肉には、みっしりと果汁が湛えられている。果実はパンパンに張って、意外にズシッとくるので驚いてしまう。
さてこの緑色のカボス、実はまだ未熟果というか、若い段階でもいでいるカボスだ。カボスは緑色の果実と思っているひとがけっこう多いのだが、これはまだ若いから。樹に生ったまま置いておくと美しい黄色になるのだ。枝豆が実は大豆の未熟果で、そのまま収穫せずにおくと大豆になるのと同じである。でもカボスの完熟果については、産地の外では意外に知られていない。完熟したカボスは、緑色のカボスの強い香りは押さえられるものの、その分果汁の深みとまろやかさが増し、様々な料理に使えるようになる。その辺の詳しいことは昔書いた通りだ。
■熟成カボスのまろやかさを知ってますか
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2003/12/post_107.html
この熟成カボス、出荷元さんにお願いしてフレンチの名店カストールに送ってもらったら、藤野シェフが気に入って、毎年取り寄せてカボスパイを作るようになってしまった。レモンパイの数倍旨い!と即採用したそうだ。そういえばカストール、代々木上原から京橋に移転して、9月にオープンした。今度じっくり紹介したい。カボスパイは1月くらいに入荷してから、だそうである。
さて 熟成カボスになるまえの緑色のカボスは、とにかく香りを楽しめるので「香りカボス」という。とはいっても、魚の塩焼きにかけたりする以外に何を楽しめばいいのかと思う人もいるだろう。地元では、カボスの果汁が一升瓶で安く売られていたりするので、それを使ったお寿司などが一般家庭でも作られているのだが、さすがに首都圏ではそれは高くついてしまう。
そこで最も簡単なカボスの楽しみ方を紹介しよう。これはぜったいに誰の家でもできる!
それは、、、
味噌汁などの椀物ににカボスを絞り入れるのである!
まあだまされたと思ってやってみて欲しい。味噌汁のコクに華やかな香りと酸味が加わり、全く違う世界観が現出されるのである!これはもうやみつきになるはずだ。県庁の方にも「早速味噌汁に絞って楽しみましたよ!」というと、ニマッと笑って「よくご存じですね!」とおっしゃっていた。大分ではどこでもやっていることなのである。
富良野の「富川」の持ち帰りラーメンでも試してみた。この日のは味噌ラーメン。富川の持ち帰りラーメン、調味料も麺も完全オリジナルで激旨だ。ここにカボスを絞り入れる。
結果を待つまでもない、素晴らしい!
ラーメン屋にお酢が置いてあるのでスープにいれると、サッパリして飲みやすくはなるが、酢特有の醸造香が立ってしまって、完成されたスープの世界観が崩れてしまうことが多い。これはお酢が非常に完成された世界観を持つ調味料だからだ。酢を入れるのであればそれようの設計をしたスープでないといけないわけである。
けれどもこうした柑橘であれば、醸造していないので味の組成がもう少し単純化されていて、料理の世界観を打ち壊すことがない。しかも料理の味を引き立てるばかりである。レモンのような破壊的酸味ではないので、素材の味によりそうのである。
香りカボスが楽しめるのは今の時期が最高だ。秋刀魚を買うなら、その手にカボスも買い求めよう。そして数個はぜひ味噌汁に絞り入れて欲しい。使い方が拡がること間違い無しである。
「酸」は重要な味の一要素なのである。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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